三十話 雷鳴
レヌは接近して右手の爪で山崎の腹を抉る。
「ふっ!これでどうだぁ!!!」
「ぐっ…」
山崎は咄嗟に下がり、自身の傷を確認して首を傾げる。
「…ん?傷がない。というかそんなに痛くないな。まさかお前…手加減とかしたのか?」
「っ!?」
「…じゃあ、今度はこっちの番だな!!!」
レヌの迎撃を掻い潜りながら、右腕を斬り飛ばしそのまま首を落とそうとして、レヌの爪が迫りそれを剣で防ぎながら距離をとった。
「チッ、肉体を再生できるのか…面倒だな。」
「人間如きには出来ぬ技だ。」
「いやぁいらねえよ…見てて気持ち悪いからな。」
そうしている内に肉体は全快した。
「この我に対して尚その態度を崩さないか。ハハ…万死に値する……さあ、戦いを続けるぞ。この獣王レヌが、貴様を少しずつ嬲り殺してっ?!」
「話長え。」
——気づけば四肢が切断されて血を撒き散らしながらレヌは床に転がっていた。
「は……は?」
「戦いの最中に長話しようとか、舐めプかよ。」
流石に四肢を同時に切断されたからか、再生が遅い。レヌは山崎に見下ろされていた。
「…人間に見下されている?…っこの我が…獣王レヌが!?」
「お前しょうもないな。強さは人間も獣人も関係なく強ければ強いもんだろ。」
「……。」
「…はぁ。」
山崎は不満そうな顔をしながらため息をついた。
「俺が強いとか弱いとか関係なく、お前は弱い。何故ならお前は力の使い方を間違えてるからだ。」
「…。」
「真に強い奴はな……弱い奴を絶対に見下さない。そうやって力でいたぶって、自己顕示欲を満たそうなんて最早、強者ではなく弱者以下の屑だ。」
「…っ。」
長話をする山崎の後ろからレヌの尻尾の蛇が襲いかかる。
「……おい話、聞いてんのか?」
「あ……。」
後ろに目があるかの様にそれを避けて、蛇の頭の部分を左手で掴み、剣で斬り落とした。
「ちなみに俺は舐めプしてるからな。そうでもしないと戦おうともしないだろお前…でも、今のは良かった。やれば出来るじゃないか。」
「う、」
——勝てる気がしない。こんな人間にここまで矜持を傷つけられて愚弄されるなんて、許せない……嫌だ。殺してやる………絶対に殺してやる。
(…我では勝てないが…アレの封印を解けされすれば!)
「グオオオオオオオオオオオオーーー!!!!!!」
「…っ!うおっ、と。って、待てよ!!」
突然、レヌは咆哮する。腕の再生は諦めて足だけに再生力を流し込み完治させて、驚いている山崎を尻目に割れた窓から逃走した。
「チッ、流石に獣人だからか速いな!」
レヌはひたすらに逃げて逃げて、逃げ続けたがとうとう『旧大神殿』まで追い込まれる。
「……ここまでだな。」
「…ハ、」
「…?」
レヌは不気味に笑い出した。そして、右腕を再生させた。山崎は剣を構える。
「ハハ…さあ、獣王レヌが贄となり今こそ、封印を解かん!!」
自身の首を切断しようとして、脳裏に赤茶色の髪の少女が映る。
——ワシの許しもなく自害など…許すものか。
体が強制的に動かなくなる。
「…う、ウオオオオオオォォォ!!!!!」
それでも抵抗してレヌは雄叫びを上げる。これはもう意地だ。この人間に絶対的絶望を与えられるのなら、こんな封印を守る責務など捨ててやる。
かくして、その抵抗は奇跡的に成功し獣王レヌは自害する事に成功し首から大量の血が流れ、力無く倒れた。
「…?どういう事だよ。」
何も分かっていない山崎はただそこで立ち尽くしていたが、誰かの足音が聞こえ、その方向を見た。
「…は?」
その瞬間、壁画に思いっきり激突する。痛みよりも驚きが勝っていた。
(何が、起こった…。)
「——へぇ〜奴隷なのに俺の『雷撃』をもろ喰らっても五体満足なんてびっくりだぜ。加減して損したな。お前何者だ?」
「…お前こそ、誰だよ…っ。」
体が痺れて思う様に立ちにくいが、何とか立ち上がる。遠くに稲妻模様の白い外套を着た20代後半の黒髪黒目の女性が見えた。
