二十五話 復讐/旧知

階段を登り、祭壇の様な場所に辿り着いた。天井は開けていて、夜空がくっきりと見えた。


「ここが…『旧大神殿』?」

「…そうみたいっすね。これから、どうするっすか?」


やまねは道中で、厄子にハットのメモについて話していた。


「どうしようか…。」

「…おっ、何か書いてあるっすよ、やまねさん。」


厄子は砕けた壁画に描かれた文字を見ていた。


「…『◾️◾️◾️によって、この地は滅ぶ…』ん。風化してて読みにくいっすね。何かの予言っすかね?」

「……厄子さん、暗いのによく見えるね。僕には全然見えないや。」

「ん、そうっすか?」


空を見上げながら、厄子は言った。


「……そういえば、久しぶりの空っすね…シャバの空気は美味いっす!」

「確かにそうだね。」


ふと気になったので厄子に聞いてみる。


「どうして厄子さんはあの監獄に居たの?」

「…ん〜言ってもいいんっすかねコレ?」

「あっ。無理に言わなくてもいいよ。」


大丈夫っすよ、と言いながら厄子は言った。


「ただ…気がついたらここにいたとしか…言いようがないっすよ……やまねさんは?」

「僕もそうなんだ。気がついたら玉座にいて…」

「玉座って、アンダック城のっすか!?凄いっすね…ワタシはゴミ溜めスタートっすから。」


夜空の下、二人は少しだけ笑い合った。厄子は真面目な顔でやまねに聞いた。


「…さっきも言ったと思うっすけど、改めてこれからどうするっすか?…もう決めているんすよね。」


やまねは驚きの表情を浮かべていた。


「……よく分かったね、厄子さん。」

「うへへ、何となくっすよ。」

「僕はアンダック城に行く。」

「……やっぱりっすか。」


厄子は納得した様に頷いていた。


「ワタシも行くっすよ……囮くらいは出来るっすから。」

「…いいの?厄子さん、別に此処にいても…」

「やまねさん一人に任せっきりの方がごめんっすよ。後、前にも言ったっすけど、ワタシは嫌なんすよ。離れて離れになる事が。」

「…それについては、」

「ノーコメントっすよ。やまねさんにも言えないっす………申し訳ないっすけど。」


ふと、何かが接近してくるのを厄子は感じた。


「…ごめんっす……やまねさん。」


小声で呟いて、厄子はやまねを突き飛ばした。

声も出せずにやまねは地面を転がる。


その次の瞬間、厄子は何者かに攫われて行った。


「……。」


やまねは厄子に庇われた事を察して、声も出さずにその場で見ている事しか出来なかった。居なくなったのを感じ、やまねは立ち上がった。


「…助けなきゃ。」


でも、今は暗くて外に出れない。おそらく厄子はアンダック城に連れていかれたのだろう。だったら、答えは一つ。


(監獄から行った方が早い。)


即座にやまねは階段を下りて、全速力で通路を駆け抜ける。厄子がいない所為か、すぐに縄梯子がかけてあった場所まで辿り着いた。


「の、登れるかな?」


何とかしないと、厄子さんが危ない。


「……く、キツイけど…いける。」


指が入るくらいの穴に指を入れて無理矢理よじ登ることに何とか成功した。


「…ついた……けど。」


やけに静かだった。やまねは看守の部屋から出る。


「これって……血の匂い。」


やまねは見た……見てしまった。

看守の部屋の前で男達が血を出して死んでいるのを。


「あっ…え、え?…な、何で、どうして…」


——その中にハットも含まれていた。胸を抉られて、喉は切り裂かれ右腕が引きちぎられた形跡があった…そこに一輪の血で汚れた花が供えてあった。


「…は、はは。」


乾いた笑いが監獄に響く。ついさっきまで、楽しく話をした相手が……死んでいる。カチリと思考が切り替わるのを感じた。


「ははは……そっか。」


——決めた。


「…殺そう。こんな事をした奴を。」


無表情ながらも狂気を目を宿しながら、やまねは地下監獄からアンダック城を目指し、歩いて行く。


途中で城と監獄を繋ぐ道に門番がいた。


「おい、止まれ!」


無言で門番を通り過ぎた。


「っ!このっ、」


持っていた斧でやまねを殺そうとしたが、左手で斧を破壊した。


「…う。」

「……監獄の人達を殺したのは、あなた?」

「はっ?な、何の事だよ。」

「そっか…ごめんね………驚かせて。」


門番は震えながら、一目散にやまねから逃げ出した。それに見向きもせずに、ただ歩き続けた。


(ここがアンダック城の一階…だよね?)


何百もの獣人が城内から現れる。


「…すみません。監獄の人達を殺したのは、あなた達ですか?」


それを無視してやまねに襲いかかる。


「…無視…はぁ、一人残ればいっか。」


数分後…絨毯も階段も高級そうな絵も血や臓物で染まった。


「あ、あああ…」

「もう一度、言いますね。監獄の人達を殺したのは、あなたですか?」

「ち、違う、僕じゃない!でも、殺した奴は知ってる…だから殺さないでくれ……。」

「…分かりました。その人の名前を教えてくれませんか?」

「……獣王レヌ様だ。」


やまねは首を少しかしげて、閃いたかのように手を打った。


「ああ、あのライオンの獣人さんですか。」

「そ、そうだ…だから助けて。」


やまねは獣人の隠し持っていた武器を破壊し、四肢を破壊してから、その場を後にした。


「はぁ…」


やまねは自身の体を見る。囚人服は血や臓物でベタベタだった。ようやく、やまねは当初の目的を思い出した。


「あっ、厄子さん…探さないと。」


二階に上がった時に、多くの獣人達がやまねを殺さんと待ち構えていた。


一斉に矢の雨がやまねに向かって飛んでくる。

最低限、自身に当たる矢を素手で弾きながら避けていく。


「たくさんここにいるし、誰か一人くらい知ってるよね?」


そう呟きながら、やまねは単身で獣人達に襲いかかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


気がついたら城の中にいて、装備を固めた獣人達に囲まれていた。


「…うん、此処どこだか分かるかい?」

「アンダック城の三階だ。というか人間。どうしてここにいる?」

「知らないよ。転移して来た地点がここだったんだからさ。」


獣人達は下品な笑みを浮かべていた。


「…まあいいや…ここで殺そうぜ!」

「いいねえ、賛成だ。」

「いやいや、私は反対だよ!?」

「まあ、邪魔だしな。」

「さっさと殺して、二階に行こうぜ。どうやら、下で人間の女が暴れてて、苦戦してるらしいからさ。」

「…っ!?私無視かいっ!」


今にも殺されそうで反射的に目を瞑ると、遠くから声が聞こえた。


———見つけた。


周囲から悲鳴が聞こえて、静かになった所で目を開けると…周りの獣人達は血を流して倒れていた。


「お迎えに上がりました……『ラスト』様。」

「…ん?」


そこには見知らぬ少女がいた。革ジャンを着ていて、短パンを履いている。黒とピンクのまだら髪の短髪で左目が赤く、右目が青いオッドアイ。露出した体からは回路といった機械めいた物が見えた…そして後ろに鋼の翼が生えている人物…呼ばれた名前といいこれは間違いない…谷口は冷静に答えた。


「もしかして……人違いでは?」

「…っえっ!?」


少女はとてもびっくりした表情をしていた。


































































































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