三十一話 解消

——S武装展開


「はっ。来るか!!」


両手がビーム状に変化し、上空から俺を貫かんと放たれる。


(遅せえ。)


届くまでに『雷撃』でへし折り、軌道を逸らして『雷撃』を身に纏いながら贋作がいる所よりも高く跳躍する。


「贋作が俺を…『雷神』様を見下ろしてんじゃねえよ?」


「…ッ。Z武装展…」


顔面を狙って放った踵落としが、寸前でガードしようとした左腕に直撃し、その衝撃で神殿が消し飛んだ。


「チッ。拍子抜けだぜ…こんなもんじゃ楽しくもなんとも…」


——L武装…展開


粉塵や雷がキラキラと舞う中、遺跡があった場所に目を向けていると一筋の白い光が見えて…意識が一瞬だけ途切れた。


「………ペッ。やるじゃないか。少しは見直してやるよ。あと1秒、雷を纏うのが遅れてたら、俺は死んでたかもしれねえ。」


自分の胸に空いた裂傷を見てからゆっくりと起き上がり、左腕が欠損し動かない贋作に『雷撃』でトドメを刺そうと、腕を振り上げようとして見知った忌々しい気配を感じとり、前を見た。


「へえ…その魂。まさか…『ラスト』か?」


「…いや人違いでしょ?私は谷口 馨でーす。側にいる2人は、佐藤やまねちゃんと…あっーと。誰でしたっけ?」


「貧運 厄子っす!!それと、その男の人は変態さんっすから、覚えておくっすよ!?」


「や、厄子さん…」


(言動はどうあれ、かつて『創造神』と共に俺を封じたクソ野郎に、ありぁ…は、まさかな。)


俺は贋作を足で強く踏みつけた。


「…どうでもいいな。今度こそ俺を滅ぼしたいんだろう?さっさとかかって来いよ。」


「その、僕達は別にあなたと戦うつもりは…」


「そ、そうっす!獣王レヌを…監獄の皆の仇討ちに来ただけっすから。」


2人の様子を見て『ラスト』は口を開いた。


「うん…2人の言う通り。私達は…」


「かっ…は、ははははははは!!!!」


仇討ち。クソ野郎と似た服装をしていた男……ビリビリと全てが繋がった。


「特別に教えてやるよ。お前らが言っている獣王レヌとかいう奴はもう死んでいる。」


「…っ!?レヌが、死んだっすか?本当に…」


「…ああ死んだ。そこの男と似た服を着た奴がな。ここまで追い詰めたんだよ。」


「聖亜くんが…?なら、今はどこに…」


「聖亜…そうそう。山崎 聖亜と名乗っていたな。残念ながら、その坊主は俺がな…」


「待て。まさか…鳴神!!」


今更気づいても、もう遅い…ラスト。俺はお前にあの時、散々やられたからなぁ。


俺は歪んだ笑みを浮かべながら言った。



——『雷撃』で全身を炭に変えて、殺したぜ。



……



聖亜くん/山崎くんが………………死んだ?


「……やまねさん?あ、待つっす!!!」


僕/私は彼女の静止を振り切って、そんな事をほざいた金髪の女へと駆けていた。


「お?小娘の方が釣れたか…まあ、い…」


こちらを舐め腐っているが、その方が好都合。

何かされる前に……手刀で両腕を斬り落とす。


「は…俺に楯突くか!?」


雷が鬱陶しい。腕もすぐに再生した。手刀でかれを喰らえばひとたまりもないだろう。


「やまねちゃん!!それとも…いや、どっちでもいい。とりあえずエ…倒れた少女の背中にある黒いスイッチを押してみて!!」


「……。」


僕/私は言われるままに、倒れた少女の背中にあった小さいスイッチを押した。


ピピッ…D武装換装開始。


少女だった体が、瞬時に一本の鋼色の剣に変化した。


「……。」


試しに雷を斬り払い、その感触を見て小さく頷いた。


うん…これなら、殺れる。



……



スロゥちゃん…『大賢者』の封印が解かれた。


(こうなれば、私達の勝ち確定なんだろうけど…)


