十三話 友情

(一騎打ちするって言っちゃったけど……。)


改めてやまねを見る。


体中血だらけで、一見、瀕死に見えるがその血は全て、城内にいた人達の返り血である事を谷口は知っていた。


(さて、どうするか……。)


方法は……一応、ある。


(問題はどう隙を作るか…か。)


身動きを取ろうと動けば、確実に殺される。

今は奇跡的に膠着しているが……。


「…ん?膠着??」


つい言葉が漏れてしまった。咄嗟にやまねの方を見る…………玉座の柱の紋様をみて目を輝かせていた。


ホッと息をついた。……また思考を再開する。


(私の知る『あの』やまねちゃんなら、)


一度やると決めたら、話も聞かず情けも容赦も無く今頃、私は殺されている筈。


(じゃあ何で私まだ生きてるんだ?でもこのやり口、どっかで……。)


ーー何もしなければ何もせず、相手に少しでも敵意や殺意が見えた途端、それを排除する。


少し考えて…………一つの解答を得る。


(あぁ。そういう事か。)


……あれは、やまねではあるが厳密には違う。


(実際に見なきゃ、分かんなかったかもね。)


あの対人に特化した殺戮技巧はやまねのもので間違いない。だが、中身が違う。


(そうなった原因は………。)


十中八九、魔王の加護だろう。


(サリはあくまで、身体能力が上がるだけって言っていた。でもそれは、)


魔物や魔族に限った話だ。人間の場合はどうなるか分からない。というか、


(私が魔法を発現している以上、サリの発言は破綻している。でもこれはおそらく……)


——自身が抱く願望によって変化する。


(私が「異世界だし、魔法使いたい!」とか思ってたから魔法が使える様になった。のかな?)


その場合、山崎はサリの言葉を馬鹿正直に信じた結果、身体能力が向上した事になる。

…詳細は後でサリに聞いてみよう。


(だとしたら、やまねちゃんは…………。)


KYを自認している谷口にも、やまねの願望は理解できていた。


ただ——お姉さんに会いたい……と。


異世界に来る前からずっと思い悩んでいたではないか。来た時は色々とバタバタしたけど、心の片隅には、ずっとその想いがあったはずだ。


一度目にやまねに魔王の加護を付与した時。暗い中、山崎が顔を伏せる中。谷口は薄目で見ていた。…暗闇の中でもよく見える長い白髪を。


(……魔王の加護を媒介にして顕現している。)


やまねには魔力が無い。サリが特にそこを言及していないので間違いないだろう。故に、代替品として、魔王の加護を魔力のように消費する。もし、顕現する程の魔王の加護が無かったら………。


(今のやまねちゃんのように、侵食される。)


『あれ』がやまねの心の内側に侵入して、人格ごと混ざり合っていると言ってもいい。


だとしたら…………簡単だ。


「おい!!」

「………ん」


やまね(?)は谷口の方を見る。

恐怖が体を支配する中、噛まない様に気をつけて…言った。


「…ずっと前から、好きでした!…結婚を前提に付き合って下さいっ!!!」


やまね(?)は唖然としながらも、その言葉の意味を少しずつ咀嚼し理解していき…………顔や耳やらが真っ赤になる。


「…えっ。ええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」


この姉弟に共通する点……それはド直球な好意的な言葉に慣れてない事である。事実、


「えっ、その、あの、どどうすすればば…」

「君の全てを………理解したい。(キリッ)」

「〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ////」


こんなクサいセリフでもここまで刺さる。


……普段のやまねなら日頃の仕打ちで、ある程度の耐性はある……だが今は違う。姉弟の人格同士が混ざっている以上、耐性は無効化され、ダメージは2倍。要するに、


(超絶チョロい)……という事だ。


「あのっ!そのぅ……まだ…そう言うのは…早いと言い…ますか……」

「ごめん。そうだね……じゃあ今晩、一緒にディナーに行かないかい?」

「!?!?!?!?!?!?」


やまね(?)はその場でへたり込んだ。プルプルと体を震わせている。


………隙が出来たぁ!!


