十四話 一日
やまねが起きるまでの一幕。平原にて
サリは一旦、書庫跡に向かっていった。
「なあ、谷口。」
「?どしたの。」
「お前、やまねについて何か俺に隠してる事があるだろ。」
「………。」
谷口は黙る。
「たしかに、やまねは強いのは知っている。でもあんな事をする奴じゃない。」
「……城内も見たのかい。」
「まあな…酷いもんだったよ。」
山崎は続ける。
「あれは、一体…誰だったんだ?」
「…今は…言えない。」
「そうかよ。」
山崎はあっさりと引き下がった。
谷口は目を丸くする。
「…君の事だ。てっきり私を殴ってでも、情報を引き出そうとしてきそうなものだと思ったんだけど……」
「酷い言われようだ。そんな事をした事があったか?」
「………。」
ジト目で山崎を見る。
「…お前が俺に気を遣ってくれてるのは分かる。でもお前は1人で物事を抱え込み過ぎだ。少しは、荷物をこっちに分けてくれてもいいんだぜ?」
「……!」
山崎の言ってる事は正しい。実際、そうすべきだと思う。だけど、しかし………決めた。
「…約束しよう。元の世界に帰れたら、全て、教えてあげよう…………後悔しないでね?」
「あん?後悔??しねえよ。」
「ちなみにこれは興味で聞くんだけど…。」
「何だ?」
「君とあの時のやまねちゃん、もしタイマンで戦ってたら、どうなってたのかなってさ。」
「ああ、そんなの俺が負けるに決まって………はぁ!?」
(…何で、負けると思った?この俺が??何かが引っ掛かる……おかしい。何だこの感覚は。)
「そっか。」
谷口は納得したように頷いた。
「…絶対に教えろよ。しなきゃ……殺す!」
「はいはい……おっ。やまねちゃん起きたよ。行こ!」
「おい待てよ、谷口!」
2人はやまねの元へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー良い夢を見た気がする。
目をこすり、体を起こし周囲を確認する。
そこには………
「起きたか。」
「おはよっ、やまねちゃん!」
山崎と谷口がいた。
「確か、お城に行って……それから…。」
…記憶が朧げだ。
「何があったの?…教えて。」
「…谷口。」
「分かってるって。じゃあ言うね。」
谷口は、事の顛末を語る。作戦は成功したという事や4人とも無事だという事……ただし、やまねのあの状態の事は除いて。全て語った。
やまねは真面目に聞き、納得した様だった。
「そうだったんだ…今はどういう状況なの?」
山崎は頭をかきながら答える。
「サリを待ってる。」
「それにしても遅いよねー。早く話を聞きたいんだけど……。」
やまねは首をかしげる。
「…話?」
「サリ君が私達3人に話しがあるってさ。」
「まさか、殺し合い、」
「頭バトルジャンキーじゃないんだから大丈夫
でしょ。で、ちょっと残念がるなよ。君はそうやって、すぐに戦いに持ち込む所、大人になるまでに治したほうがいいと私はそう思うな。」
「ハッ。言ってろ…ところでやまね?」
「何?聖亜くん。」
「何で、さっきから谷口から目を背けてるんだ?」
「……。」
やまねは静かになった。谷口とは別ベクトルのKYである山崎は言葉を続けようとするが、谷口が止める。
「あの〜山崎君?」
「いや、お前だって気づいてたろ。ずっと目をそらしてんの。」
ため息を吐きながら、山崎はやまねに近づく。
「せ、聖亜くん?」
「言いたくないのは分かる。けど、教えてくれないか?……この通りだ。」
山崎は深く頭を下げる。やまねはその姿に少し戸惑っている。
「頼む。これ以上、不安要素は残したくないんだ。」
その姿はまさしく真剣そのものだった。やまねの頬が心なしか赤くなっていく。
「で、でも……」
「もしや、谷口に口止めされてるのか…なら俺が!!」
「!?待って待って、違うって!やまねちゃんに限ってはそんな事しないよ!?!?」
山崎が谷口に対して臨戦態勢をとった。その時、小声でやまねは呟くように言った。
「谷口くんが…」
