七話 祭り/決闘/終幕

……何やら町が騒がしい。そう考え読みかけの本を閉じる。鎧を着て、剣を持ち、自身がいた宿舎から外へ出た。近くにいた部下に話しかける。


「おい、町が騒がしいぞ、何かあったのか?」

「はっ!アモレ王国騎士団団長様!!…それが…。」


部下が見ている方向をみる。その先で人だかりができている様だった。部下は補足する。


「どうやら、何処ぞの貴族の者が来たらしく……いかがしますか?」

「…人数と容姿は?」

「私が見た限りですと、2人ですね。1人はとても…可愛らしいご令嬢で、もう1人はその使用人といったところでしょうか。両者ともに髪色が黒く、」


部下がいい終わる前にアモレが言う。


「全ての騎士は王国に戻る様に伝えろ。」

「しかし………。」

「これは団長命令だ。……分かるな?」

「……っ!ハッ!!」


敬礼をしてから部下は駆け出して行った。

それを傍目で見ながら、人だかりがある方向に走る。ふと、ここに滞在していた経緯を思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2日前、昼下がりの城内の廊下にて。訓練場に行こうと歩いていると、不意に声が聞こえた。


「いたいた、アモレ団長。探しましたよ。」

「…勇者様が私に何か?」


勇者と言われた少年は言った。


「…唐突ですがこれから、ハラハの町に行って来て下さい。勿論、騎士団を連れてね。…目的?それは簡単ですよ。魔王が召喚した人間がこの町にやってきます。特徴は、僕と同じ黒髪だ。それの拘束、もしくは殺害を頼みたいのですよ。」

「…魔王はあなたが倒した筈だったのでは?」

「う〜ん、それは……。ちょっと耳貸して。」

「…はあ。」


少年に従いアモレは耳を貸した。


「……実はまだ生きてるんだ、魔王。」

「…!何だって!?」


声が大きいよと苦笑いを浮かべながら言われ、ただただ黙るしかなかった。


「詳細は僕の部屋でしますか?」

「いえ、それだけ聞けば充分です。…すぐに騎士団の皆に支度をさせます。…勇者様は来るのでしょうか?」


少年は一瞬、悩むそぶりをしたがすぐに答える。


「…こっちはこっちで別件があるから、任せますよ。………アモレ王国騎士団団長殿。」

「…お任せください!」


そう言って、アモレは足早に去っていく…その時、少年は何かをつぶやいていた気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…話は少し遡る。


視点はやまね&山崎……今はアリス&ジョンの視点に切り替わる。門をくぐり、町に少し入ってきた時、20代ほどの緑髪の男が話しかけてきた。


「ようこそ!ハラハの…町……へ。」


アリスの可愛さにあてられたのか、声がだんだん小さくなっていった。その様子を見てアリス

は薄く微笑む。


「ご丁寧にありがとうございます。ほら、ジョンも!」

「お心遣い、痛み入ります。……貴方のお名前を聞いても?」


男は咳払いをして言った。


「僕の名前はロンです。」

「ロン殿ですね……失礼なのは承知なのですが、この町を案内してくれませんか?」

「…案内…ですか?」


ジョンの発言にロンが悩んでいるとアリスの援護が入る。


「…私からもお願いします!なにぶん、世間知らずな者ですので……駄目、でしょうか?」


アリスの顔が少し曇る。

ここでノーと言ったら男じゃない。答えは明白だっだ。


「もちろん!!この町の隅々まで案内して見せます!!!……このロンの名にかけて。」


カッコよく言い切る。アリスの顔はパーっと明るくなった。……ジョンは心なしかジト目を向けていた気がしたが、そんな事はどうでもよかった。


「では参りましょう!!…………アリスさんでいいですよね。」

「はっ、はい。良いですよ。さあ行きましょう!…ジョンも、ほら!」

「…かしこまりました。ロン殿、もしお嬢様の教育に悪い場所に連れていったりしたら……分かりますね?」

「!?はい!了解しました!!」


こうしてロンの町案内が始まった。結果的に、商店街から町の外れにある広場まで、ほぼ全てをまわる事が出来た。その途中でご飯を食べたり、公園で休んだりと色々な事をしていたら、噂を聞きつけたのか他の町人たちもやってきたりでいつの間にか、夜になりお祭り騒ぎになっていた。


「ア、アリス様。花束です。受け取って下さい!」

「ありがとうございます!………大事にしますね。」


「あの、今度来たらでいいですけど、一緒にお、お茶してくれませんか!?」

「お茶ですか。いいですね。…その時は是非、

私から奢らせて下さい。……貴女のお名前をお聞きしても?」


茶髪の少女は言った。


「〜っ!シアと…言います///」

「シア様ですね。………覚えておきます。」


ーーー楽しい時間はいつか、終わる。


「そこまでだ!!!」


怒鳴り声によって、祭りは終わりを告げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鎧を身に纏い、剣を携えた金髪の男だった。


