十五話① デート

町の近くの森に2人は転移した。

「行くぞ。」

「………………。」

袋の中の服を見て愕然としているやまねを山崎は珍しく空気を読んでスルーした。さっさと着替えて森から出て、町に入る。

 

(宿屋に確か、風呂があったよな。)


山崎は宿屋に入った。


「……ジョンさん?」

「あ…………。」


今一番会いたくなかった相手と出会った。山崎…否、ジョンは軽く咳払いをして、


「…ここの宿屋で働いていたのですか…シア様。」

「様だなんて//…はい!昔からここで働かせてもらっています。ここに何かご用でしょうか?」


言いづらい。


(お前の為に風呂入ろうとしてたなんて言えねえ。)


その時、山崎の脳に電撃が走った。


「………お嬢様にサプライズを用意するために少々、この町の近くにある森を探索していたのですが…それで体が汚れてしまいまして、このまま屋敷に帰るわけにもいかず、この町の宿屋でお風呂を借りようと思ったのですが…。」

「まあ。そうたったんですね!」


シアは納得したようだ。山崎は内心ホッとした。………そこで気が緩んでしまった。


「ちなみに、どんなサプライズを?」

「ええ。少しドラゴン退治をしようと。」

「……?」


シアが硬直した。


(あれ、俺今何て言った?)


何を言ったのか聞く前にシアが口を開く。


「……ドラゴン。このリコメンド大陸を脅かすあの魔王の次に強いと言われる『終末竜』バサハを倒すのですか?」


(終末竜…バサハ…?)


なんかよく分からないがこれだけは分かる。


(あー……これ面倒な奴だ。)


