第13話:作中最強の魔法使い〈アリス視点〉

 ギルドマスターたちからだいたいの場所を聞き出した私は、討伐隊を組織するから待てというギルドの人たちの指示を無視して一人で街を出た。


 今から募集を掲示板に張り出して、来るかもわからない冒険者たちを待つなんて時間の無駄すぎる。悠長なことをしていたら子供たちが売られちゃうかもしれない。


 盗賊団のアジトは意外と簡単に見つかった。


 というか、森を歩いていたら向こうから接触してきた。


 盗賊は冒険者の振りをしていて(実際に元冒険者かもしれない)、森の中はモンスターが多くて危険だとか、安全な場所で一夜を過ごそうとか、そんなことを言って私をアジトまで連れ帰ろうとした。


 私は家出をした冒険者志望の女の子という設定で盗賊たちの後に大人しくついていく。探す手間が省けて楽でいい。


 後はアジトに入った瞬間にここまで連れて来てくれた盗賊たちを凍らせて、酒場のような場所にたむろしていた盗賊たちも凍らせた。


 途中で盗賊団の頭目らしいちょっと強そうな大男が出てきたけど凍らせた。ついでに氷槍も叩き込んでおいた。とりあえず、これで片付いたかしら?


 子供たちを探そうと思って、酒場の奥へと足を進める。すると、壊れた扉の向こうからひょっこりと男の子が顔を出していた。


 黒い髪に整った顔立ちの男の子だ。攫われた子供の特徴にも一致している。


 あ、やばっ!


 私の周囲には氷に閉ざされた盗賊のオブジェ多数。子供の教育には大変よろしくないし、私がやったってバレたら怖がられちゃうかもしれない。


「え、えーっと……! 違うの、これはそのっ、来た時にはもうっ!」


「助けに来てくれたんですよね? ありがとうございます」


 そう言って、男の子はぺこりと頭を下げた。


 大人びた言葉遣いと落ち着いた態度。この子本当に9歳? って首を傾げたくなった。凍った盗賊のオブジェを見ても動じていない。


 慌てて損しちゃったかしら。


 ……ううん、やっぱりそんなことないわね。


 よく見たら男の子はほんのちょっぴり震えている。きっと怖いのを我慢して強がっているんだわ。それがわかったら急に可愛らしく思えてきちゃった。


 私は男の子に目線を合わせるようにしゃがんで、頭を撫でながら挨拶をする。


「アリス・グリモワールよ。君たちを助けに来たの」


「あの、どうして頭を撫でるんですか……?」


「うーん、なんとなく?」


 男の子は釈然としないと言いたげな表情でそっぽを向く。その表情もまた可愛らしい。


 この子が私の教え子かぁ。


 魔法の才能があるかどうかは、外見だけじゃわからない。


 だけど、この子からはやっぱり底知れなさを感じる。


 なんというか、物凄い魔法使いになりそうな……そんな予感がある。私の予感ってけっこう当たるから期待しちゃうなぁ。


「……っと、そうだ。もう一人、女の子が捕まっているのよね?」


 私が尋ねると男の子はこくりと頷いて、壊れた扉の向こうを指さす。そこには飴色の髪の女の子と、薄汚い外套を着た小太りの男が立っていた。


盗賊の生き残り……! 女の子を人質に取るつもり!?


「〈氷――」


「わーっ! 待て待て! 俺はこいつらを助けてやったんだっ! 見りゃわかるだろ!?」


 杖を向けた先で男は慌てた様子で両手を振る。無視して魔法を放ってもよかったけど、子供たちの前で殺してしまうのも教育に悪い。


「あなたは?」


「フロッグ! へへっ、ここいらじゃちょいと有名な冒険者なんだぜ?」


「ああ、あなたがあのフロッグね。裏で盗賊と繋がっているのがバレてギルドを追放されたっていう。確かに有名よ?」


「うぐっ、知ってやがったのかよ……!」


 私を旅の冒険者だと思って騙そうとしたみたいだけど、そうはいかない。今回の子供たちの誘拐事件の首謀者はこいつ。やっぱりここで始末した方が良い気がする。


 どうしようかと考えていると、男の子が小さくため息を吐いた。それから、私のローブの裾をちょんちょんと引っ張る。


「あの人が俺たちを誘拐したのは間違いありません。だけど、良心の呵責に耐えられなかったのか、助けようとしてくれたのも事実です」


「それって本当? 脅されて言わされているわけじゃなく?」


 男の子は二度頷く。フロッグは何度も首を縦に振っている。


 うーん……。


「この子達に免じてとりあえずそういう事にしておくわ。だけど、変な真似をしたらすぐ氷漬けにするから。わかった?」


「お、おう。…………おっかねぇガキばっかりだ」


「何か言った?」


「なんでもねぇ!」


 フロッグによれば子供たち以外に捕まっている人は居ないらしく、私は子供たちとフロッグを連れて盗賊団のアジトを後にした。


 道中で野営して一晩を過ごし、オーツの街に着いたのは明け方を少し過ぎた頃。


 ちょうど、街の出入り口の付近には冒険者たちと鎧を着こんだ兵士たちが集まっていた。


「ん……? あれは! おいみんな、『氷槍』の嬢ちゃんが戻ってきたぞ!」


「子供たちも一緒だ! それに、フロッグの野郎も居やがる!」


「まさか一人で盗賊団を壊滅させたのか……!?」


 驚きと共に出迎えてくれた冒険者たちと衛兵に、とりあえずフロッグを突き出す。


 フロッグは喚き散らしていたけど、男の子に何やら耳打ちされて大人しく衛兵たちに連れられて行った。


 何を言ったんだろう……?

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