第7話 ゴブリン討伐
俺が受けた依頼は、ラムズデールの街道近辺に生息しているゴブリン5匹の討伐だった。
ゴブリンはモンスターの中でも低級で、あまり人がいない場所に生息しているのだが、どういうわけかここ最近は街道近辺にも出没しているらしい。
なので街道を利用している商人組合から、ゴブリンの討伐依頼が冒険者ギルドに出された、というわけだ。
ゴブリンはかつての俺にとって強敵だったが【不正侵入】や【痛撃】スキルを上手く活用すれば、難なく倒せる相手だろう。
とはいえ、【痛撃】スキルはSP消費が激しいしので無作為に使ってしまうと、いざという時にピンチに陥る可能性がある。
「……能力奪取にもSPを使うし、使い所を考えておいたほうがいいな」
というわけで、ゴブリンとの戦闘に備えて再度ステータスを確認しておくことにした。
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名前:トーマ・マモル
種族:人間
性別:男
年齢:28
レベル:3
HP:30/30
MP:3/3
SP:10/10
筋力:12
知力:2
俊敏力:7
持久力:9
スキル:【解析】【不正侵入】【痛撃】【追跡】
容姿:イリヤ・マスミ
状態:普通
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【痛撃】スキルの消費SPは5だ。
俺の最大SPが10なので、使えて2回。
【不正侵入】で能力を奪ったりコピーしたりすると、大体2~5くらいSPが消費されるので、一度でも能力を奪えば【痛撃】は1回しか使えなくなる計算だ。
できればステータス強化にSPを使いたいから、いざというとき以外の【痛撃】の使用は避けておいたほうがいいだろう。
スキルを使わず剣でゴブリンと戦いたいところ。
筋力は當間の数値を奪っているので申し分はないが……問題は防御面だな。
「そうだ。改ざんで装備を強化できないだろうか?」
ポーションの名前を変えたみたいに数値をいじることができれば強化できるはず。
早速、装備している革鎧に触れて【解析】を発動させる。
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名称:革鎧
外形:革鎧
効果:防御力+5
耐久値:35/100
素材:革
獣から剥いだ革を蝋引きによって加工し、強度を高めた鎧。
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よし。この防御力を改ざんして……。
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効果:防御力+9
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まずは防御力の一桁を9にしてみた。
続けて二桁目を9にして「+99」にしてみようと思ったのだが──。
《SPが足りません》
「……え?」
なんでだ?
改ざんに必要なSPは1だったはずだが?
スキルの【不正侵入】をタップして、詳細を見てみる。
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名称:【不正侵入】
効果:触れた対象の情報、能力、スキルを奪取・コピー・改ざんできる。
消費SP:奪取・コピー 2SP~(能力、スキルによって変動)
改ざん 1文字目:1SP
2文字目:150SP
3文字目:700SP
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なんだこりゃ。
改ざん2文字目から消費SPが跳ね上がっているじゃないか。
つまり、最大SPが151以上になるまで1文字しか変えられないってことか。
改ざんで装備を鬼強化するには、最初から数値が2桁の装備を買うしかないな。
ううむ。最初から2桁の装備となると、中古でも結構値が張るんだよな。
しばらくこの+9の装備で頑張るしかないか。
「……む?」
などと考えていると、街道の傍にある巨大な木の下に小さな緑色の肌をしたモンスターの集団が見えた。
ゴブリンだ。
ざっと数えて7匹ほど。
受けた依頼は「ゴブリン5匹の討伐」だから、全滅させれば依頼達成。
だが、流石に一度に7匹と戦うのは危険すぎるな。
