五話 方針

「………という訳で魔王君のあだ名は『サリ』でいいかい、2人とも。」


谷口は2人を見やる。


「…うん。いいと思う。」

「まあ、いいんじゃねえの。」


2人は納得したように頷いた。谷口は心底疲れたと言わんばかりに寝転がる。


「谷口くん大丈夫?まさか…………あの後ずっと起きてたの?」

「あー……ごめん。サリ君と今後の作戦についての事が思ってた以上に盛り上がっちゃって。……君、本当に眠くないの?」


サリは不敵に笑った。


「当然だぞ道化。我は1年程なら寝ずにいられる。…軟弱だな貴様。」

「はは。人間を魔王の基準で計らないで欲しいな。」


谷口は目を閉じる。


「…今後の方針……はサリ君に全部……言ってある………それ…に…従う…よう…に…ああ…また……言えな……かった…な…。」


まるで死んだかのように谷口は眠りについた。

それを見届けて、やまねと山崎はサリの方を見る。


「それで?俺たちはこれからどうすればいい?」

「教えて下さいサリさん!」

「端的に言えば、二手に分かれる。」

「……二手に…ですか?」


やまねは不安そうに言う。当然、不安に思うだろう。予想通りだ………………サリは言う。


「小娘の言いたいことは分かるぞ。故にこれから我の、『魔王の加護』を付与する。…手を出せ。」


やまねが恐る恐る手を出そうした所に山崎が割って入る。


「待てサリ。まずは俺からやってくれ。」


「なるほどな。自身の体で有害か無害か確かめる気か…だが案ずるな小僧。この加護はあくまでも貴様達の身体能力が向上するだけのものだ。………信じよ。」


「……。」


「第一、この加護を付与するには身体が万全な状態でなければならん。まず小僧は我の回復魔法で身体を回復してからやらねばならない。回復魔法は少しでも集中が途切れでもしたら、最悪死ぬ可能性がある。故に、後回しだ。」


「それでも、」


「駄目だ。今の貴様の傷は、常人なら死んでいてもおかしくないレベルのものだ。小僧、お前はこの中で我の次に強い。万が一、失敗するような事があれば、貴重な戦力を失う事になる。

そうなればどうなるかわからない貴様ではあるまい?」


山崎は考える……………そして、


「…分かった。」


山崎はやまねから手を引いた。


「危なくなったら、助けるからな。」

「うん。…ありがとう聖亜くん。」


やまねはサリに手を出した。サリの手から闇のオーラのようなものが溢れている。


「ーーいくぞ。」

「…お願いします!」


サリの手がやまねの手を握る。闇のオーラがやまねに流れていく。


「…んっ。」


やまねが小さく喘いだ。その反応に山崎はバツが悪そうに顔を背けた。………その時だった。


「…………?…っ?!小僧!!伏せろ!!!」


それを聞き、すぐさま体を伏せた。

その途端、視界が真っ暗になる。


「……一体、何が………。」


だがそれもひと時のことだった。サリが何らかの魔法を使ったのだろう。視界が回復した。

山崎はサリを見る。


……サリの肉体には、まるで何者かに全身を斬りつけられたような傷あり、そこから大量の血が流れ出ている。


咄嗟に、山崎はサリに近づく。


「おい!大丈夫なのか?!」


「…ああ。後少し判断が遅れていたら、我は死んでいたかもしれん。心配するな。これくらいなら自己回復でどうとでもなる。道化は…無事のようだな。」


「そうか。……っ!やまねは?!」


サリは指を差す。……離れた所に頭から血を流して、やまねは倒れていた。


「……さっきまでここにいたよな?」

「…我の風魔法で飛ばした。」

「!何でそんな事をした?!」


山崎は激昂していたがサリは冷静であった。


「……あの時、小娘を飛ばさなかったら、間違いなく、我らは皆死んでいたであろうよ。それは小僧、貴様も分かっていた筈だ。」

「……やまねは無事なのか?」

「無事だ。…多少、加減はしたからな。」


聞きたい事は聞けたのか、山崎はすぐにやまねの所へ駆け出した。それを見ながらサリは思考する。


(…あの時、あの暗闇の中、小娘とは別の何者かが顕現していた。あれは一体?……。)


それ以上の事を考えようとしたが、山崎が倒れたやまねを背負って帰ってきたので、考えるのを止め、やまねに回復魔法を使って傷を癒す事に専念した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


