十二話 臆病者/決意
僕は臆病者だ。
どんな物事にも行動する勇気が出ず、結局は心の中にしまう…………そんな日々を送っていた。
そのせいか、僕は常に1人だった。
他人の手を借りず、自身の力で頑張って策を練って、自己完結させる。それが一番良いと僕は思っていた……それを理解してほしいとは思わないけどね。
そんなしょうもない生活を送っていたからだろう……バチが当たった。
気がついたら、知らない場所にいた。
ふと朝にいつも通り学校へと向かう途中、トラックに轢かれたことを思い出した。
(ああ……僕、死んだんだ。)
色々と想う気持ちもあったが、結論としては、そこで出会った『ある人』によって
僕は………『剪定者』になった。
そこからはひたすら業務に励む日々だった。
目的を達成する為に、どんな非道も躊躇わず
行った。
謀略、騙し討ち、奇襲、暗殺………………。
繰り返すこと500年。見た目は少年のままに月日だけが過ぎて行った。喋る事も殆どなくなった時、…あなたに出会った。
いつも通りに能力を使い、偵察しに来た時。
あなたを含む4人で魔王城があった平原で色々と馬鹿騒ぎをしていた。…交渉とかどうこうの話をしていた気がする。
…何故か魅入ってしまった。
その後誰もいなくなるまで、4人の行動を見て聞いていた。偵察の意味も勿論あったけど、何よりも……誰かの会話を聞くのが、楽しかったんだろうな。今ならそう断言できる。
そして、あなたを王国に連れて行き、色々な事を話した。
人と話す事は本当に楽しいんだなと心から痛感した……飽きが来ない、この500年の中で最高の2日間だった。
………もっと、あなたや皆と一緒にいたいよ。
——あれ?なんで僕は今更昔の事を……。
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魔女の書庫は灰燼に帰していた。
それを遠くから見ながらサリはつぶやく。
「……終わったか。」
…少年が書庫に転移したことを確認すると、すぐに書庫内全ての魔導書を遠隔で起動させた結果がこれである。
唯一、書庫から持って来た一冊の魔導書を見ながらふと、彼女との会話を思い出していた。
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ある日、サリは彼女の書庫へと足を運んでいた。
「フン。貴様は相変わらず、魔導書作りか。」
彼女…否、ソノレは少しムッとした表情を浮かべ言った。
「…魔導書は大事です。これがあれば、魔力を通すだけで誰でも魔法を使えるんですよ。あっただけ便利だと思いませんか?」
「貴様1人いれば充分であろう。それに、」
サリは辺りを見渡す。本棚に入りきらない魔導書が山積みになっていた。
「またこんなに作りおって。今、何冊目だ?」
「これを含みますと……9899万冊ですね。1億冊作るのを目標にしています。」
「……どうしてそんな数作るのだ?」
ソノレは薄く微笑んだ。
「私がいなくなっても魔王様が大丈夫なようにです。」
その言葉を聞き、サリは怒りをあらわにしながら言い返す。
「っそんな事を言うな!我はまだ、貴様に魔法戦で一度も勝った事がないのだぞ。勝ち逃げなどこの魔王サナヤタリが許さん!!」
「……魔法だけが全てではありませんよ。魔王様、貴方は充分私よりも強いです。」
「…嫌味にしか聞こえんわ。魔王たる我が魔法において、配下の方が強いなどと恥にもほどがある。」
「いいのですよ。完璧な者はいませんから。だから私達が魔王様の手助けするのです。」
ふふんとソノレは胸を張った。
「しかし……。」
「では、こうしましょう。少しお待ちください。」
ソノレは椅子を立ち、奥の部屋へ行きしばらくして一冊の魔導書を抱えて帰ってきた。
「む?これは………。」
「久しぶりに、魔法の勉強をしましょう。魔王様、確か貴方はまだ転移魔法を使えないですよね。なら…この機に覚えましょう!」
…サリは本を傷つけない様にして全速力で書庫から離脱した。
一連の行動を見てソノレは呟いた。
「相変わらず、勉強だけは苦手なんですから。」
その後、ソノレは死ぬまでに1億3560万冊の魔導書を作り上げ、書庫に貯蔵した。
…全ては、魔王様の為に。
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…無言でただ、魔導書をめくり続ける。
数十分後……本を閉じた。
「………………覚えたぞ。ソノレ。」
誰もいない。
「…覚えたんだ…。」
…返事はない。
「フッ。ハハッ……」
『魔王』『総司令』『魔王ちゃん』
『殿下』『魔王殿』『閣下』『サナヤタリ』
ーーー『魔王様』
配下の声がフラッシュバックした。
「やったぞ。我は…」
皆を殺した下手人をこの手で葬った。
喜ぶべきはずだ。だが、
「…何故、こんなにも虚しいのだ?」
復讐を果たしても、死者は帰ってくる事はない。
「だが、………まだ手はある。」
——蘇生魔法。遥か昔から存在し、理論上は可能だが、未だに成功した例が存在しないとされる禁術の一つ。
「…我が、最初の1人になってやろう。我を誰と心得る?……魔王、サナヤタリであるぞ。」
自身を鼓舞する。
「何百、何千年と経とうが、我は死なん。たがら…その時まで、我を待っていてくれるか?」
反応は無い。だがそれでいい。
……もう、決めたのだ。
魔王として、皆の忠誠に報いる為に。
青空の下、サリは今後やるべき事を思考する。
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