十五話② 償い

——袋の中には、メイド服が入っていました。


(しかもこれ、去年の文化祭の……)


その時の事が脳裏をよぎったが、今はそんな事はどうでもいい。


(どうしよう………着なきゃ、ダメなのかな。)


改めて自身の服装を確認して…覚悟を決める。

服を脱ぎ、白黒のメイド服を身につける。脱いだ服を袋に仕舞おうとして気づいた。


(あ、カチューシャも入ってる。)


他にも手鏡やハサミが袋の中に入っていた。


(髪も少し長くなってきてたし、丁度いいかな。)


適宜、手鏡を見ながら髪を切る。


(昔はよく姉さんが切ってくれてたっけ。)


30分後…やまねはショートヘアになった。

カチューシャも付ける………準備は整った。


「行こう、聖亜くん………あ、あれ?」


いつの間にかいなくなっていた。


(先に行ったのかな?僕もいかないと。)


そうしてやまねは森を出て、町に入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


町は心なしか賑わっているように見えた。

町の人達の声が聞こえる。


「…これでこの町は安泰だなぁ!」

「これも、ジョン様のおかげか。」

「……本当にあの竜を倒せるのかしら?」

「大丈夫だろ!あの騎士団長様を前にして、あそこまで冷静だったんだ。問題ないね。」


(ジョン?……って聖亜くん!?)


心を落ち着けながら、町の人に聞く。


「あの、すみません。何かあったんですか?」

「ん……その格好は、アリス様の…メイドさんかな?」

「え、ええ…そうです……ネマヤと言います。」

「ネマヤさんね。実は、ジョン様が今ドラゴン退治を、」

「言うなよ。これはアリス様のサプライズなんだから。バレたらどうすんだ?」


話していくうちに、町の人達が揉め始めた。


「……えっと、」

「!ああ、ネマヤさんには関係ないんだ。ところで、この町に用事があるんだろう?手伝うよ!!」

「しいて言うなら、人探し…でしょうか。」

「名前とか分かってたら、連れてくるよ!」

「…ロンさんはどこにいますか?」

「「「………………。」」」


町の人達は黙り込んでいた。そして同時に言った。




「「「ロンって誰?」」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そんな人は、この町にはいないよ。」

「長い事生きてきたが……知らん名じゃのう。」

「僕も知らないよ。」

「そうっすね。」


町の子供、大人、老人…その全てが口々にそう言った。


「え…………?」


でも確かにいた筈だ。僕を庇って………あれ?


「…間違えました。私がここに来た目的は、この町のお手伝いです。」

「お手伝いと言いますと?」

「私はメイドとしてはまだまだ未熟な身。故に一日だけ、ここで修行してきなさいとアリス様が言っておられました。」


(僕は何を言っているのだろう?……おかしい。)


すぐに町の人達は行動に移す。


「これはきっと、アリス様に期待されている……!」

「ネマヤさん!ぜひうちの喫茶店で働いてみないか!?」

「!っおい、あんたは黙っとけよ。俺の所に来な?」

「うちの所でもいいよ〜。」

「えっ…あの、」


商いに精通している人達は全員理解していた。


(この子がいれば、絶対に儲かる!!)


……ネマヤの魅力はアリス様に匹敵するという事を。


そんな人達に連れられ、この一日中、ネマヤ…やまねはひたすらに働き続けた。違和感も気にする暇もなく。


そうして◾️◾️の存在は忘れ去られていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー◾️◾️は目を覚ました。


「ここは……?」


知らない場所だ。一面、白で統一されている。

今、座っている椅子と少し離れた所にある椅子があるだけだった。


(確か僕はアリス様を助けて……死んだのか。)


「へぇ?君か。」


突然声が聞こえた。その方向を見る。いつの間にか、もう片方の椅子に座っている見た目が同じくらいの歳の男がいた。


「…あなたは何者だ?」

「私かい?しいて言うなら、ただの『漂流者』だよ。」

「僕は、」


◾️◾️は名前を言おうとして、遮られる。


「知っているよ…ロン君。本来ならあの世界の

『勇者』の役を担う筈だった事もね。」

「…え?」


(……僕が、本来の勇者?)


訳が分からないまま、男は話を続ける。


「知らないのも無理もない。少々、イレギュラーがあってね。まさか魔王サナヤタリが『アレ』を召喚してくるとは……運がいいのか悪いのか。」

「当初の予定では、私の仲間の一人があの世界、いいや『異世界アニルア』を滅ぼそうとした所で君が勇者として覚醒して、剪定者を殺すってシナリオだったんだ。」

「まあ、結果としてアレの所為で台無しとなった訳だけど、まあいいさ。アレが来た時点で察してはいたからね。」

「ん?どうして仲間を殺そうとしたのかって?

ああ、それはね……楽にさせてあげたかったんだ。何せ500年だ、物を大事にするのも限度がある。まして人間なんだから………アレとは違ってね。」

「……アレって誰なんですか?」


男はその発言を無視した。


「単刀直入に言おうか。君、『剪定者』にならないかい?」


一方的な会話に対して、ロンは激怒した。


「無視しないでください!アレって何なんですか!!大体いきなりそんな事言われて、はいそうですかって、言える訳ないじゃないですか!?」


男は椅子から立ち上がり……………ロンの前で立ち止まる。


「な、何ですか?」


男はさっきとは打って変わって、真剣な表情をしていた。


「その答えをここで私が言えば、君は問答無用で『剪定者』の仲間入りだけど……本当に聞きたいのかい?」


ロンは唾を飲みこむ。


「…聞かせてください。」


まだこうして生きている事には、きっと意味がある。……そう思ったから。


その覚悟が伝わったのか、男は口を開いた。


「じゃあ、話すとしようか…とある物語を。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…という訳で、君はこれからは『剪定者』として私の指揮の下、自由に世界を…自身が死ぬまで滅ぼしてくれたまえ。」

「…はい。」

「じゃあコードネームを付けるとしようか。」


一呼吸おいて、男は言った。


「君は今日から『蛮勇』だ。早速で悪いけど、初仕事だ…君の活躍に期待してるよ。」


『蛮勇』は頷き、どこかへ消えていった。


男は元いた椅子に座り、小さく呟いた。


「アレはともかく、あの2人かぁ……全く、因果だよなぁ。」


——その呟きを聞いた者は誰もいなかった。








































































































































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