それはつまり、やまねちゃんの精神…人格が姉である佐藤楓に塗り替えられしまった事を意味する。


「はっ、ちょこまかとぉ!?」


「……」


これで、全て…お終いだ。


「変態さん。やまねさんは…どうなって」


「……っ。」


今。私の手の中にある手札じゃ…私は。やまねちゃんを救う事が——


——諦めちゃダメだって♪人は脆弱な生き物だけど…ひとたび抗えば、神様や悪魔にだって手が届いちゃう位に凄く…凄い生き物なんだからさ。


「変態さん!!!!」


頬を思いっきりビンタされた感覚で、私は我に返った。


「…そうだった。そうだよね…ありがと。」


「ビンタしたのに感謝の言葉を言うなんて、相当…気持ち悪いっすよ?」


心底ドン引いた様子の厄子ちゃんに、私はあの頃の様に心を切り替え、やる覚悟を決めた。


「厄子ちゃんは下がってて。サクッと終わらせるから。」


「変態さ…馨さんは何するつもりっすか?」


私の雰囲気で何か察したのか、未だに鳴神とやまねちゃん(?)が戦っているのにも関わらず、厄子ちゃんが私の前に立ちはだかった。


「何。真の策士は…常に奥の手を隠しているというだけさ。そこを、どいてくれないかな?」


「…いくら変態でも、やまねさんの親友は…殺させないっすよ。」


「友情…か。確かにそれは、とても美しい考え方だけど、同時に諸刃の剣にもなり得る危険な思想だ。」


「?…何を言って……」


私は怪訝な表情をする厄子ちゃんを見据えながら、至近距離まで近づいた。


「…ごめんね。」


そして、密かに持っていたタンネの町で使った毒が付着した針を邪魔者の首筋に刺そうと……



——没収です。



その聞き覚えのある声に反応して、気がつけば後ろを振り返っていた。


「え…『臆病者』…っすよね?」


「神崎君…なのかい?」


「ええ。間に合って良かったですよ。」


白黒のパーカーが血に染まった神崎君が私が手に持っていた毒針をポイっと捨てて笑った。


「これは僕というイレギュラーと…そこの『雑魚』が引き起こしてしまった事案ですから。責任はこちらが持ちます。」


「『臆病者』…そ、その…『女帝』さんは…」


「心配しなくても無事ですよ。それと、僕の名前は神崎春人です。以後お見知り置きを。」


「…は、はいっす。」


厄子ちゃんが気まずそうに視線を下に向ける。


「責任…って。具体的にどうする気なのかな?それに、神崎君じゃ…どうする事も」


「全て知っています。と言えば分かるのでは?」


「……」


私は何も言えなくなってしまった。


「あなたと僕は契約してますから。記憶も何となくですが同期しています。だから、そのやり方で解決なんて…させませんよ。」


——はい、論破です。


「……は、ははっ…論破されちゃったな。」


「僕みたいな見た目がガキな奴に論破されて、どんな気持ちですか?」


「いやぁ〜そりゃあ最悪な気分だけど、あの時の茶会の件で引き分けじゃないかな?」


「いいえあなたの負けですよ。大人しく2度目の敗北の味を噛み締めて…2人で行って下さい。」


「え?…それって、どうい——」


視界が歪む感覚で、私は神崎君が『転移魔法』を発動させた事に気がついて、意味もないのに走って止めようとするが…



「これで僕との契約はお終いです。」



——さようなら。僕の親友。



神崎君に触れようと手を伸ばすが、それは虚空へと消えて行った。



……



瞬間力が抜けて、膝から崩れ落ちかけた体を『雑魚』に支えられた。


「…神崎さん。その、」


「まだ終わってない…ですよ。」


外套がボロボロになって、血を大量に流しているのにも関わらず、ピンピンしている女性を見た。


「ふざけるなよ…あの小娘との戦いを妨害しやがって。」


「僕から見て、どの道あのまま戦っても…惨敗してると思いますけどね。」


「餓鬼が…玩具みてえに、神の権能を弄んでいいものじゃねえぞ。」


放たれた『雷撃』を『転移魔法』で散らす。何度も口から血の塊が溢れた。


「人間が!!!身の丈に合わない権能を行使して、いつまで耐えれるかなぁ?」


「…っ、ごほっ、ぅ…まだまだ耐えれますよ。逆に聞きますが、雷神はこの程度の力しかないんですね。」


「もういい…死ね。『転移神』の出来損ない。」


瞬間、この世界を滅ぼしかねない気配を感じて僕は支えている厄子さんに小声で言った。


「『雑魚』…名前を教えてくれませんか?」


「え…貧運 厄子っす。」


「厄子さん…ここまでありがとうございました。」


「…ぁ、待っ…」


僕は最期の力を振り絞って、貧運さんに『転移魔法』を発動して…



『雷撃』で消し飛んだのだった。































































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