番外 末路

——これを読んだ時点でここから逃げろ。


俺の浴槽から地下通路に行け。出口はアンダック城の外。城下町の外れにある『旧大神殿』だ。


——今日、獣王レヌが、この監獄に来る。


その目的は…お前達の殺害だ。


何度も俺はあの方を説得したが…駄目だった。

何故、そこまでお前らに執着するのかは分からない。


本来なら、そんな事をする意味は俺にはない。

……だが、俺はお前達に恩がある。


——初めて地下施設を手伝ってくれたあの日。

お前達が手伝ってくれていなかったら、その日の時点であの男達は死んでいた。


ここに配属された時からずっと付き合ってきた奴らだ……恥ずかしい話だが、親友の様に思っている…お前達も含めて、な。


だから、今度は俺が助ける番だ。逃げるのなら勝手に行け…時間は俺一人で稼ぐ。


生きろ。これは俺からお前達への最後の命令だ

               

アンダック地下監獄看守長にして親友

                ハットより


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ハットは浴場の脱衣所に入ると男達は誰も浴場にいかずに皆、整列して待機していた。


「おっ、やっと来たか看守様。」

「……何をしている。」


ハットは驚きの感情を押し殺しながら言った。


「何の…つもりだ……お前達。さっさと着替えろ、浴場に行くんだ。」

「……獣王レヌを止めるんだろ?やまねや厄子の為に。」

「いやぁ〜つれないねえ。看守は。この俺達を頼らないなんてさ。」

「おいおい、俺達が頑張った所で数秒も持たないだろ?」

「ふはっ。そりゃそうだ!」

「…精々、看守殿の足手まといにならない様に頑張りますか。」


そう言い合いをしながら男達は大笑いしていたその反応を見て、ハットは激怒する。


「っ。ふざけるな!!」

「は?至って真面目だよなぁ、お前らぁ!!」

「「「勿論だ!!!」」」

「そんな事をしたら、お前達…殺されるんだぞ!!!!」


男達は一斉にため息をついた。


「奴隷の俺達はな、看守。常日頃、死ぬ覚悟なんかとっくに決まってるんだよ。」

「はぁ、本当に優しいよなこの看守様は。」

「…だから俺達は看守様について行こうって思ったんだ。」


ハットは怒りなんか通り越して、絶句する。


「…俺なんかを……他の優秀な奴らは皆、前線に駆り出され俺みたいな無能一人が残った…それなのに。どうして、」

「ああ、そうだな。看守…あんたは俺らよりも無能だよ。」

「っはぁ!?」

「時間管理とか駄目駄目だし、食事も簡素だし、風呂だってよく見ろ…ほら、ホコリが浮いてら。」

「!確かに、手伝おうと言っても手伝わせて貰えない割に、仕事が結構、雑なんだよなぁ。」

「そうそう、たまに看守の羽とか落ちててよ、掃除すんの地味に面倒なんだよ。」

「本当、抜けてるよな看守は…羽を含めてな。」

「…ぷっ。おいおい、誰が上手い事言えっていったんだよ!」

「…お前ら。いい加減に、」

「そんな…抜けてて無能な看守だからこそ、俺達はあんたに従うんだ。」

「今までの優秀なつまんねぇ奴なんかよりもさ、こっちの方が馬鹿騒ぎが出来て、楽しいんだよな。」

「……。」

「だからよ、手伝わせてくれや……ああ、いや違うわ。」


男達は同時に、ニヒルな笑みを浮かべながら言った。


『助けてやるよ、ハット看守長。』

「………。」


ハットは俯き、思考する。様々な葛藤が脳裏をよぎった……そして、前を向き、男達の顔を見て決心した。


「これから、お前達は確実に殺される…俺も含めてな。」

「………。」

「俺達の勝利条件は、やまねとボサ髪…厄子をこの監獄から脱出させる事だ。」

「……。」

「これからあの『獣王レヌ』を全力で足止めし、脱出するまでの時間を稼ぐ。」

「…。」

「それによって得られる報酬は女共を守って死ねるという…栄誉だ。どうだ…充分だろう?」

『充分だ!!!!』

「よし、作業場の道具を持ってこい!倉庫にある爆薬もありったけだ……後4分で来るぞ、もたもたするな!!!」

『…了解!!!!!』


男達は全力で作業場に向かった。


「…弱者は弱者なりに抗え…か。これでいいんだろ……ロネ皇帝。」


そう、誰も居なくなった脱衣所で一人、そう呟いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


辺りは男達の血に染まり、ハットも胸を抉られて、床に倒れていた。


「…あの女共はどうした、ハットよ。」

「……ぐっ、ゲボっ。」


血の塊を吐き出した。


「…ふん、まあいい。逃げたとはいえまだ近くにいる筈だ。」


レヌはその場を後にしようとして、足を掴まれた。


「…いく、なぁっ。」

「…弱者如きが、我の足に触れるか。」


レヌは爪でハットの右腕を抉り取り、叫ぶ前に喉を切り裂いた。


「は。下らん裏切り者に存外、時間を割いてしまったな。」


レヌに対して声がかかった。


「——大変ですレヌ様!!」


部下の一人がここまでやって来ていた。


「…俺一人で充分だと言った筈だが。」

「っ申し訳ありません。急ぎアンダック城にお戻り下さい!」

「何があった…申せ。」

「アンダック城に女が現れまして…その女が『超越者』と。」

「っ!?急ぎ戻るぞ。場所は…走りながら聞く。ついてこい!」

「は、はっ!!」


レヌと部下はアンダック城へと向かって行った。


……遠くに走り去るのを感じ…意識が朦朧としながらもハットは思った。


(はは、俺達の…勝ちだぞ………お前ら。)


男達の死体の海の中にて、


———ハットは満足しながら生き絶えた。



誰も居なくなったのを確認して、神崎は姿を現した。


「……『超越者』ですか。僕としては見に行きたいのですが……。」


——時間がない。


「はぁ。まあいいです。」


神崎は転移で一輪の黄色いの花を出して、ハットの前に添えた。


「…見事でしたよ。あの『獣王レヌ』をこんな寄せ集めで3時間も足止めを成功させたのですから。」


大した軍師です。そう言いながら神崎は転移で谷口の所へと帰還した。























































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