こういう時に弓が使えれば遠距離から1匹づつ釣って楽に立ち回れるのだろうが、生憎、俺は弓術に覚えはない。
群れから孤立するヤツが出るまで待つしか無いか。
そう考えた俺は、ゴブリンたちの動向がよく分かる位置に身をひそめる。
腰くらいまで草が伸びていて、しゃがめば身を隠すことができた。
そうして待つこと10分ほど。
1匹のゴブリンが群れから離れ、街道の方へトコトコと歩いていく。
「……よし。まずはあいつからだな」
1匹倒してステータスを奪えば、多少は楽になるはず。
しかし、問題はどうやって仕留めるかだな。
【不正侵入】を使うには相手に触れないといけないから、自ずと接近戦になる。
てことは、使う武器は剣よりもナイフがいいか。
腰から採取で使っていたナイフを抜き、ゆっくりとゴブリンの背後から近づいていく。
音を立てないように、慎重に。
「……ギッ!?」
背後から飛びつき、ナイフを首に突き立てた。
當間から筋力を奪ったおかげか、ゴブリンの首にナイフを簡単に突き刺すことができたが、一撃で仕留めることはできなかった。
「グギャギャッ!?」
「くそっ……!」
がむしゃらに暴れられ、思わず飛び退いてしまった。
だが、振りほどかれる前に【不正侵入】スキルを発動。
ウインドウにゴブリンのステータスが表示される。
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名前:ゥゲル・ギンス・エル
種族:ゴブリン
性別:男
年齢:7
レベル:5
HP:23/60
MP:0/0
SP:10/10
筋力:8
知力:9
俊敏力:10
持久力:6
スキル:【体力強化(微)】【投石Ⅰ】
容姿:ゥゲル・ギンス・エル
状態:負傷
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ううむ……ステータスを奪おうかと思ったが、数値がちょっと低いな。
群れの中でも弱い個体だったか?
筋力は當間から奪った数値より低いし、SP値も俺と同じ。
奪うなら、俊敏力あたりか?
よし。あとはスキルも奪っておくか。
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名前:トーマ・マモル
種族:人間
性別:男
年齢:28
レベル:3
HP:35/35
MP:3/3
SP:4/10
筋力:12
知力:2
俊敏力:10
持久力:9
スキル:【解析】【不正侵入】【痛撃】【追跡】【投石Ⅰ】【体力強化(微)】
容姿:イリヤ・マスミ
状態:普通
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【体力強化(微)】のスキルを奪取したおかげで、HPが少しだけアップした。本当に少しだけだが、無いよりマシだ。
「ギャギャッ!」
ゴブリンが棍棒を振り回しながら襲いかかってきた。
俊敏力が上がったので簡単にかわせると思ったが「心持ち速く動けているかな?」程度の変化だった。
強化された数値が微微たるものだったせいだろう。
なので、モロに棍棒を腹部に受けてしまった。
「う、くっ……」
衝撃が走る。
だが、その衝撃を利用してゴブリンから距離を取ることには成功した。
しかし、めちゃくちゃ痛いな。
まぁ、あんなぶっとい棍棒で殴られたらそりゃ痛いよな。レベルが低いし、革鎧+9の装備じゃ耐えられないか。
さて、どうする。
もう少し防具を強化したいところだけど、2文字目の改ざんをするにはSPが足りない。
「……となると、改ざんするのは相手の装備か?」
強化だけじゃなく、弱体化もできるはず。
再び殴りかかってきたゴブリンの背後を取って、羽交い締めにして棍棒に触れる。
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名称:ホワイトオークの棍棒
外形:棍棒
効果:攻撃力+8
耐久値:15/100
素材:ホワイトオーク
ホワイトオークの木で作られた棍棒。殴られると痛い。
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ホワイトオークって、確か硬い部類の木だったよな。
そりゃ痛いわけだ。
攻撃力を改ざんして「+8」を「0」……いや「-8」に。
これで攻撃力がゼロよりも下がって、マイナスになった。
ゴブリンの攻撃を無力化できたはずだ。
