十九話 革命/奴隷

谷口が来る数日前の夜。


気がついたら何処かの町にいた。山崎は口を開く。


「何だここ?」


さっきまでやまねの家にいた筈だ。そんな事を考えていると、獣人に囲まれていた。


「何だぁ…人間じゃねえか。」

「奴隷が。こんな所にいちゃいけないんだよ!」

「…どけよ……獣畜生。」

「っ何だと!?」


山羊の獣人が山崎に殴りかかるが避けられる。


「チィッ!こいつ!?」


今度は羊の獣人が剣で山崎を斬ろうと迫り、


「お、丁度いいもん持ってるな。」


即座に殴り、怯んだ所で剣を奪い取り、奪った剣で羊の獣人の首を斬り落とした。辺りに血が撒き散らされる。その時、この場にいた全ての獣人は悟った。コイツは野放しにしてはならないと。


「っ!奴を殺せ!!!」


町中の獣人が集まり、たった一人を殺す為に団結し、襲いかかる。山崎はその様子を見て凶暴に笑う。


「…いいぜ、狩りの時間だ。」


——町は一瞬で戦場と化した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一人の人間の男が歩いてくる。服の所々に血が付着し、剣は血に染まっていた。


「っ!お前どっから…」

「なあ、ここに人がいるのか?」

「…は?」


唐突に質問され、戸惑いながらも恐る恐る答える。


「は、はい。この階段を降りれば、人間の奴隷がいますね。」

「そうか、ありがとな。じゃあ……死ね。」


反応する前に、胸を刺される。


「お前で最後だ。何だろうな、ここに来てからやけに調子が良い。」

「何…を、言って、」


剣を引き抜く。鮮血が飛び散った。返す剣で獣人の首を落とした。


「鞘、持ってくればよかったなぁ。」


剣を軽く振って付着した血を飛ばした。剣を手に持ったまま、階段を降りてドアを開ける。

そこは、まるで牢獄の様な場所だった。


「意外と広いな。鍵で一々開けるの面倒だし…斬るか。」


山崎は軽く走りながら鉄格子を斬っていく。斬り終えた後、そこから人々が少しずつ出てきた。どうやら困惑しているらしい。


「あの、助けて頂きあり、」

「親玉はどこだ?」

「えっ、『獣王レヌ』は『アンダック城』にいますけど……。」


分かったと呟き、立ち去ろうとした所を人々が止める。


「ちょっと待って下さい!!私達はこれから先、一体どうすればいいのですか。」

「あーじゃあ、よく聞けよ。」


人々は黙って男の話に耳を傾ける。


「いいか、武器は広場の真ん中にある。どれでも好きなのを使え。死体もある程度纏めてあるから、焼いておけ。」


人々が口々に言う。


「つまり、それって……」

「お前らはこれから武器を持ち、獣人共の注意を引きながらこの町を死ぬ気で守れ。無理に攻勢に出るなよ。ひたすら防衛して、自身の命を第一に考えるんだ。」

「それでは、いつかは滅ぼされますよ!」

「その前に俺が大将を殺す…だから、それまで持ち堪えられるか?」


人々は黙り込んだ………誰かが言う。


「…いいぜ、やってやるよ!」


その言葉が伝播し、次々に声が上がる。


「今度は獣人共をとっちめる番だな。」

「やりましょう!」

「人生の幕引きには丁度いいのう。」

「人間様の意地、見せてやろうぜ!」


その姿を見て山崎は少しだけ笑った。


「あの、貴方の名前を教えてくれませんか?」

「…山崎聖亜だ……早く準備しろよ!!!敵は待ってくれないぞ!!!!」

「「「はいっ!!!!」」」


そう言って山崎は、階段を登り駆け足で町を出た…………そしてある事に気づく。


「やべ。どっちにあるのか聞くの忘れた、今から聞きに戻るの何か恥ずいしなぁ…………まあいいや。」


適当に走ってればいつか着くだろ。そんな事を考えながら、夜の荒野を一人駆けていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


——洞窟の中を歩く。


「お前の牢はここだ。入れ。」

「…はい。」


大人しく中に入った。牢の扉が閉まり、鍵が掛かった音がした。中には、簡素なベットが一つとボロボロの丸い机、中世風のちょっとした仕切りがあるトイレがあるのみだった。


「食事は1日2回。ここで作業をしてもらう。そして、ここから出る事を禁ずる……質問は?」


やまねは牢の隅で蹲っている人を見て言った。


「…この人は、誰ですか?」

「ふん。それは本人の口から聞くんだな。」


明日また来るからな。と言って鳥の獣人は何処かへ行ってしまった。改めて彼女を見る。歳は同じくらいでボサボサの青の長髪。今やまねが着ている服と同じ、女性の囚人服を着ていた。


