第14話:生きた証〈アリス視点〉
それからすぐに、私と子供たちはギルドの職員に連れられて冒険者ギルドの建物に案内された。奥の部屋でギルドマスターが出迎えてくれる。
「おぉ、アリス殿! よくぞ子供たちを救ってくれた! 一人で飛び出した時はどうなるかと思ったが、さすが王国史上最高の天才魔法使いと言われておるだけあるのぅ!」
「や、やめてください。恥ずかしいですから……」
ヴィルヘイム王立学園の入学試験でちょっと良い成績を取っただけで、王国史上最高の天才魔法使いなんて言われるのは恥でしかない。
それのせいで色々と苦労する羽目にもなったし、同級生や貴族たちからもよく思われなかったし。
「それは悪かったのぅ。それで、お主らがレイン・ロードランドとミナリー・ポピンズじゃな。怪我はしておらぬか?」
「はい。アリスさんが助けてくれたので」
「だ、大丈夫ですっ!」
男の子は落ち着いた様子で、女の子は少し緊張しつつも元気に返事をする。
そういえばこの子たちの名前、今知ったかも。野営の時は周囲とフロッグを警戒していてゆっくり話せなかったし……。レインとミナリーかぁ。
「そうかそうか。それは何よりじゃ。すまんかったのぅ。儂の不始末でお主らには怖い思いをさせてしまった。すぐに信頼のできる冒険者の護衛をつけてターガ村に帰れるように手配しよう」
「「えっ!?」」
ギルマスの言葉に驚きの声が重なる。それは私とレインの声だった。
この子たち、村に帰っちゃうの?
「……あの、この事は両親には内密にしてもらえませんか。あまり心配をかけたくないし、ここで魔法を学びたいんです」
レインはそう言って食い下がるけれど、ギルマスの表情は渋い。
「しかし、大事になってしまったからのぅ。遅かれ早かれ、カインの耳に入ってしまうじゃろう。そうなったらより一層、お主の両親を心配させることになるとは思わぬか? 早く元気な姿を見せてやった方が良い」
「それは……」
「なあに、お主らはまだ若い。魔法を学ぶ機会なんていくらでもあるじゃろう。今回は少し……巡り合わせが悪かったんじゃ」
ギルドマスターはそう言ってレインを諭す。確かに、レインはまだ子供だ。別に今からじゃなくても魔法を学ぶ機会はあるし、そんなに焦る必要もない。
……けど、私がこの子たちに魔法を教えられるのは今しかない。
冬が明ければ、私は北方山脈を超えて禁忌の地を目指す。戻って来られる保証のない旅だ。たぶんきっと、もう二度とこの子たちには会えなくなる。
そう考えると、無性に名残惜しく感じてしまう。
ギルマスの意見にはむしろ賛成だし、子供たちとその家族の人たちの事を考えれば村に帰らせるべきだとは思うけど……。
どうしたものだろうと首を捻っていると、誰かにローブを引っ張られる。見れば、隣に居るレインがキュッと私のローブを掴んでいた。
「…………それでも、俺はこの人から魔法を学びたいです」
絞り出すように、懇願するように。レインはギルマスを真っすぐ見つめて言う。
「ダメ、ですか……?」
そして私を見上げて上目遣いで言うものだから、私は思わず「いいよ!」と抱きしめそうになった。
危ない危ない、理性がギリギリで抑え込んでくれた。
冷静になりなさい、私。ちょっと考えてみよう。
まず、子供たちは村に帰すべきだ。それはギルマスの意見に賛成。それに、魔法ならまだいくらでも学べる機会があると私も思う。
だけど、私がこの子たちに魔法を教えられるのはこの冬しかない。
期間は冬の間に降った雪が解け始めるまで。私はこの街に滞在して旅の支度を整えながら、子供たちに魔法を教えるつもりだった。
とはいえ旅の支度と言っても、北方山脈を超えるための装備は麓の町の方が充実しているだろうからこの街で何かを買う予定はない。
……つまり、別にこの街に滞在している理由もない。
「いいよ!」
「うわっ!?」
「きゃあっ」
私はレインとミナリーをギュッと抱きしめる。二人とも目を白黒させて、レインは恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。可愛いなぁ、もう。
「レイン。ミナリー。お姉さんが二人の家庭教師になってあげる!」
「いいん、ですか……?」
「もちろん! ギルマス、私はこの子たちを村まで送り届けてそのまま滞在しますね」
「う、うむ。アリス殿ならば安心じゃが、よいのか? 旅の支度もあるじゃろう?」
「どちらにせよ雪解けまでは動けませんし、街に残っても冬の間は手持ち無沙汰になってしまいますから」
――それに。
死ぬかもしれない旅だから、少しでも私が生きた証を残したい。
なんて言葉は心の内に飲み込む。
子供たちには重すぎるし、ギルマスも困ってしまうだろうから。
いつかレインとミナリーが大人になった時、ほんのちょっぴりでも私の事を憶えてくれているように。……よしっ、頑張ろう。
「よろしくね。レイン、ミナリー」
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