二十話 情報/介入
気がついたら縄で縛られていた。猿轡や目隠しもつけられている。さっきまで屋敷で寝ていた筈だが…………。
「おっ。気づいた?」
「ーーーー!」
男は猿轡を外した。
「…何をするか!人間!!縄や目隠しを解け、今すぐだ。」
「それ無理☆後、私の名前は谷口馨だから。」
谷口は笑って言った。
「人間よ、我を誰と心得る。我は、」
「知ってるよ。『タンネの町』の町長こと兎の獣人『ソケハ』様でしょ?」
「それを知った上でこの狼藉…万死に値するぞ。谷口とやら。」
「まあ、まずはこれを見てみ?」
目隠しを外した。
「……っ!?」
屋敷の庭園に町の住民が皆、山のように積まれていた。呼吸も身動きも…一切していない。
「…何、を。」
「やっと立場が分かったかい?ソケハ君。」
「我が…住民に一体をした?!答えろ。谷口!?」
「じゃあ一つだけ朗報を教えてあげる。ここの獣人達はね……まだ生きている。」
「なっ!?」
「まあ、君の返答次第で獣人達はあの世行きだけどね。」
「……脅しか。…何が望みだ、谷口?」
「おっ、分かってるじゃないか。心配しなくても金銀財宝とか君の命とかは言わないよ。」
「口上はいい……早く要件を言え。」
谷口は咳払いをする。ソケハは内心身構えた。
「私の望みはただ一つ。この世界の情報さ。」
「…は?情報??」
(この期に及んで……情報だと。)
「君が知っている全ての情報。私はそれが欲しい……君、ここのトップと面識があるんだろう?」
「……そう、だが……それだけで良いのか?」
谷口はきょとんとした顔をして言った。
「うん。私はね、ゲームをする時は攻略本を全て読んでから始める派なんだよね。」
「……??」
「だから、教えてほしいな…包み隠ず、ね?」
それで、住民を全てを救えるのなら………
「分かった…教えよう。一度しか言わないぞ。それでいいか?」
「オッケー、始めてくれ。」
ソケハは、自身が知る全ての情報を谷口に話した。
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「…分かったか?」
「これで大体把握したよ。ありがとね。」
話を終えた時には朝になっていた。
「約束は果たせよ。」
「分かってるって………神崎君〜。」
何処からか神崎と呼ばれた少年が現れた。
「そっちはどう?」
「…一応ここにいた人間は全て転移させましたよ。場所は……『ザガバの町』。最近、一人の人間が町の獣人を壊滅させた人類の希望の地。あそこなら問題ないでしょう。」
「…我と話す間にそんな事をしていたのか…。」
「まあ、君の情報と神崎君の情報を加味して考えると…ちょっち急がないと『異世界ザムラ』崩壊の危機だからね。」
「……この世界が、崩壊する?」
頭が混乱してくる。谷口はそんな事を気にせず気軽に言った。
「厳密に言えば『消滅』かな?ソケハ君も住民引き連れて逃げた方がいいよ。まあ逃げた所でどうにもならないけど。」
「……。」
「あっ、住民達はね、そろそろ起きると思うよ。仮死薬の効力的にね。神崎君、薬の調合が上手でね…って痛い痛い!耳を引っ張らないでくれぇ!!!」
「…早く行きますよ…改めて、情報提供に感謝します。」
そう言い残し、二人は何処かへと消えていった。
「…世界の、崩壊……」
住民達が起きて縄を解いてくれるまで、ソケハはその事を考え続けた。
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ソケハを襲う数日前、町付近の森にて。休息を終えた神崎と話をする。
「…ずっと疑問だったんだけど、どうしてあのやばいチキンに襲われた時、助けてくれなかったんだい?…あの時はグラ君、じゃなかったトニー君が助けてくれたから良かったけど。」
神崎は少し申し訳なさそうな表情をして言った。
「あの時は…まだ不完全だったからとしか。」
「不完全?どゆこと??」
「この状態を維持できている事自体、正直…掛け値なしの奇跡なんですよ。そこだけは、あの2人には感謝しなければいけませんね。」
「2人ってグラ&トニー君とかスロゥちゃんの事?………そんなにすごいの??」
谷口の発言に対して、神崎はため息をついた。
