十八話 再会

皿洗いを終え、谷口と男は椅子に座った。


「私の名前は谷口馨。馨さんでいいよ。」

「馨さんですね…改めて、僕の名前は『グラ』と言います。昨日は『トニー』が迷惑をかけてすいませんでした。」

「トニーって、まさか君『二重人格者』?」


グラは頬を軽くかいた。


「その通りです。僕のお腹が減るとトニーに、逆に減ってなかった場合は僕になります。」

「そ、そうだったのか、まあ何となく分かってたけどね……服同じだったし。」

「意外でした。もっと驚くと思ってましたから。」

「あーまあ、驚いてはいるよ。でも私そういう人、何人か見た事あるから。」


そうでしたかとグラは呟いた。


「ところで、『世界の最果て』であるここに何か用でしょうか?」

「……世界の最果て?ここが??」

「それも知らずに来たんですか?」

「えっとね、話せば長くなるんだけど……」


谷口はここに至るまでの話をした。グラは真面目に聞いていた。


「……なるほど。馨さんの友達がどうなっているか知りたいんですか。」

「まあ、そういう事になるかな……分かるかい?」


グラは席を立ち、真剣な表情で言った。


「…少しここで待っていて下さい。決して2階の他の部屋には入らないように。」

「あっ、うん……ここって2階だったんだね。」

「はい。ちなみに1階で僕は『飽食亭』を営んでいます。今日は定休日で誰もいませんが、結構来ますよ。色んな異世界から。」


そう言い残して、グラは立ち去った。いつもなら、後ろからこっそりついて行きたいが………


「…何でだろ。すげぇ嫌な予感がする。」


谷口はそう呟き。仕方なく大人しく待っていると、グラは帰ってきた。何かを持っている…元の席に座った。


「すいません。待たせましたか?」

「ん?大丈夫だよ。それでこれは何?」

「それは……」

「…魔道具。『全てミエール』」


いつの間にか谷口の隣に16歳程の少女が座っていた。ロングの髪もアホ毛も白く、ローブも魔女帽子も白い。目も白く、右目の眼帯も、何もかもが白で統一されていた。まるで、カラーを付ける前の漫画やアニメのキャラクターの様だった。


「っ!『スロゥ』ちゃん!?どうして、」

「…気になった。」


グラは驚いている様だった。スロゥは無機質に谷口を見つめる。


「えっ……と私、顔に何か付いてる?」

「…………。」

「あの、そう見つめられると恥ずかしいゾ☆」

「………。」

「…お願いします!!何か話をしてくれませんか!?」

「…理解した。」


唖然とするグラから魔道具を取り上げて何処かへとしまった。思わず谷口はツッコミを入れた。


「!?結局使わんのかい!」

「…わたしがいれば充分。」

「後なんなんだよ、そのネーミングセンス。壊滅的だね。」

「……!」

「馨さんストップです!」

「え、いやだって……」

「……スロゥちゃんを見て下さい。」


グラに言われて、谷口はスロゥを見る。無機質ながらも心なしか涙目になっている気がする。


「スロゥちゃんの機嫌を損ねたらもう馨さんの友達の場所は聞き出せませんよ!」

「っえ!?マジか…ごめん!スロゥちゃん。」

「………。」

「スロゥちゃん神!最高!!」

「…。」

「ネーミングセンスまじでイカしてるよもう!」

「…本当?」


(うわぁチョロい。)


「……チョロい?」

「え!?いや違うよ!!!」

「スロゥちゃん心読めますから、油断したら駄目ですよ。」

「グラ君、それ先に言ってよぉーー。」


仕方ない………こうなったら奥の手だ。谷口はスロゥをじっと見る。


「…………。」

「…………。」

「えっ、馨さん?」


グラが1人取り残される。そして30分後………。


「…っ//分かった。」

「……よし勝ったぁ!!!」

「一体何をしたんですか!?」

「簡単さ、グラ君。私はただ、スロゥちゃんと心の中で取引をしただけだよ。まあ、内容は秘密だけど。」

「そ、そうなんですね。」

「何でちょっと引くのさ。まあいいか、スロゥちゃん。約束は守ってくれよ?」

「…うん。」


スロゥは谷口の周りに魔法陣を展開した。


「……場所は『異世界ザムラ』」

「そこに2人はいるんだね?」

「……そう。」

「分かったよ。そうだグラ君?」

「何でしょうか?」

「後でいいんだけどありがとうってさ、トニーの方にも言っといてくれない?」

「…っ!どういたしましてですぅ。別の世界に行っても食生活はちゃんとバランス良く食べてくださいねぇ?ウケケケケケケケケケッ!!!!!!!!」

「!いや、変えれるのかよ!?」

「……ふぅ。はい、一応変えれますよ。少しお腹が空きますが……馨さん、どうかご無事で。次は飽食亭のお客様として出会える日を楽しみにしています。」

「はは。タダ飯食えるなら、いいぜ!!」

「お皿洗いをしてくれたら……いくらでも食べていいですよ。」

「じゃあ、いいぜスロゥちゃん。飛ばしてくれ!」


スロゥは無言で自身の髪の毛を一本取った。


「…食べて。」

「え、いやいくら君が美少女だからって流石に……むぐっ!?」


無理矢理食べさせられた。


「…不味いと思ってたけど、美少女の髪って、まさか……美味しいんじゃ…今度やまねちゃんの髪の毛食べてみようかな?」

「…さよなら。わたしの約束…ちゃんと守ってね。」

「了解であります!…なんつって。」


そんな事を言いながら、谷口は異世界ザムラへと向かった。それを見届けながらグラは言った。


「スロゥちゃん……ありがとうございます。」

「…うん……寝る。」


そう言って、スロゥは部屋に帰って行った。

グラは台所へ向かおうとした時に、見知った足音がした。


「あっ、エクスちゃん…おはようございます。食事はこれから作りますから、少し待って…」

「ねぇ、ここに誰か来たの?」

「…ええ、少し前までいましたよ。」

「…っ!?その人はどこに行ったの?」

「異世界ザムラですが……ち、ちょっと!?朝食は……」

「冷蔵庫に入れといて!!」


そう言い残し、エクスは飛び出して行った。


(あの部屋の中に残っていた独特の気配、間違いない!!)


