第46話:誕生日プレゼント
◇
「14歳のお誕生日おめでとう、ミナリー!」
「おめでとう、ミナリー」
「わぁっ! ありがとう、師匠! レインくんっ!」
ミナリーの14歳の誕生日。
リビングには様々な飾り付けをし、食卓には豪勢な食事が並ぶ。
どちらも朝から師匠と俺が手分けして準備したものだ。
サプライズパーティではなかったので、その様子をミナリーは楽しそうに見学していた。
「ミナリーも14歳かぁ。出会った頃はこんなに小さかったのになぁ」
ワインの入ったグラスを傾けながら、師匠はしみじみと言う。手は座った師匠の胸のあたり。それを見てミナリーは苦笑する。
「わたしそんな小さかったかなぁ?」
「小さかったわよぅ。ミナリーもレインも小さくてすごく可愛かったんだから。それがこんなに大きくなって」
「ひゃぁっ! 師匠胸触っちゃダメっ!」
「むぅ。すっかり私より大きく……。毎日同じものを食べてるはずなのになぁ」
師匠はミナリーの胸から手を放して自分の胸に持って行って首を傾げている。出来ればそういう話は俺の居ないところでして欲しい。
「レインも大きくなったって思うわよね?」
「ノーコメントで」
俺はちびちびとリンゴジュースを飲みながら視線を反らす。
本当はワインを飲みたかったのだが、グラスに注いだところで師匠にバレてボトルもグラスも奪われた。くそぅ、早く
「わたしはレインくんみたいに背が伸びて欲しかったなぁ。あ、そうだっ! 背比べしよっ、レインくんっ」
ミナリーが俺の手を引いて立ち上がらせる。向かい合うと、ミナリーの頭がちょうど鼻先くらいの高さにあった。子供の頃は俺がミナリーを見上げていたが、今じゃすっかり逆転している。
「むぅー。子供の頃はわたしの方が勝ってたのに、レインくんどんどん大きくなっちゃう」
「成長期だからな。父さんも背が高かったし、あと20センチは伸びる」
「えぇーっ! レインくんだけズルぅーい!」
「別にズルくはないだろ」
「わたしの方がお姉さんなのにぃ~」
「半年だけな」
ポンポンとミナリーの頭に手を置くと、ミナリーはぷくっと頬を膨らませる。その仕草があまりにも可愛すぎて思わず抱きしめたくなった。
ギリギリのところで理性が勝って何よりだ。
「本当に、大きくなったなぁ」
師匠が俺たちのやり取りを見てまたしみじみと呟く。グラスのワインは減っていない……が、よく見たらボトルの中身が半分くらいになっていた。いささかペースが速すぎる。
「師匠、そろそろプレゼントを渡しませんか?」
「そうねぇ」
「プレゼントっ!?」
ミナリーがキラキラと目を輝かせる。
俺は領都のアクセサリーショップを全店回って買い集めた魔法効果の付与されたブレスレットやネックレスをミナリーにプレゼントする。
ネックレスは〈MP強化〉や〈魔攻〉を高めるものを中心に10個ほど。腕輪は〈闇系統魔法耐性〉や〈アンデッド特攻〉などの効果を中心に左右合わせて20個ほど。かなりの大金を使ってしまったが、ミナリーの安全に比べれば安い。
「よしっ。これで完璧だな」
「わ、わぁ……。ありがとう、レインくん……。すっごく嬉しい……。大切にするね……?」
そう言いながらミナリーは俺がつけたネックレスと腕輪を次々と外していき、最終的にハートが象られた〈HP強化〉のネックレスと、同じくハートが象られた同じ効果の腕輪が左腕に一つだけ残された。残りはミナリーの宝物ボックスへ…………。
「私、たまにレインが物凄く馬鹿なんじゃないかって心配になるのよね」
師匠がとんでもなく失礼な事を言い出したが、酔っ払いの戯言だと聞き流そう。うん、その方が精神衛生的にも良い気がする。
「私からはこれ。おめでとう、ミナリー」
師匠がミナリーに手渡したのは、ピンク色のリボンでラッピングされた長方形の小さな箱。それをミナリーが開くと、中には杖が収められていた。
「師匠、これ……」
「ミナリー。あなたはもう立派な魔法使いよ。これは、アリス・グリモワールがあなたを一人前だと認めた証。受け取ってくれるかしら?」
「…………ヤダ」
「えぇっ!?」
ミナリーは師匠からのプレゼントを受け取り拒否して突き返す。
「ど、どうしてっ? 杖は師匠から弟子に贈る最高のプレゼントなのに」
「……わたし、知ってるもん。杖は一人前になった証…………だから、師弟関係を解消する時に師匠が弟子に贈る物だって! わたし、師匠の弟子辞めたくない!」
「み、ミナリー、でもこれは……」
「師匠、わたしずっと師匠の弟子がいい! 師匠とずっと一緒がいいの……っ!」
「ミナリー…………」
師匠は困ったような顔を浮かべ、俺に視線を向ける。
俺はただ首を横に振ることしかできなかった。
師匠の気持ちは理解しているつもりだが、同じくらいミナリーの気持ちも理解できるのだ。
「…………そっか。二人とも、少し待っていてね」
師匠はそう言って、自分の部屋へ入っていく。
それから30秒も経たずに、師匠は2枚の手紙を持って戻ってきた。手紙は王家の紋章が入った封蝋で閉じられている。
その手紙には見覚えがあった。
「師匠、それは……?」
「王立学園の――推薦状よ」
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