胸糞RPGの主人公に転生した俺が、悲惨な死を遂げる運命のヒロインたちと幸せになる物語

KT

プロローグ

第1話:ハッピーエンドに至るフローチャート

『Happy End Story』。


 通称『HES』という超絶救いがない鬱ゲームをご存じだろうか。


 フルダイブ型VRゲーム全盛の今の時代。それはとある新興ゲーム会社が発売した2部構成のRPGで、他に類を見ないほど美しいグラフィックとフルダイブ型VRゲーム初となるR-18作品という事で販売前から大きな話題になっていた。


 そして販売が開始された後は、別の意味で大きな話題になった。


『パッケージに描かれているヒロインポジションの幼馴染、オークの苗床にされた挙句に魔物になって主人公に殺されたが?』


『師匠ポジションの美少女天才魔法使い、魔王軍の幹部に主人公の知らないところで暗殺されたんだけど……?』


『ツンデレヒロインが魔王軍に寝返った糞貴族に寝取られたでござるwww ……糞が』


『もうやだこのゲーム……。可愛い女の子みんな死ぬんだが……』


『男も主人公以外死ぬぞ』


『どうしてゲームでこんなに辛い思いをしなくちゃいけないんだよ!』


『最後までクリアした猛者によれば主人公も魔王と相討ちで死ぬらしい』


『そして誰も居なくなった』


『タイトル詐欺すぎる』


 発売前のお祭り騒ぎは、発売後にお通夜のような雰囲気になった。


 飛ぶように売れた『HES』は飛ぶように中古ゲーム屋へ売られ、2部構成の前編であったはずの『HES』の後編はいつまで経っても販売されず、制作したゲーム会社も人知れず倒産したらしい。


 さて、そんな『Happy End Story』にも少ないながらに熱狂的なファンが存在する。彼らはネットの海の片隅で日々『HES』の設定資料集を熟読し、世界観や物語の考察を重ね続けていた。


 目的はただ一つ。


 超絶救いがない鬱ゲームと称される『Happy End Story』の物語が、いったいどのようにすれば本当のハッピーエンドを迎えられたのかを分析するためだ。


 俺もその一人。俺たちは分析組と自称して発売から5年が経った今も日夜、ハッピーエンドを目指して『HES』を分析し続けている。


 ……とはいえ、


「さすがにもう俺一人か……」


 攻略サイトの掲示板に俺以外の書き込みが途絶えてはや数か月。制作会社の倒産で後編の発売が絶望的になった事で、分析組は一人、また一人と掲示板から静かに消えて行った。


 一人残った俺も、そろそろ潮時だと感じている。


『Happy End Story』をハッピーエンドにするためのフローチャート。その完成が目前に迫っているのだ。


 ここ最近は不眠不休で作業した。何度も『HES』をプレイし、設定資料集はページが擦り切れるまで読み込んだ。


「これで、ようやく…………」


 超絶鬱ゲーと呼ばれ、噂では自殺者まで出したという悲劇の物語。それをタイトル通りの、ハッピーエンドにすることが出来る。


 …………本当に?


 フローチャートの完成度には自信がある。分析組の仲間たちと5年かけて作り上げた傑作だ。このフローチャートの通りに主人公が動けば、物語はハッピーエンドを迎える事だろう。


 けれど、その通りに動かないから、『Happy End Story』はバッドエンドを迎えたのだ。主人公はいつも力が足りず、一足遅く、何一つ守れない。そんな奴が物語をハッピーエンドに導けるだろうか。


 ……答えは否だ。


「俺が、やらなくちゃ…………」


 フローチャートは頭に叩き込まれている。ゲームスキルは『Happy End Story』を最高難易度で5年間ひたすらやり込んだから問題ない。


 意識が朦朧とする。そう言えば最後に飯を食ったのは何日前だっただろうか。寝たのはいつだ……? シャワーを浴びたのは…………?


 最後の気力を振り絞って、パソコンのENTERキーを押す。フローチャートが完成した瞬間、デスクトップ画面が眩い光を放った気がした。


 俺が意識を手放したのは、その直後だった。




〈作者コメント〉

第一話お読みいただきありがとうございます('ω')ノ

本作を少しでも面白いと思っていただけましたら幸いですm(__)m

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