「俺ら…神の奴隷の癖に口出しか。面白いね。教えてやる。俺の名は『
「…は?神様だって?」
口答えをした途端に右腕が消し飛んだ。出血もしない。肉が焼ける匂いがする。
「!っっづあ。」
「神の前でその態度は良くないとはいえ…やるねえ。これを喰らってもその反応。これは中々楽しくなりそうだなぁ…坊主。」
「……。」
——強い。戦えば間違いなく確実に死ぬ。
でも何故だろう。この湧き上がる高揚感は。
落とした剣を左手で握る。
「…でも、あの人ほどじゃねえよな。」
「…?何言ってやがる??」
あの人なら瞬殺出来ると何故か確信できる。
ならばと、山崎は剣を構えながら力強く笑う。
「…俺の名前は山崎聖亜。鳴神…だったか?覚えておけよ…お前をここでぶち殺す奴の名前だからなぁっ!!!」
「ハッそうかい、なら封印が解除されたばっかで体が鈍ってんだ。ちょっくら運動に付き合えや坊主!」
両者が『旧大神殿』にて激突する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃。やまねが寝ている中、部屋の中で谷口と青髪の少女は別の争いを繰り広げていた。
「…フッ、変態は別に否定はしないから一本だけ、そのちょっと長いやまねちゃんの髪を私にくれないかい?それとも一緒に分けようか?」
「っ!?嫌っすよ!交渉に持ち込んでも無駄っすよ!大体、髪の毛なんてワタシ食べませんし。」
「いやいや、結構実は美味しいんだよ髪の毛。試した事ないのかい?まあ、美少女の髪限定だけどね。」
「試す訳ないっすよそんな事…というかまるで食べた事があるみたいな言い回しっすね。」
「無論あるから勧めてるんだって。私は一度、服も体も装飾品すらも真っ白な少女の髪を食べた事があるのさ。いや、いくら学校では変態紳士を自称する私でも流石に抵抗はあった…あったんだが、食べた時に悟ったんだ『美少女の髪って美味いんだ』って。本当にそれをもっと早く気づいていれば良かったと心底後悔したよ。私、谷口馨の人生史上最大の失態だね。」
「…つまり、どういう事っすか?」
「君にそういった後悔をさせたくないって事さ。」
少女はすぐにやまねを庇う様に移動した。
「な、なんだいその動きは。まるで私の行動を遮ろうとしているみたいじゃあないか。」
「…みたいじゃなくて、そのつもりっすよ。馨さ…変態さん。」
「今、私の事を言い直して変態さんって呼んだかい!?」
「そうっすよ!!とっても相応しい名前だと思うっすっ!!」
「…まあ、君みたいな暗そうな子にそういう風に罵倒されるのも……なんか、良いなぁ。」
少女から掠れた悲鳴が聞こえた。
「……んじゃあ、折衷案で行こうか、そんなに怯えなくも良いじゃないか!もっと明るく行こうぜ☆」
「…今、ワタシは飢えた猛獣の檻の中にいる気分っす……もう、終わりっすね……ここで変態さんに押し倒されて…ワ、ワタシの貞操も、」
「待って待って、ストップストップ!!!これ以上は危ないって、後泣かないでくれよ!?まだ折衷案すら言ってないんだよ?」
「…『代わりにワタシの全てをあけ渡せ』…とかっすよね……どうせ。」
「え、どうせ!?私そんな風に見えてんの!?!?いくら私が変態でも傷つくぞそれは…はあ。私が言いたかったのは、『やまねちゃんの代わりに君の髪の毛を食べたい』って事。分かった?」
少女は一瞬、きょとんとした表情をしたが…
「…っそれはそれでかなりキモいっすよ!!!」
「えー駄目かなぁ。君さ、友達とかに身だしなみとかをしっかりすれば…絶対に可愛いとか言われた事ない?」
「っえ!?無いっすよぉ。やまねさんとか、ロネさんとか別に言われてないっすよ!!」
「うわぁ分かりやすっ……私が欲しいのはあくまでも『美少女の髪の毛』だ…つまり、分かるね?」
「……分かりたくないっすけど…ワタシの髪の毛、本当に食べたいっすか?」