とりあえず座る。


「あの、お名前を教えてくれませんか?」

「……。」


顔を上げると黒い目にはクマができていた。ボソボソと話し始める。


「…ワタシは…『雑魚』……っす。」

「え?雑魚………そんな名前なんですか?」


彼女はハッとした表情をした。


「す…すみませんっ。な、名前の方っすか?」

「僕は、佐藤やまねって言います。」

「…ご、ご丁寧にどうも。ワタシ、『貧運厄子ひんうんやくこ』って言います…可愛らしいっすね。やまねちゃん」

「…っ。」


この空間で女性を演じるのは無理だとやまねはここに入った瞬間に理解していた……覚悟を決めろ。


「…実は僕、男なんです。」

「……えっ…えええええええ!?!?!?!?!?!?」


予想通り、彼女は驚きのあまり、叫んでいた。

それが洞窟内に響き渡り、さっきの鳥の獣人がやってくる。


「うるせえよ!……静かにしろ。」

「…あ、す…すいません。」


獣人は嫌そうな顔をして去っていった。


「驚かせてすみません。今言った方が良かったかなと思って……」

「あ…こちらこそっすよ、男の人に失礼な…事を言ってしまって、すいませんでした。」


じゃあ…これからはやまねさんって呼ぶっすね。と彼女は言った。


「ワタシの事は…厄子でも、貧運でも、雑魚でも、好きなように呼んで下さいっす。」

「じゃあ、厄子さんでいいですか?」


厄子は嬉しそう頷いた。


「…大体の人はワタシの事、貧運とか雑魚って呼ぶ人が多かったので、嬉しいっす!」

「そうなんだ…。」

「あの、言いたくないなら、別に言わなくても良いっすけど……やまねさんって別の場所からここに来たんすよね。」

「っ!?どうして分かったの?」


驚きのあまり、厄子に詰め寄った。


「え、いやあのぅ…か、可愛い顔が近いっす//」

「…!あっ、ごめん。」


やまねは元の位置に戻った。厄子は咳払いをした。


「…ワタシ、そういうの何となく分かるんすよ。でもやまねさんが男なのは分かんなかったっすよ……実は嘘じゃないかって、疑ってるくらいなんすから。」

「えっと……………見せようか?」

「…っっっっ!?!?結構っす!!」


ちょっとしたセクハラっすよ、それ。と薄く微笑んだ。


「やっと笑ってくれたね……厄子さん。」

「!うへへっ…これは一本取られたっすね。」


ふとやまねからあくびが漏れる。


「…ごめん。もう眠たいや。続きはまた明日でいい?」

「……そうっすね。」


二人は立ち上がり、ベットに向かおうとして気づく。


(あっ。ベットって一つしかないんだった。)

(やばいっす!どうしよう…どうしようっ。)


先に言葉を発したのは、やまねだった。


「僕、床で寝るよ。厄子さんはベットで寝ていいよ。」

「いやいや、駄目っすよ。ここはワタシが床で寝るっす。」

「だって僕来たばっかりだし、先輩にベットを譲るのは当然だと思う。」

「せ、先輩って……そんな事ないっすよ。床で寝たら、その可愛い顔が汚れてしまうっすよ。それは人類の損失なんすよ!!!」

「厄子さんだって僕から見たら可愛いですよ!

これ以上その顔が汚れるのは僕は見たくない!!」

「か、か、か、可愛い!?このワタシが!?!?」

「はい。ちゃんと髪とかを手入れをしたら、きっと僕を越える逸材になれます……僕が断言します。だから、僕が床で寝ますよ!」

「っ!でもっ、やまねさんだって………」


どんどん会話が白熱していく。どちらも優しい性格の持ち主の為、譲り合いが始まった。両者は一向に折れようとしない。無限に続くかと思われたこの不毛な争いは厄子の発言によって終結を迎えた。


「……じゃあ間を取って一緒にベットに寝るでどうっすか?」

「よし、そうしよう!」


勢い任せでやまねはそう言った。そうして二人はベットに横になった。


「少し狭いけど…何とか入れたね……厄子さん?」

「…っ///」


厄子は軽くそっぽを向いていた。


(他の人の体温が直に……しかも、男の人のっ!!顔真っ赤になってないっすよね!ねえ!?)


そんな葛藤を知らず、やまねは話す。


「…本当に厄子さんと会えて良かったです。皆と離れ離れになって…正直、不安でしたっ。」

「…!」


やまねは涙を流していた。厄子は自身が急速に冷静になるのを感じた。


「きっと、会えますよ…アタシが保証するっす!……ま、まあ、あんまり期待はしないで欲しいっすけど……」

「ありがとう……ございます。」


反射的に厄子はやまねの体を抱きしめた。離れ離れになる苦しみを……よく知っていたから。


「っ、厄子さん?」

「……もう寝るっすよ。明日から作業なんすから………これは、先輩命令っすよ。」

「…っはい、分かりました。」


——二人は不安の中、抱き合いながら眠った。


こうしてやまねと厄子の奴隷生活が始まった。



















































































































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