まどろみの中で誰かの会話を聞く。


「…………よし、小僧に加護を……事に成功したぞ。調子は…だ?」

「……あんまり…変わってない気……大丈夫なんだろうな??」

「というか……にまた…加護……るか?俺は…絶対に……なんだが。」

「同感だ……の体…あれ………明らかに…拒絶反応……次は………は…死ぬ……しれん。」

「……!…起きたか!!」


山崎の声で視界が鮮明になる。体を起こした。


「…聖亜くん、僕、」


言葉を言いかけた瞬間、山崎はやまねを強く抱きしめ、胸に顔をうずめた。


「!聖亜くん?!」

「…良かった………本当に…生きててくれて。」

「……もしかして、泣いてる?」

「いやっ。…泣いてなんか………泣いてなんかないんだからなっ!」


(泣いてるなぁ。)


山崎は、初見だと、冷たい奴だと勘違いされることが多い。だが実は、根は仲間思いな良い奴である。本人は認めてないけど。長く付き合ってきたやまねと谷口はそれを良く知っていた。


「ごめんね。色々迷惑かけちゃったね。」


「迷惑…なんて、そんな。………俺がお前を、

助けるって…約束、したのに!」


「聖亜くんはちゃんと、僕を助けてくれたと思うよ。だって、こうして生きてるもの。」


「……っ!…そう…なのか?」


「そうだよ。むしろ僕が聖亜くんにお礼がしたいくらいだよ。」


「お礼、……お礼か。なあ、やまね。一つお願いを聞いてはもらえないだろうか?」


山崎は一呼吸して、こう言った。


「……しばらく、このままでいてもいいか?」

「良いよ。……聖亜くんの気が済むまで。」


聖亜が泣き止むまで、やまねは付き合った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


軽く咳払い。


「……貴様ら。もういいのか?」

「えっと、すみません。サリさんですよね?僕の怪我を癒してくれたのは。」

「そうだぞ小娘。この我が治したのだ。感謝するがいい!」

「………お前は動かなかったくせに。」


ボソッと山崎は言う。それを聞き逃すサリではなかった。


「そうだなぁ。我はあの時は肉体の自己再生しておったからな。それよりも、小娘の胸の中でピーピーと泣く小僧の姿は、中々滑稽であったぞ。」

「………。」


お互いにガンを飛ばしていた。このままだと、戦闘が起きてしまいそうだったので、何とか話を変える。


「そ、それよりもサリさん。二手に分かれるってどういう事ですか?それに、どう分かれて、何をするんでしょうか?」


山崎にガンを飛ばすのをやめ、やまねの方を見て言う。


「ああ、その事か。……色々あったから忘れておったよ。」

「……俺も忘れてたぜ。」


山崎もサリに同意する。


「最初から説明しろよ。分かりやすくな。」

「サリさん、頑張って下さい!」

「…… 善処しよう。」


サリは言った。


「2度は言わん。心して聞け。」

「……………。」

「…フン。まず二手に分かれる目的は、道化曰く、『情報収集』の為だ。我はある程度は知っているが、生まれてからずっと、魔王城にいた故、どこまでが真実なのかも分からぬ。4人で1つの情報を見つけるよりも、4人で分かれて4つの情報を見つけたほうがいいと奴は言っておったわ。」


「それでも失敗した時のリスクの方が上回るとかで、互いに色々と考えを巡らせた結果、2人1組に決まった。」


「で、その内訳は熟考した結果、やまね&山崎ペアと谷口&サリのペアで決まった……道化は最後まで小娘とペアがいいとごねていたが。」


「…ここが重要だ。貴様らがやる事、それは

町に行く事だ。何、距離はそこまで遠くないぞ。歩きで丸1日で着ける。そこで情報収集を3日間するんだ。それが終わり次第、ここに戻ってこい。」


「残りの我らで、ある魔女が住んでいた書庫に行く。あそこには大体のものが揃っているからな。」


「………説明は以上だ。質問はあるか?」


2人は1度顔を見合わせる。そしてまたサリを見て、先に口を開いたのはやまねだった。


「あの。地図とかってありますか?」

「……当たり前だ。」


そう言ってサリはどこからか、2つのカバンを取り出し、2人に渡した。


「貴様らが着る服も含め、大体のものはいれてある。そこは安心しろ。」

「…意外に準備がいいんだな。」

「我を誰と心得る。魔王であるぞ。」

「…ちなみに、いつから行くんでしょうか?」


やまねがそう質問するとサリはきょとんとして言った。


「何をいうか。今からに決まっておろう。」


そう言ってサリは魔法陣を展開し始めた。


「ハッ。…嫌な予感がするな。やまね。」

「奇遇だね。僕もそう思ったよ…聖亜くん。」


その予感は悲しいほどに的中した。


「転移魔法は使えぬが、風魔法の応用で、ある程度飛ばす事は出来る。……では、行ってこい!!」


風魔法が発動し、2人は空へと飛んで行った。


「ぎゃあああああああああああ?!?!?」

「きゃあああああああああああ!?!?!」


断末魔を叫びながら。

佐藤やまねと山崎聖亜は情報収集の為、

町へと行く旅路へと歩み始めたのでした。































































































































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