第49話 異変
シラトリは勝ち誇ったような笑みを携え、悠然とこちらに近づいてくる。
「先日起きた奴隷商事件のあと、斡旋人の大規模検挙を実施したんです。そこで現場から逃げた斡旋人を捕まえることに成功したのですが、少々妙なことを言ってましてね?」
不思議そうに首を捻る。
「詳細にお話を伺ったのですが、何度尋ねても『あの現場には行ってない』と言うんです。自分はトーマという冒険者に拘束されて監禁されていた、と」
「……」
カインの野郎。
あれほど脅したのに簡単にジャッジに情報を渡しやがって。
やはりセナが言う通り甘すぎたか──と思ったが、ふと間違っていたことに気づく。
違う。カインは情報を私たのではなく、吐かされたんだ。
ジャッジは相手が誰であろうと、気分ひとつで処刑するような連中。
尋問、拷問はお手の物。
捕まったら最後、公安隊本部を出ることができるのは廃人になったヤツか死体だけ。そんな噂すら耳にしたことがある。
カインは拷問を受け、情報を吐かされたのだ。
「そのトーマという冒険者を調べたところ、おかしい情報が出てきましてね? 冒険者に登録されている情報が、先日から行方不明になっているジャッジと同じじゃあありませんか」
次第に追い詰められている感覚があった。
もしかすると探偵に追い詰められる殺人犯というのはこういう気持ちなのかもしれない。
「行方不明になっているジャッジが追っていたのは、同業者殺しの犯人のイリヤマスミという転移者。その犯人はすでに絞首刑になっているのですが、死に際に何度も『自分はイリヤではなくスドウだ』と言っていたらしいんです。それを聞いて、私、ピンと来ちゃったんですよね」
シラトリがポンと手を叩く。
「もしかしてあの斡旋人とスドウさんって、別人にさせられたんじゃないですかね? トーマさん、あなたの手によってね?」
「何を言ってるのはわからんが、少々妄想癖があるみたいだな?」
「えっへっへ、褒めても何もでませんよ?」
照れくさそうに頬を緩めるシラトリ。
いや、全然褒めてないんだが。
「あの、シラトリさん?」
別のジャッジが声をかけてきた。
「はい? どうしました?」
「ジャッジ殺しの重要参考人に内部情報を話して大丈夫なので?」
「…………あ」
口を半開きにしたまま固まるシラトリ嬢。
ペラペラと詳細をしゃべってたけど、絶対だめだよな?
うん、やっぱりこいつ、ただのポンコツだ。
「と、とと、とにかくですね! 詳しく話を聞かせていただきますよ、トーマさん! ここではなく、公安隊本部でね!」
「協力はできかねるよ」
即座に動く。
スキル【魔眼】を発動させ、周囲のジャッジの動きを止めた。
だが、シラトリは咄嗟に別のジャッジの影に隠れて難を逃れたらしい。
「逃がしませんよ! 蛆虫さん!」
シラトリの周囲に無数の剣が浮かぶ。
短剣に長剣……斧に槍。
それらを引き連れて、肉薄してくる。
「同じ転移者のよしみで見逃してくれないか?」
「駄目です! 街にはびこる悪を誅するのが私の使命ですから!」
「やはり妄想癖が強いみたいだな」
「いくら褒めても許しませんったら! 強制的に連行させていただきます!」
武器の群れが一斉に襲いかかってくる。
おびただしい数の武器による連続攻撃。
普通の人間だったら避けることは無理だっただろう。
だが、こっちには【回避性能(極)】がある。
スキルを発動した瞬間、体が勝手に回避行動を取る。
「は、はやっ!?」
まさか避けられるとは思っていなかったのか、シラトリが驚嘆の声を漏らした。
その隙を突き、攻撃を躱したところでミリネアの手を取る。
「逃げるぞミリネア」
「は、はいっ」
この程度なら戦っても問題はないだろうが、面倒事はごめんだからな。
周囲には混乱した群衆がいる。
この中にまぎれてしまえば見つけるのは困難。
──と思ったのだが。
「えっへっへ」
いつのまに接近していたのか、シラトリが俺の腕を掴んでいた。
「ようやく捕まえましたよ?」
「ちっ」
この距離はまずい。
あの黒い布のスキルを持っていたらがんじがらめにされて万事休すだ。
ここは強引に引き剥がすのが吉か。
ジャッジの職についている転移者ともなれば、そうとうな実力者のはず。
だが、今の俺もシラトリたちに勝るとも劣らない力を持っている。
スキルを使えば簡単に振り払うことができて──。
「……む?」
と、自分の体に奇妙なことが起きていることに気づく。
おかしい。
手に力が入らない。
「ふっふっふ、びっくりしました?」
ニヤけるシラトリ。
「ほら、早くしないと……どんどん力がなくなっちゃいますよ?」
「……っ!」
直感でまずいと感じた。
何だかわからんが、こいつに触られているのは危険だ。
「くそっ! 動きを止めさせてもらうぞ! 【魔眼】……っ!」
すかさず一定時間行動不能にさせるスキルを発動する。
だが──。
「……ふふふ、何も起きませんねぇ?」
行動不能になるどころか、シラトリは両手で俺の腕を掴んでくる。
どういうことだ?
