第48話:泥酔(アリス視点)
◇
一人きりの食卓で、私はグラスに残ったワインをあおる。香りも酸味もわからない。これじゃ水を飲んでいるのと変わらない。だからボトルから再びグラスにワインを注ぐ。
「……はぁ」
たまらず息が漏れた。飛び出して行ったミナリーも、それを追いかけたレインも、まだ帰って来ない。
一人がこんなにも寂しいなんて、知らなかった。レインとミナリーと出会ってからは、ずっと一緒だった。出会う前は、一人で居ても寂しいなんて思いもしなかった。
この4年間は、あの子たちが私の全てだった。
「…………レティーナさん。私、上手く出来たかな……?」
二人の魔法の師匠として、私は私が授けられる限りの全てを二人に教えることが出来たと思う。ミナリーはそう遠くない内に光系統魔法の極致に達することが出来るだろう。レインも最近は伸び悩んでしまったけれど、きっと壁を乗り越える。
魔法の師匠としては、上手くやれた自信がある。
だけど、二人の保護者としては……?
机に置かれた2枚の手紙に目を向ける。
お父様に用意してもらったヴィルヘイム王立学園への推薦状。私が旅に出た後は、グリモワール家が二人の後見になってくれるようにも頼み込んだ。
レインもミナリーも王立学園でたくさんの魔法を学んで、たくさんの人に出会って、更に大きく成長してくれる。
「そう思ってたんだけどなぁ……」
ミナリーも、レインも、私が一緒じゃないと嫌って言うわがままな子に成長してしまった。慕ってくれるのはすごく嬉しいけど、いつまでも独り立ち出来ないのは私の育て方に問題があったんじゃないかって思う。
……当然だ。私まだ19歳だもん。二人の本当のお母さんじゃないもん。
子供を育てた経験も無ければ、産んだことも、そもそも男の人と…………まあそれはともかく。
レインとミナリーともっと距離を置いて接するべきだった……?
師匠と弟子だと割り切るべきだった……?
正解なんてわからない。
だからグラスに残ったワインをあおる。いつの間にかボトルが空になっていたから、別のワインを持ってくる。これ確かレインの誕生日に3人で飲もうと思って置いておいたワインだけど、まあいいか。
とにかくとにかくレインとミナリーを旅に連れて行くわけにはいかにゃい。二人には実力不足だって言ったけど……、レインもミナリーも強くなった。4年前の私と同等くらいには今の二人は戦える。
それでも連れて行きたくないのは、ただ怖いだけ。
失いたくない。
大切な二人の弟子が、目の前で死んでしまうんじゃないかって。
レティーナさんや、カインさんみたいに、居なくなってしまうんじゃないかって。
それがただ、怖い。
「…………あぁ、そっかぁ」
ミナリーも、レインも、私と同じなんだなぁ。
弟子は師匠に似るって、言うもんなぁ……。
…………………………――。
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