四話 代案
魔王はその返答を聞きすぐさま、やまねの心臓目掛けて手刀を放とうとして……
「待て待て。そう慌てなさんな…せっかちさんめ。話はまだ終わってないよ。」
……体に届く寸前で止める。否、止められた。
「……間に合って良かった。大丈夫か?やまね。」
「う…うん、大丈夫。」
山崎がすんでのところで魔王とやまねの間に入り手刀を放とうとした手首を掴み、止められていた。
魔王は顔を谷口の方へ向ける。
「……どういう意味だ。」
「いやだからさ、そのまんまの意味だよ。だからさ一旦、臨戦態勢解こ?ここは平和的にいこうじゃないか。」
「山崎君も、やまねちゃんを助けてくれたのは大いに感謝するけど手、離してあげな?」
「………いいのか?」
「うん大丈夫大丈夫。……多分。」
「…信じるからな。」
ため息をつきながらも山崎は魔王の手首から手を離した。
「さて魔王君。仕切り直して、話し合いを続けるとしようか。」
「フン。先の発言の意味をちゃんと説明できるのだろうな?道化。出来ぬのなら、貴様から先にあの世へと送るぞ。」
「怖っ?!…まあ勿論説明は出来るさ。ただし、先に私の質問に答えたらの話になるけど……いいかな?」
「この我を前にして、ここまで傲慢に振る舞えるとは、大したものだ。…………言ってみろ。」
一呼吸してから、質問を投げかける。
「単刀直入に聞こうか。……何があった?」
…………魔王は答えない。さらに続ける。
「あのさ、魔王1人じゃ、結局は世界なんて統べることなんてできやしないんだよ。何故なら、どんなに強くても肉体は一つしかないのだから。まあ分身とか出来るなら、話は別だけど。けどね、そんな事が出来るのはいや、出来てしまうのは『本物の化物』だけだ。でも君からはその感じはしなかった。だから、必ずいたはずなんだ。周りで君を導き、手助けていた存在がね。」
………無言を貫く。だか谷口は容赦なく言葉を続けた。
「後、不思議に思ったのはこの場所だ。一見、何も無いように見えて、所々に柱の残骸が転がっている。木も一本もないこの広い平原が私にとって違和感でしかないんだよ。これはあくまで私の憶測だが、魔王君、元々ここには何かが建っていたんじゃないのかい?例えば……そうだな。君がいるべきだった魔王城とか?」
…見透かされている。そう形容する事しか出来ない。
「だからさ、教えてほしいな。君がここまでにあった出来事を。私達を召喚した目的を。」
……葛藤、混乱、屈辱、戦慄。様々な想いが心の鍋の中でぐちゃぐちゃに混ざる。だが、もう頼るしかもう道はないと最初から決めていたではないか。ふと、脳裏にフラッシュバックする。
ーー『魔王…様………後は……任せ…ます。』
プライドを捨て、魔王は話した。突如として魔王城ごと海峡に飛ばされた事を。城内の魔物も皆死に、自身も死ぬ事を覚悟した事を。何よりも、最後まで生き残った配下のおかげで、生き残った事を。……包み隠さず全て言い切った。
無言で聞いていた3人は各々別の反応を見せた。
ある者は、目を伏せて涙を見せんと努力し、
ある者は、そんな卑怯な事をした下手人に対しての怒りを募らせ、
ある者は、その話を聞き、面白そうだなと笑みを浮かべる。
魔王は続ける。
「貴様らを召喚した目的はただ一つ。魔王軍を瓦解させた下手人の殺害。………ただそれだけだ。」
静寂を破ったのは山崎だった
「……なるほどな。異世界人には異世界人で対抗するって事か。道理だな。」
「けど、私達そういうチート系能力使えないけどねぇ〜。どうする?やまねちゃん??」
「……何とかしないと元の世界に帰れないよね。だったら頑張ってこ、殺すしかないんじゃないかな。」
「……あっ!それ聞きたかったんだ。ナイス!やまねちゃん。なあ魔王君、私達帰れるんだよな?元いた場所に。」
3人は魔王を見る。
「フン。当然だ。目的を遂げれたのなら元いた世界に帰したやろう。」
「……嘘だったら、承知しないぞ。」
「そう疑うな小僧。魔王サナヤタリの全てに賭けて誓ってやろう。」
それよりもと、話を区切る。
「我の答えは全て言った。今度は道化、貴様の番だ。よもや忘れたとは言うまいな?」
「………ああそうだったね。わかってるよ。けどさ、」
谷口が言う前に、誰かのお腹の音が鳴った。