「ギギギッ!」
羽交い締めした俺をふりほどき、再び殴りかかってくるゴブリンだったが──。
「……ウギ?」
「残念だったな」
胸部で棍棒を受け止めたが、全く痛くない。
衝撃は皆無で、まるっでスポンジで出来た棒で殴られている感じだ。
俺はナイフ構え、ゴブリンに斬りかかる。
「グギャッ!?」
どうやら今度は致命傷を与えることができたらしい。
ゴブリンは青い血をほとばしらせながら倒れ、やがて黒い煙に変わっていく。
その場に残ったのは、小さな石。
ゴブリンの超極小魔晶石だ。
《レベルが4にアップしました》
そして、嬉しいアナウンスが頭の中に響く。
おお。早速レベルアップしたぞ。
これまでずっと採取系の依頼だけしかやってこなかったから初経験だけど、モンスターを倒せたら簡単に上がるんだな。
それから同じような戦法で1匹づつゴブリンを仕留め続け、2時間ほどで7匹全員を仕留めることができた。
手に入ったのは、ゴブリンの超極小魔晶石が6つと、ひとつ上のサイズの極小魔晶石がひとつ。
それに、スキルがいくつかと……レベルが6まで上がった。
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名前:トーマ・マモル
種族:人間
性別:男
年齢:28
レベル:6
HP:90/90
MP:7/7
SP:15/15
筋力:15
知力:7
俊敏力:14
持久力:15
スキル:【解析】【不正侵入】【痛撃】【追跡】【投石Ⅰ】【体力強化(小)】【俊敏力強化(微)】
容姿:イリヤ・マスミ
状態:普通
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「よしよし。だいぶ強くなれたな」
HPやSPも底上げされているし、スキルも手に入った。
ステータス値を奪取した場合、レベルアップしても数値が変わらないのではと少し心配になったけど、普通に加算されていた。
レベルアップするとHPとMP、SPも完全回復するみたいだし、この調子で強いステータス値があったらガンガン奪っていこう。
「しかし、スキルの習得数には上限がないんだな……」
スキルは転移者とモンスターだけが使える特殊能力だが、転移者が持つスキルは多くてふたつ程度だと聞く。
だけど覚えているスキルは既に7個。
スキルには【体力強化】や【俊敏力強化】みたいに、ステータス値をアップさせるいわゆる「パッシブスキル」もあるみたいだし、こういうものから積極的に奪ったほうが強くなれそうだな。
「あ、そうだ。たしか【投石】スキルって、上位スキルが別の魔晶石にあったな」
ふと思い出し、袋から取り出したゴブリンの魔晶石ふたつを同時にハッキングしようとしたときだ。
ガン、と頭に叩かれたような痛みが走り、一瞬意識を失いかけてしまった。
「な、なんだ?」
もしかしてゴブリンに不意打ちを食らったか──と思ったが、周囲には誰もいない。
次第に頭がクラクラとしはじめたのでウインドウをひとつ消してみたところ、頭痛が嘘のように消えた。
「……まさか、ふたつ同時にハッキングしようとしたからか?」
複数のステータスを同時に開くまでは大丈夫だが、スワイプさせようとすると急激に頭が痛くなる。
情報が大量に頭に流れ込んでくるから……か?
理由はわからないが、下手をしたら気絶してしまうかもしれないから一度にハッキングする対象はひとつだけにしておいたほうが良さそうだ。
「よし、そろそろ街に戻るか」
ゴブリンの討伐数はすでに依頼の数を超えている。
これといって強力なスキルも持っていなさそうだし、一度街に戻って報告したほうがよさそうだな。
そうして街に戻ろうとしたときだった。
「う、うわぁああああっ!?」
街道のほうから悲鳴のような声が聞こえた。
そちらに視線を送ると、街道に止まっている黒い馬車が見えた。
それと──馬車を囲んでいるゴブリンの集団も。
マズいな。どうやら誰かがゴブリンに襲われているらしい。
商人か、どこぞの金持ちか。
荷馬車がゴブリンに襲われる事件が多発していると聞いたが……まさか目の前で起きるとは。
「……仕方ない。見て見ぬふりをするのは寝覚めが悪いし、助けるか」
ゴブリン程度だったら余裕で勝てるしな。
俺は剣を抜くと、街道に向かって走り出した。
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