第二部:異世界ザムラ

十七話 連戦

「………は?」


谷口は絶句した。


(私、確かあの後やまねちゃんの家に行って…それから寝たよな?)


辺りを見渡す。


(誰も…いない。)


時間は夜でどうやら森の中にいるらしい。


「夜の森か。まあ、基本は探索から…だよね?」


とにかく歩いていると前方の茂みが動いた。


「…っ!」


この夜の森の中、果たして友好的な生物はいるのだろうか。


「は、はは……マジか。」


——その正体は鶏だった。でも、明らかに普通の鶏よりも大きいし、口から舌が出てよだれを垂らしてるし、何よりも…目の焦点が合っていない。じりじりと谷口に近づいてくる。


「これ、詰んでるよなぁ。」


鶏を見ながら、後ろに少しずつ下がる。いつの間にか崖っぷちにいた。


「…くそ。鶏の癖して、賢いじゃんか。」

「コケェェェェ!!!」


突っ込んで来る。この高さではあの鶏は死なないだろうが人間なら……即死だ。覚悟を決めかけた所で、何処かから奇声が聞こえて…飛んで来た物で鶏が砕け散った。


「……『クレイジーチキン』。どの部分を煮ても焼いても揚げても燻製にしても、とっーーても!美味な食材ィ。ですがぁ、俺はぁ…………生で!!!食べます!!!!!!」


コック服を着た二十代程の灰色の髪の男が、口を大きく開けてガツガツと食べ始める。内臓から脳や目、果ては骨まで齧り尽くし、血が付いた地面も食べ…2分程で平らげた。それを谷口はただ見つめる事しかできなかった。


「あのぉ?何故こんなに美味なのに、殆どの人は食べないんですかねぇ??」

「……さあね。恐らく、強いから容易に食べられないんじゃないかな?」


(狂ってる。会話が通じてるか怪しいなぁ。)


「はっ!?たしかにそうですねぇ!!この『果ての森』の食材さん達は、実に本当に素晴らしく美味なのですが、他の人がここに来る事はめったにないのですよぉ。はいはい、そういう事だったんですか。」


そう言って、男は鶏を砕いた巨大な鉈を拾い上げ、立ち去っていった。谷口は安堵した。崖から離れていい感じの所に陣取る。


「こ、怖えええ!?何アイツ……マジやべえ。サリ君の方が100倍マシだろ…あんなの。はあ。これからどうしようかな〜。」


悩んでいると、ふと腹が鳴る。


「落ち着いたからか、腹減ったなぁ…っ!?」

「——お腹!…減っていますねぇ???」


突然、さっきの男が目の前にいてびっくりして腰が抜けた。


「い、いやあ別にお腹なんてぇ〜減ってないしぃ〜。」

「意地を張っても無駄ですよぉ。俺、耳が良いのでよく聞こえましたよ〜貴方の断末魔が。」

「断末魔ってそんな大袈裟な……。」


唐突に男は鉈を振り上げ、地面を抉った。


「え、ちょ……」

「腹がぁ…腹が減ったら……生物は皆死ぬんです。苦しいでしょう、そうでしょう!!!!分かりますよ。では、行きましょう?」


無理矢理、谷口を立ち上がらせて肩に背負う。


「えっーと。ちなみにどこに行くのか聞いてもいい?」

「当然の疑問ですね!俺らの家だレッッッツゴオオオオオオオ!」

「っ!うぎゃああああ!?!?」


ジャンプして木の上に行き、木を足場代わりにして飛び石のようにして飛んでいく。


「いやっほーーーーーーい!!!」

「またこのパターンかよぉおおお!?!?!」


男と谷口の叫び声が果ての森に響き渡った。飛んだ走ったりの衝撃で谷口は意識を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


窓から差す光、包丁で切る音、何かを煮ている匂いで谷口は目を覚ました。


(ソファーで寝てたのか。……ん?)


谷口は起き上がる。


「…あっ。起きましたか。今、朝食を持ってきますね。」


ソファーの向こうにある台所から声がしたと思ったら、昨日の男が料理を持ってくる。


「すいません。こちらの方に来て貰えると…。」

「あっ、はい。」


男の言うがままに立ち上がり、谷口は机の周りの七つの椅子のうちの一つに座る。そこに料理と飲み物を置いた。


「どうぞ、おかわりもありますから沢山食べて下さいね。」

「………。」


(…昨日のあの人だよね?コック服だし、でも印象が全然違うような………?)


考えを巡らせていると、男は戸惑い混じりに聞いてくる。


「もしかして………嫌いな食べ物とか…ありましたか?」

「……っ!?いやいや、無いよ私にはそういうの。」


(…食べ物に恨みはないよな。)


とにかくこの味噌汁を箸で食べ………。


「えっ。箸?味噌汁??」


改めて、料理のラインナップを確認する。

味噌汁はもちろん、白米、焼き鮭、ほうれん草のおひたし…沢庵や梅干しもある。


「飲み物は…」


香りで分かったが念のため、一口飲む。


「……玄米茶…だと。」

「貴方は見た目が『日本人』に見えたので、日本の朝食をイメージして作ってみました!」


谷口は改めて、味噌汁を啜る。


「…美味い。」

「口に合って良かったです。」


考えるべき事はいくらでもある。けど今は後回しだ。飯を食べる事に全力を尽くそう。


とてもお腹が減っていたのか、男が作った料理が凄く美味かったのか、あっという間に机にあった料理が全て無くなった。物足りないと感じていると、男が少しニヤつきつつ聞いてくる。


「…おかわり………ありますよ??」

「……っ!?おかわり!!!」


もう一食分食べ切って、残った玄米茶を飲む。


「あーーー食った食った。ご馳走様でした。」

「いい食べっぷりでしたよ。料理人冥利に尽きますね。」

「皿洗いくらいは手伝わせてよ。こんなに美味い和食なんて久しぶりに食べたからさ。」

「……っ!」


何故か、その発言に男は感銘を受けていた。涙が溢れ始める。


「私、何か悪い事言った!?」

「あっ。すみません…他の方々は後片付けとかろくにしない方々なので……ついっ。」


その後、2人は台所で皿洗いをした。


「何これ!?こんな調理器具あんのかぁ。」

「えっと。余り触らない方が良いですよ。それ、前にウロボロスを殺…調理する時に使った物で……その毒が未だについてますから。」

「へ、へぇ……やっぱ異世界だわぁここ。」


そんな会話をしつつ、2人は少し仲良くなった。





















































































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