周りの人が口々に『騎士団長』と言っていた。

アリスは無言になる。………ジョンは言った。


「………お話は広場で伺います。…それで宜しいでしょうか?」

「ああ、いいぞ。そっちの方が都合が良い。」

「……お嬢様も、よろしいですね。」

「分かり、ました。」


ジョンは町の人たちの方向に振り返る。


「そういう訳ですので、夜にもなりましたし、今日の所はここでお開きにしましょう。」


町の人々は渋々ながらも自分の家に帰っていった。


それを見届けて男は言う。


「じゃあ、ついて来い。………逃げるなよ。」


その男に2人は無言でついていく。そうこうしているうちに、広場についた。


「まず、……あの判断だけは感謝する。あの町人たちにはこれ以上、酷い目に合わせたくなかったからな。」


男は剣を抜く。


「俺の名前はアモレ!王国騎士団団長だ!!

自身が無実だというのなら、俺に勝って、力で示せ!!!」

「……手荒な真似はしたくはありませんでしたが、……仕方ありません。格の違いを見せてあげましょう。お嬢様、お下がり下さい。」

「………はい。ジョン!これを。」


アリスはお土産屋で買った木刀をジョンに渡す。


「かたじけない。では、」

「舐めてるのかお前?まあいい。……いざ、尋常に、」


「「勝負!!!」」


先に動いたのは、アモレだった。その剣で、ジョンの首を切り落と………せなかった。


「……は?」


さっきまでジョンがいた筈なのにいない。


「……貴方の敗因はただ一つです。」

「……っ!!後ろか!?」


振り返りながら後ろに剣を振る。だが避けられた。


「ちょこまかとしやがって!!正々堂々戦えよ!!!」


ジョンはため息をつく。


「そうですか…分かりました。……では精々少しでも長く、……耐えて下さい。」


瞬間、アモレの視界から消えた。


「!?どこに、」


行った?とまで言う事ができずに、気がついたら体が宙に浮いていた。


(鎧ごしとは言え、斬られたのか?この俺が??)


アモレは文句無しで王国最強である。小さい時からどんなやつでも余裕で倒し、屈服させてきた。故に、


「鍛錬もせず努力も何もせず、ただ慢心した。」


ジョンは木刀を振る。……っ!剣を捉えられない?!……なす術もなく連撃が鎧を砕かれていく。


「——ハッ、出直してこい。」


アモレの脳天に全力の攻撃が直撃し、広場へと叩き落とされる。衝撃で広場は割れて、ジョンの木刀もへし折れた。


「……………はあ。」


ジョン…否、山崎はアモレを見る。どうやら気絶しているらしい。らしくもなく、熱くなってしまった。


(こいつは、昔の俺だ。あー同族嫌悪、同族嫌悪。)


遠くからアリス…否、やまねが何かを叫んでいる。


「ーーーーけて!ーーーーーー避けて!!!」


…心臓に何かが入り、貫通した感覚がした。

ありえない。これがある事がおかし…………


………山崎は倒れた。左胸から大量の血が流れている。


「…別件が思いの外、早く終わったので来て見たのですが…………。」


倒れている山崎を見る。


「まずは、1人目ですかね。」


それを聞き、絶望しているだけのやまねでは無かった。


「……っ『終幕』!!」

「…仲間が死んで、頭がおかしくなったのですか……おや?」


さっきまでいた山崎の姿が消えていた。


「なるほど、なるほど。転移魔法ですか。大したものです。ですが、あなたも転移しないと言う事は、1人限定の転移といったところです?」


少年はまた手を銃の形にしてやまねに向ける。


「では、あなたも一緒にあの世へいって下さい。さよなら。」


やまねが動く前に、『バン』と少年は言った。

それでやまねは死んだ……はずだった。


ドンッと強く、やまねを突き飛ばしていなければ………


「……っ!ロ…!?」

「よかった…これで、」


言い切る前にロンの頭は爆散した。首から大量の鮮血が飛び散り、やまねの服や肌を汚しながら…………力無く、倒れた。


「……えっ。そんな…………どうして?…。」


自然と力が抜け、膝から崩れ落ちた。

少年は悪辣に笑う。


「は、馬鹿な奴。無駄死にもいい所ですねぇ。」

「——そうでもないさ。」


聞き覚えがある声。でもここに居る筈がない声がした。…………前方を見る。


「た、…谷口……くん?」

「そうだよ、やまねちゃん。……ヒーローは遅れてやってくるものさ。」


いつもの調子で、谷口は笑った。








































































































































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