なぜスキルが発動しない?
―――――――――――――――――――
名前:トーマ・マモル
種族:獣人
性別:男
年齢:28
レベル:35
HP:2230/2230
MP:130/130
SP:54/54
筋力:5
知力:35
俊敏力:7
持久力:55
スキル:【解析】【不正侵入】【痛撃】【追跡】【投石Ⅰ】【体力強化(中)】【俊敏力強化(小)】【体力自動回復(小)】【光合成・魔】【光合成・技】【光合成・体】【花粉飛散】【ドレインエナジー】【軽足】【毒耐性(中)】【水耐性(中)】【MP強化(小)】【知力強化(小)】
魔術:【フレイムⅠ】【フレイムアローⅠ】
容姿:イリヤ・マスミ
状態:普通
―――――――――――――――――――
「……嘘だろ」
俺のステータス……筋力と俊敏力の値が初期値に戻っている。
それに、いくつかスキルも消えてしまっている。
まさか──。
そう考えた俺は【解析】を発動させた。
つい先程までシラトリに掴まれていた。
まだ【解析】できるはずだ。
―――――――――――――――――――
名前:シラトリ・カスミ
種族:人間
性別:女
年齢:18
レベル:42
HP:1950/1950
MP:120/120
SP:95/95
筋力:55
知力:67
俊敏力:58
持久力:32
スキル:【拘束】【除去】【ウエポンサモン】
容姿:シラトリ・カスミ
状態:なし
―――――――――――――――――――
スキルにある【ウエポンサモン】というのが、さっきの武器の群れを召喚するスキルだろう。
最初の【拘束】は黒い布で捕縛するスキル。
となると、俺のステータスを奪ったのは──。
「……なるほど。こいつか」
「ふふ、何をわかったような口を利いてるんです? そんな簡単に私のスキルの正体が」
「【除去】スキルか。こいつで俺の能力を消したんだな?」
「そ、そそそ、そんなわけ、ある、あるある、あるかぁ! ばーかばーか!」
うん。実にわかりやすい反応。
この【除去】スキル……多分、触れた相手の能力を削ぎ落とすみたいな能力だろう。
ジャッジにピッタリのスキルだが、なんて物騒なものを持ってやがる。
ステータス値は奪えば良いが、またスキルを探さないといけなくなってしまったじゃないか。
しかしこのまま掴まれたままだと【不正侵入】スキルまで消されかねない。
即座に【痛撃】を放ち、シラトリを吹き飛ばす。
腕力は初期値に戻ってしまったが、防御力の70%を無視する【痛撃】なら効果はあったようだ。
「こ、この……無駄なあがきを!」
「怖いスキルだが正体がわかってしまえばなんてことはない。距離を取ってしまえば大丈夫だし、このまま──」
と、そのときだった。
地面が激しく揺れる。
まるで地面から誰かがノックするようにズドンと衝撃が起き、地面が大きくはぜた。
土と瓦礫、それに逃げ惑っていた群衆の一部が宙を舞う。
「ト、トーマ!」
「……っ! 俺の後ろに下がれミリネア!」
咄嗟にミリネアをかばう。
突然の出来事に、群衆もジャッジたちも足を止める。
「な、なんだ!? 一体なにが──」
シラトリがそこで言葉を止めたのは、きっと息を呑んだからだろう。
それを見ていた俺も固まってしまった。
裂けた地面の中から、ぬうっと何かが姿を現したからだ。
獅子の体に人の顔、さらにコウモリの翼を持つ城門ほどの大きさがある巨大な化け物──。
「マ」
ぽつりとこぼれるシラトリの声。
「ママ、マ、マンティコアぁああ!? うそおおおおっ!?」
「ゴアアアアアアアアッ!」
彼女の素っ頓狂な声に続き、マンティコアと呼ばれた化け物の凄まじい雄叫びが街中に轟いた。
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落ちこぼれ転移者、全てを奪うハッキングスキルで最強に成り上がる 〜最強ステータスも最強スキルも、触れただけで俺のものです〜 邑上主水 @murakami_mondo
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