谷口は懐から山崎から盗った銃をやまね(?)に向けた。そして引き金を………。


「…………っ。」


——引けなかった。


(あーやっぱ、2度も撃ちたくないなぁ。友達を)


やまね(?)は状況を察し、切り替えて谷口に向かって接近、手刀で銃を破壊され、そのまま谷口の胸を貫いた。……………血が流れる。


「痛っ…痛ってええええええええ!?!?…でも、」


貫いた右腕を両手で押さえる。


「抜かせない………抜かせねえよ!!」


火事場の馬鹿力で抑えつける。

これ以上は殺させない。……


やまね(?)は抜くのを諦め、左手で谷口の顔面を破壊しようと振り上げようとして……震えながら止まり、腕を下ろし……声が溢れた。


「嫌だ…もう誰も…………僕は傷つけたくないよぉ……」

「……そうだ、ね。」


谷口は吐血した。


「早く…ここから……逃げ…て僕が…僕でなくなるうち…に。」

「私が逃げる…とでも?こんな…可愛い子に殺されるのなら………本望だとも。」


やまねの右腕を強く握る。


「…ごめん…ね、谷口…くん……………。」

「君は悪く…ないさ。悪いのは…私だ。」


………。やまね(?)は再度、左手で谷口を殺そうとして、腕を後ろから誰かに掴まれた。


「全く、何やってんだお前ら。」

「…山崎君?…っ!?避けろ!!」


やまね(?)の後ろ蹴りが山崎に向かって放たれたが、当たる事は無く逆に、山崎に掴まれる。


「はあ、すまんな……やまね。」

「っ!?」


やまね(?)に当身を当てて、…気絶させた。

そして今更ながらに聞く。


「谷口、お前大丈夫か?」


山崎はやまねをそっと寝かせながら言う。胸から大量に血を流し、谷口は叫んだ。


「これが……大丈夫に見えるん……だったら一度、眼科医に…診てもらう事を…薦めるよ。」


そうか。と言いながら、制服の上着を脱ぎ、

包帯代わりに谷口の体に巻く。


「!痛ったいよ君ぃ。怪我人様だぞ…もう少し丁重にだねぇ……」

「文句言う元気があんなら大丈夫だろ…これで多少は止血できた。ちょっと待ってろ、サリ呼んで来る。」

「……は?どうやって……」

「…位置的にどこにいるんだ?」

「……多分、そっちの方角だと思う…よ。」


死にかけながらもその方向を指さすと、山崎は刀で一閃して、玉座の右方を柱共々切りさく…そこからは外がよく見える。刀を地面に刺して少し後ろに距離を取ると、


「じゃ。」


挨拶しながら走り、ぶっ飛んでサリの元へと向かっていった。それを見ながら谷口は笑った。


「マジかよ……あいつ……絶対に敵に回したくないなぁ…痛っ。」


胸の痛みを感じながらそう呟く。

その五分後にサリと山崎が、転移魔法で飛んできて、サリが谷口の傷の治療をした。


「…しばらくは安静にせよ。」

「ありがとね。サリ君。」


ふと肩を叩かれる。


「どうしたん?山崎君。」

「………これを見て欲しいんだ。」


何故かニコニコしている山崎がいた。持っているものを見る。


ーーー銃だった残骸がそこにはあった。


「あっ……シラナイヨ。」

「へえ。そうかそうか。」


山崎の顔がどんどん寄ってくる。


「…盗んだろお前。タイミング的にそうだな。俺の心臓が撃ち抜かれて意識がない時か?」

「そそそ、そんな事ないよなぁ!サリ君!?」


サリは邪悪な笑みを浮かべていた。


「治療してた時…確かに何故か、道化がゴソゴソと小僧の体を触っておったなぁ。」

「ででも、破壊したのやまねちゃんだし……」


山崎は谷口を拳で殴ろうとして…やめた。


「ハッ、まあいいや……お前、充分殴られた後っぽいし、許してやるよ。」

「……貫かれた後だからなぁ。」

「でも、次そんな事したら…………殺す。」

「!?はい!精進します!!」


サリはやまねを抱えて言う。


「…話は後だ。一旦ここから離脱するぞ。」

「そうか…行くぞ谷口。肩くらいは貸してやる。」

「おー助かるわ、ありがと。ちょっと辛かったんだよねぇ。」


ふと気になって、谷口はサリに聞く。


「で、どこ行くの?」

「最初に貴様らと出会った場所だ……そこで我から話がある。」

「…やまねが起きてからでいいか?」

「無論、そうするつもりだ。では行くぞ!!」


サリが転移魔法を使い、4人は平原へと向かう。

転移する前、山崎が何か言った気がした。


「…………あ。刀忘れた。」











































































































































































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る