六話 暗躍/劇場

やまねと山崎が行った事を確認すると、サリは

谷口を見る。


「奴らはもう行ったぞ……そろそろ狸寝入りをやめろ道化。」

「……あら?バレちゃってた??」


よっと、谷口は飛び起きた。


「…ちなみに、いつ気がついたの?参考までに教えて欲しいかな。」

「……最初からだ。心配せずとも、気づいてはいないだろうよ。」

「そうかい。」


谷口は悪そうに笑う。サリも負けじと笑い返す。


「じゃあ、こっちはこっちで色々と暗躍しようか。サリ君。ああ、楽しくなってきた!!」

「フン。たまには道化と戯れるのも悪くない。」


2人は歩き出す。


「どうやって行くのかは………うん。まあ察した。」

「…では行くぞ道化!舌を噛むなよ!!」


サリは谷口の首根っこを掴んだ。膝を曲げたかと思った矢先、飛んていた。平原の一帯が衝撃でバキバキに割れたのを遠目で見ながら、谷口はやっぱり発狂した。


「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」


…平原には誰も居なくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


視点は一旦、やまね&山崎ペアに切り替わる。

サリの魔法で飛ばされた先は、町の近くにある森であった。運動能力が高い2人は何とか無傷で着地に成功する事ができた。


「……はあ。何とかなったな……。やまねは無事か?」

「こっちは平気。カバンも大丈夫そうだよ。」

「…ならいい。」


山崎はカバンから地図を取り出す。


「ここは……ああ、この森か。飛んでた時に見た町の方角的に………あっち進めば、町に着けるな。」

「…聖亜くん、それだと逆方向になるんじゃないかな?」


やまねは苦笑いをしながら言う。山崎は、方向音痴であるといつか谷口が言っていた事を思い出した。


「……そうか。やまね、案内を頼む。」

「ふふ。分かりました。」


2人は森を歩いた。数分後、町の門らしきものが見えてきた。不意に、山崎は大きな茂みの中に隠れる。やまねもそれに続いた。


「どうしたの聖亜くん?隠れたりなんかして。」

「……ふと思ったんだ。俺らの格好だと悪目立ちするのではないかと。」


その発言にやまねはハッとした。


「た、確かに。今の僕たち、制服だもんね。」

「…そうなんだ。クソ。町はもう見えてるってのに…一体どうすれば……?」


山崎は真剣に悩んでいる。やまねも真面目に考える。……そして同時に思い出す。


「「………カバンだ!!」」


山崎はカバンの中身をよく見てみる。案の定、服が入っていた。


「よし、これで………。」


町に入れる。と思ってしまったのが間違いだった。サリの性格上、率先してこれを準備したという事は無いだろう。だったらこれを用意した奴はただ1人。


「……谷口の野郎。なんでよりにもよって燕尾服なんだよ!ふざけんなよ!?男性用でよかったですねってか?誰が着るかこんなもん!!」


思いっきり投げ捨てようとしたら、服の中から何か本の様な物が落ちてきた。否、それは演劇部の部員ならよく知っているものだった。


「……これって、脚本、だよな……っ!まさか、」


辺りを見渡すと、いつの間にかやまねがいない。一旦、茂みから出た。


「一体何処に…。」

「……そこにいらっしゃったのね。ジョン。

探しましたよ。今日は、お忍びであの町に連れていってくれるのでしょう?…楽しみだわ。」


背後から知らない女の声がした。普段だったら、即鎮圧するのだが、山崎は長年の経験で察した。


山崎は無言で振り返る。


「お前………やまねか?」

「…やまね?………まさかまだ寝ぼけているのですか?まだ貴方、着替えてもいませんですし。」


山崎はじっと見つめる。


白と薄い緑色の丈の長いワンピースを着ていて麦わら帽子をつけた、黒髪で、少し長い髪を淡いピンク色のシュシュで、後ろをポニーテールにしている少女がそこにいた。よく見ると、ワンピースに薄く四葉のクローバーの様なものが刺繍されている。靴だけはやまねが履いているのと同じなので、本人である事は間違い無い筈なのだが…心なしか少女の頬が赤くなる。


「ジョンったら。そんなにじっと見られると、その………………は、恥ずかしい//……です。」

「…あっ?!その、すまない……。」


(何で謝ってるんだ俺!?相手はやまねだぞ!)


……正直、舐めていた。まさか短期間でここまで練り上げてくるとは。


(谷口の奴、一体何を考えてやがる。)


ふと脚本の中に手紙が挟まっているのが見えた。それを取り出して内容を見てみる。


「…………………………………………。」

「ジョン?様子が変です。大丈夫ですか?」


少女に心配されながら、やまねのこの行動の意味を理解し、山崎はこの状況に納得した。せざるを得なかった。ただ一言、言いたい事は、


(帰ったら絶対、谷口をぶち殺す。)


という事だった。…覚悟を決め、脚本に目を通す。…………そして少女、否、アリスに言った。


「申し訳ありませんアリスお嬢様。貴女がとても愛らしくてつい、からかいすぎてしまいました。」

「…やっぱりそうだっだのね………もうっ。」


アリスは軽くジョンを叩く。


「手を上げるなんて、はしたないですよ。お嬢様。……後ろを向いて貰えませんか?… 着替えますので。」

「!?は、はいっ!」


すぐに後ろを向いた。よく見ると、耳が真っ赤になっていた。それを見ながら燕尾服を着る。こういう早着替えはよくやっていたので、2分程で終わらせた。


「………お待たせいたしました。着替え終わりましたよ。お嬢様。もうこっちを見ても大丈夫です。」

「……本当?」

「本当ですよ。さあ、町へ行きましょう。お嬢様。…今日が楽しみすぎて昨日、寝れなかった事をジョンは存じておりますぞ。」


アリスはジョンの方を見る。


「…何でジョンがそれを知ってるの?まま、まさか!」

「いえまさか。単なる予想を述べたまでです。ですが、その反応はひょっとして…………。」


ジョンはニヤリと笑う。


「〜〜〜〜〜っ///うるさい、うるさい!!」


アリスは町の方に駆け出すが、ある程度で、足を止める。


「…何でまだそこにいるのですか?早く来て下さい!………1人だと……寂しい…です。」

「かしこまりました。お嬢様。」


ジョンはアリスの方へと走り、すぐに追いついた。


「では行きましょう!」

「ええ。お嬢様のお心のままに。」


2人は歩く。


…やまねは山崎に小声でささやいた。


「私たちの目的は……分かりますね。ジョン。」

「存じております。精々、我々は事が起きるまで舞台の上で踊りましょう。アリスお嬢様。」


…町の門をくぐる。

2人の役者が今、舞台に上がった。


谷口劇場の開幕である。









































































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