第12話:運命を変える出会い
「ミナリー、少しの間だけ目を瞑っていてくれ」
「れ、レインくん……?」
「大丈夫だ、すぐに終わらせる」
ミナリーがコクッと頷いてギュッと目を瞑ったのを確認して、俺は男たちからミナリーを庇うように立ち上がった。
「あ? なんのつもりだ、クソガキ」
「おいおい、王子様気取りかよ? 舐めてるとぶち殺すぞ!」
凄む男たちの内の一人に右手を向ける。
「はっ! ガキの魔法なんて怖くも何とも――」
「《風刃》」
右手に集まった淡い緑色の光がヒュンッと空気を切り裂いた。刃は男の首をあっさりと通り抜けて壁に切れ込みを入れる。
ゴトッと男の首が落ちたのはその後の事だった。
「は……?」
もう一人の男は呆気に取られている。
その隙を見逃してやる義理もない。
首を失ったまま立っている男の腰の剣を手に取り、その体を蹴った勢いで鞘から引き抜く。体を目いっぱいに回転させ、そのままもう一人の男の頸動脈を切り裂く。
「が、あっ……」
何が起こったかわからない。そんな表情のまま、もう一人の男も首から血を噴出させながら倒れこんだ。
念のため、心臓に剣を突き立てておく。男はびくりと大きく痙攣してそのまま一切動かなくなった。
『レベルアップしました。レベル:15→16』
アナウンスの声が聞こえてくる。
やっぱりモンスターを倒すと経験値効率がいいな。
この子供の体にもずいぶん馴染んできた。そろそろ魔法を使い続けるだけじゃなくて、モンスターを狩ってレベル上げし始める頃合いかもしれない。
なんて思いながら剣を引き抜くと、「ひぃっ」という悲鳴が聞こえてきた。見れば、鉄格子の向こうでフロッグが腰を抜かしている。
新しい経験値…………いやいや、こいつはまだ人間か。
牢屋の外に出てフロッグに剣を向ける。
「い、命だけは! お願いだ、助けてくれっ!」
フロッグはほとんど五体投地のような状態で命乞いをする。
今の一瞬の戦闘で、生殺与奪権がこっちにあると理解したのだろう。子供にも頭を下げるプライドの無さはさすがだ。
「条件次第だ、フロッグ。俺たちをオーツまで案内するなら、
あえて『お前だけ』と強調する。つまり、他の連中は皆殺しにする。そう伝えることで、フロッグが盗賊団を裏切るハードルを低くしてやる。
「へ、へいっ! ありがとうございます!」
フロッグは震える声で叫ぶように答えた。
「レインくん、まだぁー……?」
目を瞑ったままのミナリーが呼んでいる。とりあえずフロッグに死体を隠すように指示した。まだミナリーには少し刺激が強すぎる。
「もういいよ、ミナリー」
フロッグが死体を隠し終えてから俺がそう言うと、ミナリーはギュッと瞑っていた目を開く。周囲を見て、首を傾げた。
「さっきの人たち、レインくんがやっつけたの……?」
「ああ。……ごめん、ミナリー。怖い思いをさせた」
「ううん、大丈夫! わたしこそ、レインくんを守れなくてごめんね。お姉さんなのに……」
「いや、同い年だろ」
「違うもん! わたしのほうがお姉さんだもんっ!」
そう言ってミナリーは俺をギュッと抱きしめると、やや乱暴な手つきで頭を撫でてくる。
……まったく、わがままなお姉さんだ。その体が少し震えていたから、しばらく好きなようにさせておくことにした。
そんな俺たちをフロッグは強張った表情で見ていた。
今なら俺を殺せるんじゃないかと考えているかもしれないが、右手だけは自由に使えるようにしている。危害を加えようとしてくるなら返り討ちにするだけだ。
俺の心情を察してか、フロッグは頭を掻いて大きく息を吐いた。
「急いだほうがいいですぜ。頭が戻ってくるかもしれねぇ。さすがのあんたでも、頭と大勢に囲まれちゃヤバイでしょう?」
「そうでもない」
と言いつつ、実際は少しだけヤバいと感じている。蹴散らすだけならどうということもないが、ミナリーを守りながらの戦いになる。
それに、俺が劣勢だと感じればフロッグも大人しく従うことはないだろう。不利な戦いは避けられるに越したことはない。
俺たちはフロッグに道案内をさせ牢屋から脱出することにした。
いつでもお前を殺せるという圧で右手を向けながら先を促す。フロッグは引き攣った笑みを浮かべながら入り組んだ通路を進んでいく。
「やけに静かだな……」
さっきまでは牢屋の中にまで喧騒が聞こえてきていた。けれど今は、それがぱったりと止まっている。
「くちゅんっ」
ミナリーが可愛らしいクシャミをした。どんどん寒くなっている気がする。外が近づいているんだろうか。…………それとも。
「外に出るにはどうしても盗賊連中が居る酒場を通るしかねぇ。どうするんで?」
「強行突破しかないだろうな」
出口がそこしかないなら、やるしかない。フロッグは「マジかよ……」とうめきながら進み、やがて両開きの扉の前で立ち止まった。
「なんだぁ……?」
扉を前にして、フロッグは首を傾げる。それも無理はない。扉の一部が凍結し、隙間からは凍えてしまいそうなほどの冷気が漏れ出ていた。
やっぱり、そうか。どうやら彼女が助けに来てくれたらしい。
「こりゃいったい……」
「フロッグ、そこを離れた方がいい。巻き添えを食らう」
「は? ――うおっ!?」
訳が分からないという表情のフロッグの手を強引に掴んで引っ張り、扉の前から退ける。
「このガキ! なにしやが――」
倒れこんだフロッグの目の前で扉が粉々に砕け散り、大きな氷の塊が廊下の壁に激突した。
それは、分厚い氷に覆われた盗賊団の頭目。腹には大きな氷の槍が突き刺さり、おそらく既に息絶えているだろう。
カッカッと凍った地面を歩く音が聞こえた。
盗賊団の酒場。体が震えてしまう程の寒さの中、凍った盗賊たちのオブジェの間を通って、一人の少女がこちらへ歩いてくる。
ふわりと揺れる長い白銀の髪。きめ細やかな色白の肌に桜色の唇。黒色のローブの下には青と白を基調としたヴィルヘイム王立学園の制服が見え隠れする。
氷系統魔法を極めた作中最強の魔法使い。
『
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