その後、ジョンは宿屋のお風呂を借りた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


風呂から上がり、さっぱりした状態でシアを探していると、この宿屋の店主らしき人と口論していた。


「…お願いします!行かせて下さいっ!!」

「駄目だ。危険だぞ!」


ジョンは店主に話を聞いた。


「あなたが、あの終末竜を倒しにいくのにシアはついて行きたいと言うのです。」


困った顔でそう言った。ジョンはシアを見た。


「…店主殿にも言ったのですか?」

「はい!ジョン様が長風呂でしたから、町の皆さんにも伝えました……凄く喜んでいましたよ!」

「そ、そうですか。」

「…ついて行ってもいいですか?…何故かもう二度とジョン様に会えない気がして。」


…この子は預言者かと思った。ジョンは問う。


「……覚悟はありますか?」

「はい。ジョン様となら何処までも。」


ジョンは店主を見る。店主は最後まで悩んでいたが、


「…分かりました。ではこれを持って行って下さい。」


ジョンに剣を渡した。


「これは…。」

「旅人が忘れていった物ですよ。磨いてますので使えるはずです……シアの事を頼みます。」

「有り難く、使わせて頂きます。シア様の事はこのジョンにお任せください…では行きますよシア様。お手を、」

「は!?……はい///」


2人は手を繋ぎ宿屋から出ると、そこには町人達が集結していた。それぞれから声援を浴びながら、町の門をくぐり外に出た。町が見えなくなった位で、ジョンは言った。


「終末竜がいる場所は何処だか分かりますか?」

「ここから真っ直ぐに3日程で着けますね。」

「…そうですか。」


シアの手を離す。


「えっ。ジョン様?」

「少し、失礼します。」


シアを抱き抱えた。所謂お姫様抱っこである。案の定、みるみるうちに顔が赤面していく。


「っ!え、えっ…あっ////」

「…舌を噛まないで下さいね。」


ジョンはシアを抱えてその方向に力の限り跳躍した。その瞬間、恍惚とした表情が消え悲鳴をあげた。


「きゃああああああああああああ!?!?」


そうして2人は終末竜の元へと向かっていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


広い荒地に着地した。辺りには金銀財宝が山の様に転がっていた。


「ここが、目的地でしょうか……シア様?」

「…はい。ここで…間違いないです。」


シアを下ろしたらその場でへたり込んでしまった。


「申し訳ありません。無理をさせてしまいましたね。」

「………。」


シアはずっとある方向を見ている。ジョンはその方向を見て…………鞘から剣を抜いた。


「……儂の巣に近づく奴がどんな者か見に来たが…。」


黄金色に輝く、碧眼のドラゴンがそこにいた。

シアを守る様に、ジョンは前に出た。


「よもや、か弱い人間だったとは!拍子抜けも良いところだな。」

「それはどうで、」


言い切る前に、ドラゴンの尻尾がジョンを横から襲った。


「っ!?」


剣で防ぎきれず、財宝の山に突っ込んで行った。

ぶつかった衝撃で頭や体中から大量の血が出る。


「あ…。」


——薄れゆく意識の中、声が聞こえる。


「ふん……雑魚め。では終わりだ…女。」

「っ嫌!?ジョン、助けてぇ!!!」


ドラゴンがシアに近づいていく。少しずつ、反応を楽しむ様に。どうやらシアは腰が抜けて動けないらしい。


動かない…動けない…唐突にあの日のことを思い出した。


『…それだけ……ですか?』


俺の人生が変化した運命の日。自身の全てをぶつけても、勝てなかった…………絶望の日。


……そして二度と誰にも負けないと誓った日。


あれは『ジョン』では勝てない。でも、

『山崎聖亜』なら……勝てるかもしれない。


(……違う…勝つんだ!!)


体が動く。否、。そして、


「っ!?ぐぁぁぁぁああ!?!?」


横から思いっきり剣で斬りつけ、ドラゴンを吹っ飛ばし、財宝の山に沈めた。反動で剣が折れた。


「…ジョン、様?」


シアが心配そうに見てくる。


「悪い…お前を騙してた……詫びとしてあのドラゴンぶっ潰すから。」

「え、あの」


シアが言い切る前にジョン、否…山崎はその場で折れた剣や鞘を捨て、ドラゴンがいる方向へと走っていった。


「うぐぐ、」

「おい起きろよ。勝負はこっからだろ?」


ドラゴンは起き上がる。斬った肌から少し血が出ていた。


「……大した者よ。この終末竜バサハにこのような鈍で傷をつけるとはな。」

「そうか…こっちで斬った方が良かったな。」


手にはさっき財宝の山に突っ込んだ時に手に入れた宝剣が握られていた。


「面白い奴だ……名は何と言う?」

「ドラゴンにもそういうのあるんだな……山崎聖亜だ。」 


両者は共に臨戦態勢を取る…合図もなく戦闘が始まった。 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最初は明らかにバサハが優勢だとシアは戦いを見ながらそう思っていた。


「どうした、山崎ぃ!そんなものか!!」

「…っ!」


黄金のブレスを紙一重で回避し、爪の追撃をかろうじて剣で防ぎ、死角からの尻尾が山崎に直撃した。


「ぐっ…」


何とか立ち上がった所に爪を喰らわせる。


「づあ!?」


剣で致命傷だけは避けながら、後ろに下がった。


……これで6589回目。日が落ちてきていた。


(何故だ。ここまでやってなぜまた立ち上がれる?)


山崎の身体中に火傷や爪で抉られた傷がある。今にも死に体の筈なのに………。


「…はあ。やっと慣れてきた…でもこれじゃあ……………足りない、まだ…届かない。」


山崎はうわ言を呟きながらバサハに向かって突撃する。


「はっ!甘いわ!!」


また山崎を尻尾で突き飛ばそうして、……尻尾が切断された。血が吹き出ている。


「な、何!?」


再生する時間もなく、山崎はバサハに肉薄する。爪で山崎の頭を抉ろうとして、失敗する。


「ぐっ!?!?」


両腕が斬られた。咄嗟に空を飛んでブレスで一帯を焼き尽くすそうとして…止まる。


「…何処に行った?」

「……ここだぜ!」


バサハがいる位置よりも高い位置から声がした気がした途端、体に強い衝撃が走り地面へと叩き落とされた。


「!!!がはぁ!?」

「まだまだぁ!!」


体に突き刺さった剣を引き抜き、背中をひたすら斬りつける。強靭な鱗も次第に抉れ、無くなっていった。


「っ!イダ、痛い痛い痛い痛いぃ!?!?!」


再生され次第、斬りつけられて破壊される。


…まさに等活地獄の様な有様であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


まだ、「やめて下さい!」『あの人』に届かない。「流石にもう十分です!」力がいや、何もかもが足りない。一体、どうすれば「……ごめんなさいっ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…目を開ける。辺りはすっかり夜になっていていた。後頭部に柔らかい感触を感じる。