「あいつが、何だって?」
少し静寂が満ちるが、すぐに破れた。
「僕と…け、結婚を前提に……付き合ってって言ってたの…谷口くんを見て、思い出しちゃって…………。」
恥ずかしそうに、掠れた声で言い切った。
……山崎の目の色が変わるのを感じた。
「よし分かった!………殺そう。」
「っ!?落ち着け山崎!は、話せば分かる!」
「問答無用!!」
谷口が全力でこの場から逃げ出そうして、それを山崎が追おうとした瞬間、声が聞こえた。
「はぁ……我がいない間に、何をしておるのだ貴様ら。」
「サリ君助けて!!このままだと私、山崎君に殺されちゃうよ!?」
サリは辺りを見渡し少し思案した後、言った。
「…5分間待ってやる…それでいいな小僧?」
山崎は笑う。
「悪いなぁ、サリ。すぐに終わらせるから。」
「ーーーーーーーーっ!?」
谷口は全てを察し、全力で駆け出す。
あの戦闘狂から……5分間生き残る為に。
谷口にとっての最終決戦がここに始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「満足したか?小僧。」
「ああ、満足だ。」
満面の笑みで山崎はそう言った。
「だ、大丈夫?谷口くん??」
「何とか…生き残った。」
「…ごめんなさい。僕が言っちゃったから谷口くんは、」
「いいさ。もし百人に聞いても、間違いなく全員に私は『変態セクハラ野郎』のレッテルが貼られるだろうからね。」
谷口は大の字に倒れていた。サリは3人を見て、
改めて話を始めた。
「…単刀直入に聞こう。貴様ら、このままこの世界に残らないか?」
答えは初めてから分かっていた。案の定、予想通りの答えが返って来る。
「断る。」「嫌だね。」「無理です。」
「フハハ……そうか。」
でも、と山崎は言った。
「一日だけ、帰る時間を延ばしてもいいか?」
「…僕からもお願いします。」
「2人とも〜奇遇だねぇ。私もそれ、賛成だ。」
意外な返答にサリは少し戸惑う。
「…何をする気だ?」
3人は同時に言った。
「野暮用だ。」
「償いに。」
「賭けの清算だよ?」
本当に……こいつらは面白い。
「良かろう…では転移魔法で送ってやる。場所はどこだ?」
やまねと山崎は答えた。
「「ハラハの町で。」」
魔法陣が展開し始める。
「一日が過ぎ次第、ここに転移するように術式を組んだ。」
「すまんサリ……服を出してくれないか?」
「僕もお願いします。この姿じゃ……」
展開を維持しつつ、サリは2人の姿をよく見ると。ボロボロのシャツを着た山崎と、血とかでズタズタになったワンピースを着ているやまねの姿があった。
「…服の指定はあるか?」
「僕は制服で。後、ヘアゴムがあったらそれも出してくれませんか?」
「俺は…あの燕尾服を頼む。」
サリは何処からか袋を取り出して、渡した。
谷口が茶々を入れてくる
「燕尾服なんだ。へぇ〜〜そうなんだぁ。」
「…黙れよ。」
少し脅したら黙った。さっきの事がトラウマになっているのだろう。
「では行くぞ!」
転移する間際、中身を見て焦った表情をした
やまねが、
「!?っこれ、制服じゃなくって…メイド」
と言って、山崎と一緒に転移していった。サリが口を開いた。
「道化、小娘が何か言っていたが…」
「気のせいでしょ。聞き間違いさ☆」
「なら……いいが…」
「別に、八つ当たりとかじゃないんだからね。勘違いしないでよねっ!!」
「貴様……」
魔王にツンデレは通用しなかった。
「で、道化。貴様はどこに行く?」
「私はここでいいよ。……出来ればサリ君にはこの平原から出ていって欲しいな。」
「……ほう。この我に命令か?」
「命令じゃないよ。…親友としての頼みさ。」
サリは考えるまでもなく言った。
「いいだろう道化。貴様の口車に乗ってやる。」
そう言い残し、転移魔法でどこかへ消えていった。
………平原にはただ谷口が残された。
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