第9話:誘拐事件〈???視点〉
「おお、ようやく来てくれたか! ちょうど誰かを呼びに行かせようとしていたところじゃ!」
「あのー、何かあったんですか……?」
私が尋ねると、ギルドマスターは神妙な面持ちで言う。
「おそらく、お主の教え子たちが攫われた」
「……へ?」
私の教え子って……今日から魔法を教える予定になっていた子供たちが?
そう言えば今日のお昼頃にはこっちに到着するって話だったけど……。
「すまねぇ……! 俺が馬車とギルマスの書状を奪われちまったばっかりに……!」
「あの、詳しい話を聞かせてくれますか?」
「あぁ……」
彼がオーツを出発したのは2日前のこと。ギルドマスターの書状を持ってターガという村まで、子供たちを馬車で迎えに行く簡単なクエストのはずだった。
だけど、オーツを出て半日ほど進んだ廃砦のあたりで盗賊に襲われた。
彼らは馬車とギルドマスターの書状を奪い去って行き、大怪我を負った彼は2日かけてさっきようやく冒険者ギルドに辿り着いたそうだ。
「えっと、馬車と書状を奪われただけですよね? まだ子供たちが誘拐されたと決まったわけじゃ……」
「いいや……。金品や食料を乗せていたわけでもない馬車をわざわざ襲ったんじゃ。それも、儂の書状まで奪って行きおった。狙いは、初めから子供たちだったとしか思えん。おそらく賊は儂の書状を悪用して、今頃迎えを騙って子供らを連れ出しているはずじゃ」
「でも、そんな事、子供たちが来るってあらかじめ知ってないと出来ないはず……」
言いかけて、まさかという可能性に思い当たる。周囲を見ると、この場に居た冒険者たちは何とも言えない表情を浮かべていた。
「子供たちが来ることは、ここに居る大半の冒険者が知っておった。なんせあのカインの子供じゃからのぅ。儂も楽しみにしていたから、ついつい色んな冒険者に話してしまったんじゃ」
ギルマスにとってカインって人は特別な冒険者だったのかもしれない。
それこそ、息子同然だったとか。そんな人の子供はギルマスにとって孫のような存在だったのかも。
何事もなければ微笑ましい話で終わったはずだけど……。
「つまり、ギルドの誰かから盗賊に情報が漏れたと……」
「「「…………」」」
ギルドの建物内に沈黙が流れる。
私が指摘するまでもなく、ここに居る全員がこの可能性には行き当っていたんだと思う。それからすぐに、怪我を負った冒険者が声を上げた。
「あいつだ。きっと、フロッグの野郎に違いねぇ!」
「フロッグ?」
聞いたことのない名前に首を傾げると、私の手を掴んでここまで連れてきた職員さんが教えてくれる。
「あんたがこの街に来る少し前に、ギルドを追い出された冒険者さ。昔から黒い噂の絶えない奴だったんだが、ついに盗賊連中と繋がってることが明るみになってな。身内の恥だから俺たちもアイツの事はほとんど話さなかった。知らなくて当然だよ」
「その人なら子供たちが来るって情報も?」
「フロッグが居た頃には日取りも決まっていたからのぅ。知っていてもおかしくはない話じゃ。……それに、カインはフロッグとも顔馴染みじゃ。昔からカインは何かとフロッグの尻拭いをしてやっても居たから、奴が儂の使いを語って現れても、疑いこそしても儂の書状まで見せられれば無下にはできんじゃろう……」
ギルドを追い出された腹いせか、それとも盗賊への手土産か。単にお金になると思っただけかもしれない。
何にしても、私の教え子になるはずだった子供たちが攫われた確率が極めて高い事だけは確かだ。
…………よし、決めた。
「ギルマスさん、その盗賊たちのアジトってわかりますか?」
「ある程度の目星はついておるがはっきりとはわからん。……おぬし、まさか! 無謀じゃぞ! 盗賊団には領主様も手をこまねいておる! それに、フロッグのような冒険者崩れも多く所属してるんじゃ。並みの盗賊どもとは違うのじゃぞ!」
「うーん……。まあ、確かにちょっと面倒くさそうではありますけど、子供たちの先生役を引き受けた手前、このまま見て見ぬふりはできないですから」
さすがに私の知らない所で、見ず知らずの子供たちが誘拐されたんだったら助けようなんて思わない。
だけど。
私の身近な場所で。
私の教え子になるはずの子供たちが。
私が助けに行ける範囲で囚われているんだったら。
――助けに行かない理由がないでしょ?
「それに、心配なら無用です。私、そこそこ強いので」
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