「あっ…起きましたか?」

「シアか……ん?これって膝枕か。」


シアが唐突に立ち上がった。山崎の頭が地面に勢いよく落ちる。


「痛え!!…何しやがる?」

「っ!?……な、何でもないです。」


山崎も立ち上がった。


「何でもないってお前…」

「まあそんな事を言うな…山崎。」


声がした方を見ると、ドラゴンの生首だけがあった。


「お前……バサハだっけ?随分変わったな。」

「!?お陰様でなぁ!!」

「俺何しに来たっけ。シア、知ってるか?」

「ええっと。はい、では説明しますね。」


一連の流れを聞いた。


「なるほどな、ドラゴン退治。じゃあ…止めを刺さないとな。」


山崎は落ちてた刃が途中で折れた宝剣らしき物を手に取った。ドラゴンは慌て始める。


「っ待て待て待て!?!?落ち着け山崎!!女、何とか言ってやってくれぇ!!!」

「…言い忘れてました!それはもう終わったんです!!だからそれを下ろして下さい!!!」

「?そうなのか……分かった。」


山崎は剣を下ろした。シアとバサハは安堵する。


「あなたを気絶…コホン。眠っている間にバサハさんと話をしたんです。」

「…終末竜バサハの名において、もう二度と人間に害を及ばさないと誓おう。全ての財宝も持ってゆけ、だからその、何だ…………命だけは助けて下さい。」

「話はもうついてたのか。財宝も別に要らねえよ…よし、じゃあ帰るか……シアも帰るぞ。」

「えっ!?……財宝とかはいいんですか?」

「あー。いいや別に、お前が無事ならいいよ。今度来た時にでも貰っておけ。」

「え……………。」


タイムリミットが近い。


硬直しているシアを連れて、その場を離れる前にバサハを見る。


「……もし、ハラハの町が魔物とかに襲撃されたら、町の皆を……シアを守ってやってくれないか?」

「この儂がそのような面倒な事をする訳が……あっ!ありました!ありましたぁ!!ま、任せて下さいよ〜兄貴!!」

「もし約束破ったら……また来るからな。」

「はは、はいいいいいぃぃぃぃ!!!!」


それを聞き、無言のシアを抱えて跳躍した。

町の近くまで来た所で体から術式が現れ始める。


「ああ…時間切れか。おい、シア。」

「…何でしょうか。」


シアはジョン、否…山崎聖亜を見る。


「色々と言いたい事はあるのは分かる。でもそれは一旦、お預けって事にして欲しい。」

「…………。」

「俺は、この世界の人間じゃない。だからもう二度と会えないかもしれない。」

「……。」

「だから、」

「‥………分かってました……最初から。」

「え?」


シアは打ち明けた。


「私………読めるんです…生物の心が。」

「…マジか。異世界って凄えな。じゃあ、初めて町に入って来た時からか。今まで空気を読んで『ジョン』呼びしてくれてたんだな…何か恥ずいわ。」

「はい……あなたが何を考え、誰を想っているのかも、全て。」

「はぁ想う?俺が、誰を??」

「…………………………バカ。」


山崎は真剣に考えるが全く分からなかった。


「私、負けませんから。そんな人よりも、私に振り向いてもらえる様に頑張りますから。」

「?よく分かんねえけど頑張りな。」


そうだ、手を出せよ。と言われシアは手を出した。渡された物を見る。


「こ、これって……。」

「なんか知らんが持ってた。俺じゃ似合わんから、やるよ。」


黄金のリングに水色に輝くダイヤモンドが入った…指輪だった。


「他の奴がいいんだったら、バサハに言えよ。」

「いいえ……これで良いんです。一生、大事にします。」

「一生は言い過ぎ、」


言葉を続けようとして…やめた。シアが俯き、涙を堪えていたから……そして震えた声で言う。


「……また、会えるのでしょうか?」

「さあな。それは分からん…でも、これだけは言えるぜ。」


——転移が始まる。


シアは山崎をじっと見る。


「シアが俺を覚えている限り、いつかはまた会えるって事だよ。」

「…っはいっ!!またいつか、何処かで!!」

「——次はきっとお茶を飲みながらさ、色々話をしようぜ。楽しみにしとくからさ……」


そう言い残し、山崎は消えシアだけが残った。

無言で指輪を見つめる。


…感情が溢れ出した。


「…うっ…山崎くんっ………!」


私は魔物に両親を、弟を殺されている。それからだろうか…私は心が読める様になったのは。町ではその力の事は伝えずに今まで、生活してきた。


——初めて見た時、最初は怖い人だと思った。


魔王に召喚された人。町の皆を騙して、何を企んでいるのかと警戒した。


でも実際は全然違っていて、話してみると


まっすぐで仲間想いで、誰よりも一途な人なのが分かった………分かってしまった。



そんな彼に私は………。



両手で頬を叩く。まだまだやるべき事は沢山あるんだ。


「…よしっ!」


彼の事を考えるのは一旦、後回しだ。それはまた会ったその時、考えればいい。今やるべき事をしっかりとやらなくちゃ……………彼みたいに。


そう考えながら、シアは帰路へとついた。
















































































































































































































































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