「やまね?お前、腹減ったのか?」
「〜〜っ///。」
「……という訳でこの話は飯食った後でも良い?私も結構お腹減ってるし……。」
「はぁ。…………勝手にしろ。」
…ちなみに、食材や調理器具は全て魔王がもってきてくれました。
「……何故この我がこんな雑用を……。」
「本当にすいません!料理は僕がやりますから!」
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「いやぁ!食った食った。流石やまねちゃん。相変わらず料理上手だね。異世界の食材をここまでアレンジできるとは……。山崎君もなんか言えよ!」
「ん?ああ、食ったら眠くなったから寝るわ。後託す。」
「え、ちょっ!?」
山崎は横になり、すぐに寝息をたてはじめる。
一瞬起こそうするが、やめた。
「…まあ色々と頑張ってくれたしね。」
「…小僧は寝たか。まあ無理もない。何せ奴は、貴様らを守りながら丸1日、我と戦い続けていたからな。」
「!そうだったん!?マジかー。」
魔王が谷口の前に座った。
「…やまねちゃんは?」
「小娘なら、余った食材を燻製にしているな。」
少し離れたところに作った簡易調理場にやまねはいた。
「あー本当だ。煙上がってるわ。料理してるやまねちゃんも可愛いよなぁ。エプロンとかつけても絶対似合うよなぁ…なあ魔王君。ここって朝とか夜とかっていう概念あるの?ずっと空の色が同じなんだけど。」
「当然あるぞ。だがここだけは例外だ。」
「……そっか。」
魔王は無言で睨めつける。
「……分かってるよ。そう睨めつけなくたっていいでしょ。」
「貴様の答えを聞こう。」
「簡潔に言うと、『言い方が嫌だったから断った。』だけだよ。本当にそれだけの話なんだよ。」
「……それが本当なら、ほとほとしょうもない理由よな。」
谷口は苦笑いを浮かべた。
「しょうもない理由、ね。まあそうだね。その通りだよ。私はさ、上下関係ってのが大嫌いなのさ。誰が上とか誰が下かなんていちいち比べるなんて時間の無駄でしかないからね。」
今寝てる山崎君も、きっと同じ事を言うと思うよ。と付け加えて。
「私達は配下とかいう堅苦しい立場は似合わない。そういうのはもっと適役がいるだろうからね。…………そこで魔王君、ここで私は君に代案を出そうと思う。」
「…聞くだけ聞いてやる。言ってみろ、道化。」
「私達は別に君に忠誠とか忠義とかは誓わない。けど、君の目的の成就の為に力を尽くそう。それが私達が、元の世界に帰る近道になるのなら……………こんな感じでどうよ?」
魔王は腕を組み思考する。………そして結論に辿り着く。
「……つまり、『平等な協力関係』を望むのか。この我に。」
「う〜ん。まあそう言う事になるのかな?でもなんか違う気がする………。」
言葉が出そうで出ない感覚に襲われてもどかしくしていると、いつの間にか料理を終えたのか
やまねが帰ってきて谷口の隣に座った。
「谷口君、サナヤタリさんと何の話をしてるの?」
「いやぁそれがさぁ…………。」
谷口はここに至る経緯を説明した。真面目に聞いていたやまねがはたと気づく。気づいた時に少しだけ口もとが緩んだ。
「…どったのやまねちゃん。その顔スマホの待ち受けにしてもいい?」
「恥ずかしいからダメ。それよりも僕、谷口くんが言いたかった事、分かっちゃった。」
「え!?本当に!?教えて教えて!!」
「それはねーーー。」
やまねはそっと谷口に耳打ちした。谷口の顔が一瞬真っ赤になったが、その言葉を聞きすぐに平静を取り戻した。そして笑いが込み上げてくる。
「アハハハハハ!……………そっか。そんな簡単な言葉が出なかったのか。脚本家失格だな私は。」
「谷口くんにしては珍しいよね。大丈夫?疲れてない?…よく見ると顔の所々が腫れてるし。」
「あーいやそれはまあ、色々あってね……。」
ふと山崎との会話を思い出す。
「………やまねちゃん。これが終わったら私、君に言いたい事があるんだ。」
「………死亡フラグ??」
「違うよ。生存フラグへの伏線さ☆」
「もう。……分かりました。」
やまねは立ち上がる。
「料理したから疲れちゃった。もう休むね。おやすみ谷口くん。あまり夜更かししたらダメだよ。」
「うん了解。後でまた寝顔見にいくよ。」