——今度こそ、ちゃんと会って話すんだ。

エクスは鋼の翼を広げ異世界ザムラへと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


どうやら町の広場に転移したらしい。太陽が眩しい。


「……あれ?」


——違和感。


私以外の人間がいない。いるのは様々な獣人だった。皆、私の方をじっと見つめて………


「……っ!?」


即座に駆け出した。とにかく町から出ないと、あの目は間違いない、私がよく知っている目だった。


(…奴隷を見る目。この異世界は獣人達の世界なのかっ!)


後ろをふと見る。案の定、獣人達が追ってきていた。だが、何とか町を出る事はできた。前方に森が見える。


(森に隠れられれば。)


森に入る事に成功し、ある程度の所で座った。


「はぁ、はあっ……以外と、何と、かなるな。」


息切れで呼吸が乱れながら、一人呟く。

遠くから追ってきた獣人の罵声が聞こえる。


「このまま、隠れ切れれば……」


——違和感。何だ、何かを忘れている気が…


「っ!しまっ…」

「ーー見つけたぞ、人間!!」


この場から逃げようとしたが遅かった。いつか間にか、追ってきた獣人達に囲まれていた。


「……嗅覚か。はぁ…しくったな。」

「おい、この人間どうする。奴隷か?それとも食用でもいいなぁ。」

「私としては奴隷がいいなぁ。」

「コイツっ!舐めた口を聞きやがって!!」


犬の獣人に胴体を殴られる。血を吐き出した。


「…ブッ!?…ゴボッ…は、はは。痛くねえなぁ。そんなもんか?これなら山崎君のパンチの

方が20倍痛いわ。」


サイの獣人に顔面を殴られる。後ろの木にぶつかった。頭がクラクラする。


「へ、へへっ。それだけか?」


ゾウの獣人が、トラの獣人が、色んな獣人達に

殴られ、蹴られ、踏みつけられ、笑われて……


気がつけば、谷口はボロ雑巾のようになっていて、ぴくりとも動かなくなっていた。


「…おい、これ流石にやり過ぎたか。」

「これじゃ奴隷は無理だな。ここで食っちまうか?」

「いいねぇ。やっちまおうぜ。」

「おい、まだ人間がいるぞ。」

「なんだぁ?チビっ子か。どっかから脱走してきたか?」

「……数は25ですか。」

「何言ってんだガキ。頭イカれてんのか??」


少年は一瞬、谷口の方を見た。


「……本当に反吐が出ますねぇ。」

「っこいつ!?」


獣人の一人が黒と白ジャージを着た黒髪の少年に殴りかかろうとして、


「……バン。」


その頭が消し飛んだ。それを見た獣人達は少年を脅威とみなし、一斉に襲いかかった。


「「数で囲めばーー!!」」

「所詮は獣。馬鹿ですね。」


少年に獣人達の攻撃が当たる瞬間、少年は呟いた。


「『空間座標複数固定完了』」


その攻撃が当たる事は無く、24人の獣人の頭が爆散した。辺りは血の匂いで溢れかえる。


「全く、折角のジャージ姿が台無しですよ。まあ後で血がついた部分を転移させれば、綺麗になりますか……もう起きても大丈夫ですよ。」

「…バレてた?」

「ええ。僕の目は誤魔化せません。」


谷口は神崎を見る。


「生きてたんだな……神崎君。」

「いえ、僕本人はあの時点で死にましたよ。あくまで今の僕はその『残滓』ですね。考えた事も無かったですよ。自分を他人の魂に『転移』させるなんて……これが最後まで生きようとした結果なんですかね。」

「あの時、そんな事してたのか………まさか、今まで見てたの?私を。」

「……はい。まさか『超越者』の拠点に行く事になるなんて、私的に結構ハラハラしながら見てましたよ。」

「…超越者ね。ていうか今の神崎君って剪定者なの?」

「それは僕本人が死んだので、縁が切れていますね。今頃、埋め合わせをしている頃でしょう。」

「そっか…本当に。また会えて嬉しいよ…神崎君。」


体を起こそうとしたが、体中が痛くて起きれなかった。神崎が谷口に触れる。


「ふんっ!」

「……あれ、痛みがなくなった…一体何したの神崎君?」

「…ただ、あなたの『傷』という概念を適当に転移させただけですよ。」


心なしか神崎の体が薄くなっている気がした。


「っておい!何か薄くなってるよ君!!」

「あー。一度に魔力を使いすぎましたかね…でも大丈夫ですよ。今の僕は『使い魔』に近い存在ですから。回復したらまた出てこれますので……では。」


そう言い残して、神崎は消えた。辺りは静寂が満ちた。


「……さて、2人を探さないとな。」


仲間がいる事に喜びを感じながら、谷口はこの異世界について考えながら、2人を発見する為に改めて、探索を開始した。

















































































































































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