第43話:探索クエスト
「もしよろしければ、皆さんご一緒にお昼はいかがでしょう?」
シフアさんの提案に俺たち三人は顔を見合わせる。師匠は首を横に振り、ミナリーも「うーん」と困った表情を見せた。ここは代表して俺が答える。
「お気持ちだけありがたく受け取っておきます、シフアさん。俺たちはこれから冒険者ギルドに顔を出そうと思っていたので」
「あら、それは引き留めてしまい申し訳ありません。ではまた、機会があればぜひ」
「はい」
「シフアさん、お手伝いが必要ならいつでも呼んでね!」
「ええ。今日はありがとうございました、ミナリーさん。また宜しくお願いいたします」
深く頭を下げるシフアさんに見送られ、俺たちは孤児院を後にする。
「さすがに孤児院の運営を圧迫するのは気が引けるもの」
しばらく歩いたところで師匠が小さく息を吐いた。
ああいう孤児院の運営資金は主に募金で成り立っているからな。余裕はあまりないだろう。俺たちが食べる分、子供たちの食事が減ってしまっては申し訳ない。
「でも、みんな元気そうで安心したね」
「だな」
ミナリーが孤児院を手伝うようになったきっかけは、あの孤児院にターガ村出身の子供が何人も居ると聞いた事だ。
オークに村が襲われた際に両親を失った子供は俺たちだけではなかった。その子供たちの多くがあの孤児院で生活している。
もし、師匠が旅に出ていたら。
俺とミナリーも、今頃あの孤児院でお世話になっていたかもしれないな。
昼食は道中の料理屋で軽く済ませ、冒険者ギルドには歩いて向う。冒険者ギルドに着き建物に入ると、中に居た冒険者たちの視線が一挙に集まった。
『おいあれ、〈氷獄〉のとこのSランクパーティだ』
『たった3人でSランクとかやべぇだろ』
『しかも2人は子供だぜ?』
『〈氷獄〉1人でオーク1000体倒せるんだ。別に不思議じゃねぇって』
冒険者の視線は俺とミナリーよりも師匠に集まっている。まあ、当然だ。ここの冒険者ギルドでは、師匠は生きる伝説みたいなものだからな。
「はぁ。こんなに注目されたら息が詰まっちゃう」
「仕方がないですよ。冒険者だけが師匠の活躍を知っているんですから」
「活躍なんて……」
師匠は大きな息を吐いて肩を落とした。
約4年前のオークの大侵攻。それを撃退した師匠の魔法は、実際に目にした者でなければ信じられない規模と威力だった。
そのためか、それとも政治的な理由からか、師匠の活躍が表沙汰になることはなく、師匠がこの街を救ったという事実を知る者は極めて少ない。
それこそ、あの場に居合わせた冒険者たちだけが師匠の活躍を知っているのだ。
「…………」
師匠は唇を硬く結んで口を閉ざす。あの時の記憶は師匠にとって華々しいものでも誇らしいものでも無いのだろう。
俺とミナリーと同じ、出来れば思い出したくない苦々しい思い出として記憶に刻まれているのだ。
「え、えっと! なにか面白い依頼があるといいね!」
ミナリーが気を利かして明るい声音を出しながら、駆け足でクエスト掲示板の前へ向かう。
薬草の採取クエストやモンスターの討伐クエストまで、掲示板には様々な依頼が張り出されていた。
「出来れば近場が良いな。明日までに終わるくらいがちょうどいい」
「近場かぁ。どれも少し遠くの依頼ばっかりだね」
高ランク向けの依頼ほど危険なモンスターが多く生息する危険地帯でのクエストになる。ただ、そういった危険地帯は人が住む地域からは遠く離れているものだ。
移動に一日以上、場合によっては往復で一か月以上かかる距離に出向く必要がある。
普段ならそういうクエストでも受けるんだが、今回はそうできない理由がある。
明後日はミナリーの誕生日。遠征中に祝うんじゃなくて、家で盛大に祝ってやりたい。
ミナリーと師匠から少し離れ、低ランク向けの依頼に目を向ける。するとその中に、一つ気になる依頼が見つかった。
「地下水道の探索。行方不明者の捜索とアンデッド目撃情報の調査……か」
ゲーム序盤であったクエストだな。
地下水道で自然発生するモンスターを討伐しに行った冒険者が行方不明になり、時同じくしてアンデッドの目撃情報が冒険者ギルドに寄せられた。
それを調査するという内容だ。
……おそらく、アンデッドキングによってこの街が壊滅するフラグの一つ。
実際に街が落ちるのはまだ数年先だが、この頃から何らかの活動を始めていたと見て間違いないだろう。
「レイン、何かいい依頼はあった?」
「これなんてどうですか?」
俺は話しかけてきた師匠に地下水道のクエストを指さす。
「地下水道の探索クエスト……。冒険者が行方不明になって、アンデッドが目撃された……ねぇ。ちょっと嫌な予感がするわ」
「師匠が嫌な予感を覚えるなら決まりですね」
たしかゲームでも師匠が「嫌な予感がするから」と言い出してこのクエストを受けることになるんだったか。
師匠の嫌な予感はよく当たる。
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