「いや、そうすればこの件は丸く収まると思うんだ。私は『美少女の髪の毛』が食べれてハッピー。君もやまねちゃんを救えてハッピー。ほら、ウィンウィンの関係じゃないか。」
「…うーん。」
少女は数分程悩んでそして、決心した様に言った。
「…分かったっす。ワタシの髪の毛の一本を贈呈するっす……これでやまねちゃんがあの変態さんの魔の手から助かるのなら…やるっすよ。」
「…っしゃあ!!!」
少女は髪の毛をプチって取って渋々、谷口に渡した。
「痛っ…どうぞっす。」
「よし、早速試食じゃあ!!」
谷口は少女の髪を食べる。
「……どうっすか?」
「んー…スロゥちゃんのと比べると…味に深みがあるなぁ。あれはアッサリ系でこれは濃縮系…みたいな……悪くない味だったよ。ありがとう。」
「……どういたしましてって言いづらいっすけどね。」
そう話をしていると、谷口はふと視線を感じた。
「…あっ、起きたんすね。やまねさん!」
「うん…厄子さんが無事で本当に嬉しいんだけど…」
やまねは谷口を見る。やまねにしては珍しく怒りを帯びた声で聞いてくる。
「……さっきのアレは…何?」
「…アレ?それは一体、どこのアレのことですかな??」
「…谷口くん。」
「ちなみにさ、や、やまねちゃん……何処まで聞いてたの?」
「折衷案の辺りから…ずっと。」
「あ、あはは。なら最初から起きてるとかそう言っていれば良かったじゃないか〜全く、やまねちゃんは意地が悪いなぁ。このこのっ〜♪」
「それとこれとは、話は別…でしょ?」
やまねがベットから起き上がり、谷口の方に少しずつ接近してくる。急いで距離を取ろうとするが、やまねに手を掴まれた。
「あっ…ちょっ!?助けてよ君!私達は髪の毛談義をした仲でしょ!?!?」
「諦めて……一度地獄に落ちた方が良いっすよ…変態さん。」
「まだ、私って変態さん呼ばわりなのかよ!ねえ、やまねちゃん…一旦手打ちって事に、」
「変態さんの言い分は聞かなくって良いっす!やまねさん…これは先輩命令っすよ〜全力でやっちゃえっす!!」
「先輩って…君達ここに来るまでに一体何があったんだよぉ!!」
「……一応、最後に言いたい事はある?」
「っ最後!?……ああうん。分かった…分かったよ。でも、私はいずれ必ずやまねちゃんの髪の毛を食べるんだ…さあやってくれ。やまねちゃんの折檻なら、あの山崎君と比べたらご褒美の様なもの…さ。」
「…ここまで来ると一周回って、格好良く見えてくるっすね。」
「フフッ…そうだろって、ぐわ痛いっ、もうスタートですか!?痛い痛い痛い!!…やべっ、久しぶりだから、これマジで死ぬかもしんな…」
そうして、谷口はやまねの関節技を受けてある意味幸せに気絶したのでした。
……
…
三人はその後ベットの上で情報共有を行った。谷口はグラといった『超越者』達の話や神崎の事はあえて話さない事にした。
(かなり関係とか状況が複雑だからね。特に神崎君については…ここは慎重にいかないとな。)
そんなこんなで谷口は話を終えた。
「…という事があったんだよね。」
「そっか……谷口くんにもそんな事が。」
「…ひぐっ、監獄の皆が…ハットさんが…。」
少女…否、厄子は最初のやまねの話を聞いて余程ショックを受けたのか、自身の話をせずに部屋の隅でずっと三角座りになって泣いていた。
「厄子ちゃん、大丈夫かな?」
「……言わない方が良かったかな。」
「いや、言うのが正解だよ。嘘をついて誤魔化すにも限度はあるし…たとえ恨まれても、真実をちゃんと知るべきだと私はそう思うね。特に人の生き死にの話は……ね?」
やまねは目を丸くして谷口を見ていた。
「な、どうしたのやまねちゃん?私何か変な事言ったかな??」
「ん、分かんないけど…谷口くんが言うと何故か説得力があるなって。」
思わず、黙っているとやまねはベットから立ち上がった。
