第27話 ブラックスワンの戦い(1)

 ラムズデールはいわゆる「城下町」で、王城を取り囲むように街が広がっている。その周囲はぐるっと壁で覆われ、外敵から城や街を守っている。


 この世界には危険なモンスターが多く生息しているので、何より守りを重視しないといけないのだろうと思ったのだが、どうやら国王が保守的な人物らしく、現代日本とおなじ「専守防衛」を掲げているのだとか。


 食うか食われるかの殺伐としたこの世界でそんな呑気に構えていたらすぐに領土を奪われてしまうだろう……と思ったが、そうでもないらしい。


 最近、隣国との緊張が高まっているが、長らく他国に攻め込まれることもなく平和が続いているという。


 その要因が俺たち転移者と──領土の各地に点在している、砦の存在だった。


 防衛の要ともいえる砦は、ラムズデールの周辺に10箇所あるらしい。


 その中でもひときわ大きいのが、東にあるバランクック砦だ。


 まるで城のようにデカいその砦には、転移者が数多く在籍する王国最強の騎士団が駐留していて、周辺地域に目を光らせているのだとか。


 一方の俺が向かっているくだんのブラックスワン砦は、ラムズデールの西にあるとても小さな砦だ。


 老朽化により13年前に放棄されていて、今は数年前にブラックスワンの近くに建てられた別の砦が周辺地域の護衛の任に当たっているらしい。



「……しかし、ボロボロだな」



 街から1時間ほどかけて到着したブラックスワン砦。


 その外観を見て、つい、そんな言葉が口から出てしまった。


 お世辞にも大きいとは言えないこぢんまりとした砦と、その周囲をぐるっと取り囲むように張り巡らされた壁。


 そのどちらも草や苔だらけだし、砦の門に至っては半分が崩れてなくなってしまっている。


 13年も放置していたら、そうなるよな。


 こんな老朽化している砦が使えるのか──と心配してしまったが、よく見るとそうでもないことに気づく。


 壁は苔や草だらけだが、門の扉以外は崩れていない。

 砦の壁面もしっかりした作りのままだ。


 これなら少し手を入れるだけで再利用できそうだ。



「しかし、モンスターの姿は見えないな」



 崩れた門から中庭を覗いてみたが、生き物の気配はしない。


 こういうとき、ミリネアがいると【マッピング】で一発でわかるんだが。



「ひとまず中に入ってみるか」



 ぐずぐずしていたら、日が暮れてしまうからな。


 剣を抜き、敷地の中に入る。


 半壊している門をくぐると、想像以上に広い庭が広がっていた。


 多分、駐留していた騎士団の訓練場だろう。


 打ち込み人形や、弓の的がいくつか並べられている。


 ちょっと気になったのが、庭にあまり草が生えていなかったことだ。


 砦の壁面と比べても明らかに綺麗で、誰かが先程までここを使っていたかのような雰囲気さえある。


 人間か、それともモンスターか。


 と、警戒を強めたとき、風に乗ってツンとした刺激臭が流れてきた。


 何かが腐ったような匂いだ。



「……モンスターがいるな」



 この世界に来てまだ短いが、こういう匂いがする場所にはモンスターがいることが多い。


 ヤツらは腹が減ったら腐った肉でもうまそうに食うし、死体を掃除したりしない。


 占拠している相手が人間だったら嫌だなと思っていたが、モンスターなら気にする必要もないだろう。


 見つけ次第、排除だ。


 それから庭をぐるっと見てまわったが、モンスターの影はなかった。


 ということは、砦の中だろう。


 砦の入り口は1階にひとつ。

 それに、砦を囲む壁と繋がっている2階部分にひとつあるようだ。


 モンスター相手なら待ち伏せを気にする必要もないし、正面から行くか。


 というわけで、半開きになっている正面の入り口から、砦の中に入る。


 壁の松明に明かりは灯っておらず、薄暗い。


 こりゃあと数時間で真っ暗になるな。


 それまでにモンスターどもを片付けないと。



「……ん?」



 慎重かつ急いで足を進めていると、正面の部屋から物音が聞こえた。


 そっと部屋を覗くと、鎧を着た巨大な化け物がいた。



「あれは……オークか」



 イノシシの顔をした人型のモンスター。


 部類としては獣人と同じ「亜人」なのだが、モンスターの血が濃くて知能が低い。


 見た目は人間のような形をしているが、思考が完全にモンスターなのだ。


 彼らが厄介なのは、身体能力が高いことだ。


 ゴブリンロードの量産型といえばわかりやすいか。


 筋骨隆々の見た目通りに筋力ステータス値が高く、下手をしたらこちらの盾や鎧ごと撲殺されかねない。



「……まぁ、今の俺の敵じゃないとは思うが」



 見たところ、オークは2匹だけ。


 片方を不意打ちで仕留められれば問題はない。


 俺は移動速度が10%アップする【軽足】を発動させ、オークとの距離を一気に縮める。



「……ブモ?」



 オークが俺に気づいて振り向いたが、すでに俺の剣はモンスターの図太い首を切り裂いていた。


 オークの青い血が周囲の壁を濡らす。



「ブモォォォオオオ!」



 もう1匹が、そばにあった巨大な棍棒を手に取り、こちらへと向かってくる。


 あれで殴られたら、流石に痛そうだな。


 即座に【魔眼】を発動させる。


 俺と視線を交差させたオークの動きが止まった。


 即座に接近し──袈裟斬り。


 胴体が真っ二つになったオークは悲鳴を上げる暇もなく、絶命した。



「……よし」 



 イメージ通りに仕留めることができた。


 この調子で行けば問題なく残りのモンスターも一掃できそうだな。

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