「……また?…まあいっか。サナヤタリさんもおやすみなさい。」
「あ、ああ。」
やまねは離れていった。
(私と魔王君の2人きりの状態にするために、苦手な嘘まで使うなんて、本当にいい子だよな。)
それに報いるためにもと、魔王を見る。
「悪い。また待たせたか?」
「フン。……そうでもない。」
軽い沈黙。………口をひらく。
「さっき言ってた事、覚えてる?」
「無論だ。『平等な協力関係』だろう?」
「そうそれそれ。」
「我は、」
魔王が何か言う前に谷口が先に言葉を制した。
「ごめん。それ嘘。私が言いたかったのはそうじゃない。」
「………何?我に嘘をついただと。」
「まあ、厳密に言えば正しいよ。」
「……っ!貴様は何が言いたい!!はぐらかすのもいい加減に、」
「『友達』になろうぜ魔王君。いやサナヤタリ!」
「………………………………………は?」
絶句した。言っている意味が全くわからない。
「それは……どういう。」
「まんまの意味だよ。配下とか平等な協力関係とか難しい言葉は全部置いておいて、楽しくやろうぜってことだよ。」
「…楽しく、だと。ふざけるなぁ!!」
谷口の胸ぐらを掴む。
「貴様に何が分かる!?魔王軍は瓦解し、魔王城も側近も皆、我の全てが海の藻屑に消えた!貴様に我の気持ちの何が分かるか!!!」
「………分かるさ。」
「………………何だと。」
谷口は真面目な表情をしていた。
「…私も何度も経験したからね。出会いと別れを。」
「貴様ら人間の尺度で物事を図るな!!我は300年生きてきたんだぞ!!!」
「300年か……………大変、だったね。」
「道化風情が、一度痛い目に遭わねば…?!」
魔王サナヤタリの目は生まれつき全てが見える。肉体を透視する事も出来るし、あらゆる生物の過去、現在、未来をも見通すことも出来る。生活に支障をきたす為、基本的にはその能力は封じている。しかし、激情により封印が擬似的に解け、その目は谷口を視た。否、視てし
まった。
「……………………………………………。」
谷口の胸ぐらを掴む手が自然と離れる。
「ゲホッ。ふう。どうしたんだい魔王君?」
「…………………………貴様、何者だ。」
「何者って、人間でしょどう見ても。」
「……76666667。」
不意に魔王は数字を述べた。谷口は一瞬怪訝な表情をしたが、すぐに納得した表情に変わる。
「……ああなるほどね。君の目か。まあ正確に言えば、もっと増えると思うよ。結構忘れちゃってるし。」
「…………狂っている。」
魔王は初めて、この男に恐怖した。
それでもなお、正気を保っている事実に。
再度谷口は言う。
「『友達』になろうぜ。サナヤタリ。そうやって過去ばっかに囚われて、今を捨てるなんて良くないぜ。少なくとも、やまねちゃんが寝る時に反応してたじゃん。しかもしれっと飯食ってたの私見たよ。なんやかんやで君は優しい奴だと思うぞ。」
「………………………………。」
「ビジネスドライで作業的に攻略するより、皆でわいわいやった方が楽しいだろ?こういう経験はね後々、部下と絡む時とかに役立つゾ☆これ、私の経験則だからね♪」
「……………………。」
谷口は畳み掛ける。
「まさか偉大なる魔王サナヤタリであろうお方が人間3人如きと友達になれない……ぼっち野郎な訳(笑)ないですよねぇ???」
ブチィッ!!と心のどこかがちぎれた気がした。こうなったらヤケだ。徹底的にやってやる。
「……上等だ、道化………友達ィ?なってやろうではないか!!我の望みが成就するまで協力してもらうぞ!!!」
「いいねぇ。そう来なくっちゃ。てな訳で私もう眠いからもう寝るね。おやす、」
離れようとして…………腕を掴まれる。
「ん?魔王君?これってどういう………。」
魔王は凶悪な笑みを浮かべていた。
「…せっかく友達になったのだ……。小娘や小僧が起きるまで、話をしようじゃないか。何、遠慮はいらぬ。何せ、我らはもう友達なのだからなぁ!!!!!」
「ゆ、友情が重い!?ちょっ。だ、誰か、助けてぇーーーーーーーー!!!」
その後、谷口馨は2人が起きるまでエンドレスで
魔王サナヤタリと話をし続けた。
こうして、3人は魔王と『友達』になった。
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