「……本当に行くのかい?」
「でも、行かなくちゃ。」
「それは…復讐の為…なのかな?」
「違うよ。谷口くん」
やまねは谷口に振り返った。
「…もう決めた事だから、やりきらなくっちゃ。」
「そうかい…でも別に、一人でやりきろうだなんて考えなくってもいいんだよ?」
谷口も立ちあがり、厄子の所に行く。
「よし、行くぞ厄子ちゃん。」
「……。」
厄子は黙ったままだった。
(普通は、知っている人とかが死んだって聞かされたらこういう風になるよね。)
厄子の反応こそが正常なのだ。
(やまねちゃんみたいに即復讐を決めたり、私みたいに多少の犠牲は仕方ないと割り切って考えたりの方がよっほど異常だよね。)
そのショックは長い時間を掛けなければとても治るものじゃない。ふと、ここに転移する前の神崎の言葉を思い出していた。
「ねえ、厄子ちゃん。」
「……。」
「…ささいな問題で時間を無意味に費やすなよ。」
「え…谷口くん?」
「…っ!」
一瞬で厄子は立ち上がり、谷口の襟元を掴む。
「ささいな問題!?訂正しろっす!!!…今のワタシの気持ちが、」
「よし、立ち上がった!私の勝ちい。」
「…え。」
襟元を掴んだ厄子や、遠目で見ていたやまねも呑気にVサインをする谷口の反応に困惑していた。
「ねえ。これからさ私とやまねちゃんで仇討ちに行くけど厄子ちゃんはどう?」
「……!」
「でも、ワタシが行っても足手まといに…。」
「あはぁ。そうだよねぇ〜厄子ちゃん私よりも非力だし、無理強いはしないよ☆」
「っ、変態さんよりは強いっすよ!」
「ええ〜本当かい?」
厄子は谷口の襟元から手を離した。
「やまねさん、行くっすよ!ワタシがあんな変態さんに負けない事をすぐにでも証明してやるっすから!」
「…あ、うん。」
厄子のあまりのやる気にやまねは少し戸惑っていた。
「でもさ、厄子さん。相手が今どこにいるのかとかまだ分かんないんだよ。」
「あっ、確かにそうっすね…う〜ん。」
悩んでいる二人を見ながら谷口も場所について考えていると、頭の上から紙切れが落ちてきた。それを読み上げる。
「えっと…今『旧大神殿』だってさ。」
「え、どうして分かるんすか。」
「ほら、これよこれ。」
二人に紙切れを見せた。
「…とにかく行ってみよう!」
「即答っすね、やまねさん……偽の情報かも知れないっすよ。」
「でも、手がかりがこれしか無いから行ってみるしかないよね。前使ったルートはもう使えないから…城下町経由で行こう。」
「よし、じゃあ案内任せたよ!厄子ちゃん。」
「っワタシっすか!?」
「出来ないなら…別に無理しなくても良いよ。」
「そうそう無理無理〜って痛いって!厄子ちゃん。」
「ワタシの全てに賭けて、案内して見せるっす!」
そんな会話をしながら部屋から出て三人はアンダック城から『旧大神殿』へと向かって行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ…はあ、これで…くたばっただろ。」
鳴神は黒髪黒目から金髪金眼になっており肩で息をしながら、山崎だった物を観察する。
ーー全身が『雷撃』によって炭化し、上半身が消失していた。
「山崎聖亜…か。奴隷にしては中々楽しめたぜ…またどこかで会えたならまた心ゆくまで戦ってやるよ。」
そう呟きながら、上空から迫る光線の様な物を全て『雷撃』で相殺した。
「アイツの贋作の片割れごときが…俺に勝てると思うなよ。」
「——目標認識完了。種族は神……コレヨリ『神殺し』ヲ執行シマス。」
「やれるもんならやってみな。他の神々を鏖殺したその力……ここで即スクラップ行きにして、死んでいった奴らに自慢してやるぜ。」
そうして、『旧大神殿』内にて鳴神とエクスがぶつかり、第二ラウンドがここに始まった。
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