「……かの有名な『神技の料理人』の料理であなたの体力や魔力…果ては身に残る『魔王の加護』までも活性化させた上で『大賢者』の髪の毛一本で、魔力の流れを完璧に調整したという前提が無ければ、僕はこうして出て来れなかったでしょうね。それを奇跡と言わず何と呼ぶんです?」
「…改めて、そんな凄い奴らと私、会話してたんだなぁ。」
しみじみとしていると、神崎は真剣な顔をして言う。
「……確認ですが、ここは、『異世界ザムラ』ですよね?」
「そうじゃね?スロゥちゃん『大賢者』っしょ?流石に間違えないだろ。」
「この世界には『剪定者』が一人います。」
「……マジで?」
神崎は無言で頷いた。
「コードネーム『雑魚』。」
「…雑魚って、弱そうな響きだな。」
「確かにあの方は名前の通り、攻撃手段を一切持っていません。」
「…知ってるのか?」
「僕は『臆病者』でしたから。大体の人はリサーチ済みです……ですが、」
神崎は言い淀んだ。
「何だよ…教えてくれよ。神崎君?」
「あの方は……関わってきた異世界全てを必ず、終焉に導いているのです。」
「…戦闘能力無しで?」
「……僕ですら、何回かは失敗した事はあります。その時は大体、転移で逃げ帰って来ましたが。」
「『雑魚』って子の仕事を見た事はあるのかい?」
「『剪定者』の規則として、単独行動で事にあたれというルールがあるので、見れないんですよね。」
他の方と共闘とかもした事もありませんし、と神崎は言った。
「何だそのソロプレイ縛り。まあ、でもやる事はあるぞ、神崎君。」
「何をするんです…『雑魚』をまず始末しますか?」
「いやいや、居場所探す前にまずは、情報収集でしょ。」
「あの獣人達と…ですか?」
「そうそう。私だけじゃ絶対無理だったけど、神崎君………君がいるなら勝機はある。」
「一応聞いてあげますよ。言ってみて下さい。」
「まず、町の住民に毒を盛る…死なない程度の仮死薬とかでいい。で、それを町の町長とかに見せるんだ。」
「いきなり割とエグい事言いますね……殺さなくてもいいんですか?」
「!?神崎君の発想のほうがずっとエグいと思うな…それで、作れそうかい?」
神崎は思考を巡らせて、答えた。
「…可能ですね。まあ、試行錯誤は必要なので、あなたを被検体として試しますね。」
「う、うん……お手柔らか頼むよ。」
「それで、その先はどうするんですか?」
「あの町の町長みたいな奴と交渉する。」
「そこで、情報収集…ですか。」
「その間にさ、神崎君は捕まってる人達を転移させてほしいんだよね。」
「…全く、人使いが荒いですね。」
「だからこれから神崎君には、ちょっと町に侵入して、軽く立地や情報とかを集めて来てくれるかい?転移先の候補もついでにさ……君にはそれにうってつけの能力があるだろ??」
「分かりましたよ……後で労って下さいね。」
そう言って神崎は消えた。
「はぁ…早く二人に会いたいなぁ。」
神崎君が帰って来たら、間違いなく薬の被検体にされるんだろうなぁと思いながら、二人の無事を心から願った。
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同時刻、白き部屋にて。
「…本当に行くのかい?『女帝』ちゃん。」
「余はもう決めたのだ。邪魔はするなよ『漂流者』。」
『漂流者』と呼ばれた男は肩をすくめた。
「ルールを破ってでも、あの『雑魚』ちゃんを助けたいのかい?君は。」
「…当然である。ルールなぞ、破る為にあるのだ。」
「……相変わらず、君は義理堅いね。」
「…同胞を助けずして、何が仲間か。」
仲間…か。と男は呟いた。
「分かったよ…今回は特例だ。これは私の人選ミスだったのもあるから、行って来ていいよ。あの子は特殊だからね……ここで失うのは惜しい。」
「感謝する。」
『女帝』と呼ばれた金髪の少女は、真紅のドレスを翻しながら、その場を後にした。男が一人取り残される。
「…せっかちだなぁ。まあ、時間が無いのも事実だしね。」
あの子が行った時点で、どう頑張っても世界は滅ぶのは確定してるからね。精々お手並み拝見と行こうか。と男は一人ぼやいたのだった。
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