第11話 新しい相棒
「……おっ、いたいた」
ラムズデールの街を出て街道を歩いていると、何やら白い小さな動物が集まっているのが見えた。
数にして10匹ほど。
長い耳に、白いモフモフの体。
額には小さな角。
兎のモンスター「アルミラージ」だ。
アルミラージはぱっと見は小さな角が生えた可愛い兎だが、凶暴さはEランクモンスターの中でも郡を抜いている。
彼らはしっかりとしたテリトリーを持っていて、そこに入ってくる生き物には容赦なく襲いかかるという恐ろしい習性がある。
つまり、自分より数倍は大きい人間相手だろうと、問答無用で襲いかかってくるというわけだ。
先日のゴブリンと同じく、街道を利用している人たちが大勢アルミラージの被害にあっているらしい。
それで冒険者ギルドに「兎狩り」が依頼された……というわけだ。
最近、モンスターの活発化に悩んでいる人が多いとギルドマスターのルシールさんも言っていたっけ。
こっちとしては稼ぎ時なんだけど、何か理由があるのだろうか?
「……ギ?」
見つからないようにゆっくりとアルミラージの群れに近づいていったんだが、一定の距離まで来た瞬間、彼らが一斉にこちらを振り向いた。
あ、マズい。
「ギギギッ!」
「……うわっ!?」
そして、こちらに向かって一斉に走り出す。
想像以上に速くてびっくりしてしまった。
これはここ数日でわかったことなんだが、低ランクのモンスターは恒久的に効果が発動しているパッシブスキルを活かして戦うヤツが多い。
この素早さから推測するに、アルミラージは俊敏力強化系のスキルを持っているんじゃないかな?
「キィッ!」
またたく間に目の前まで接近してきた一匹が飛びかかってくる。
その攻撃を盾で防いで、【解析】スキルを使った。
この木製の盾は先日街で買ったものなのだが、盾で攻撃を防いでも「触れた」判定になるらしく、【解析】スキルを使いたいときに活用している。
―――――――――――――――――――
名前:ポケ
種族:アルミラージ
性別:オス
年齢:1
レベル:5
HP:40/40
MP:0/0
SP:8/8
筋力:4
知力:2
俊敏力:13
持久力:9
スキル:【俊敏力強化(小)】【体当たり】
容姿:ポケ
状態:普通
―――――――――――――――――――
見た目も可愛いけど、名前も可愛いな。
しかし、ステータス値で俺の能力値を更新できるものはない、か。
やはりパッシブスキルでステータスを強化している感じだな。
俊敏力強化スキルは「微」しか持っていないから、これだけ貰っておくか。
スキルを奪取して、アルミラージに反撃。
「ギギィ……ッ!?」
その一撃でアルミラージは絶命し、魔晶石が転がる。
見た感じ、極小サイズの魔晶石だ。
極小サイズは、1個50ライムでギルドが買い取ってくれる。
日本円で500円くらいかな。
以前なら飛び上がって喜ぶくらいだったが、先日のゴブリンロードの大サイズ魔晶石の興奮を経験したからか、そこまで嬉しくない。
いや、十分有り難いんだけどね?
「キィッ!」
仲間を殺されたことに怒ったのか、次々とアルミラージが襲いかかってくる。
戦闘能力が無い一般人にとっては脅威となるアルミラージだが、ゴブリンロードを討伐した俺の敵ではなかった。
ものの数分で、10匹のアルミラージが魔晶石へと変わる。
「……ふう。とりあえずは全滅させたかな?」
周囲をざっと見渡したが、他にモンスターの姿はない。
背の高い草が生えているので隠れている可能性は否定できないが、安全は確保できたと思う。
こういう時、周囲をスキャンできるスキルなんかがあれば良いんだけどな。
なんていうか、こう……周囲探索的なさ。
そういうスキルが実際にあるのかどうかはわからないが、メモ帳の「欲しいスキル」リストに入れておこう。
「……いや、欲しい物リストの前に情報をメモっておこう」
ポーチから手帳を取り出し、【解析】したアルミラージの能力をメモする。
こういう情報もギルドや情報屋が買い取ってくれるんだよね。
モンスターは季節や時期によって特性が変わることがあり、生の情報を欲してる人間は多いのだという。
ざっと手帳を見返してみたところ、結構なモンスターの情報が集まっていた。
ここ数日はずっとモンスター狩りをしていたからな。そろそろ売ってもいい頃合いかもしれない。
今回のアルミラージ討伐報酬と、極小サイズ魔晶石の売却。それに情報の買い取りでなかなか良い儲けになるんじゃないだろうか。
「……ん?」
と、剣を鞘に収めようとしたとき、刃が潰れていることに気づいた。
いつのまにか剣がボロボロになっている。
連日の狩りで酷使しすぎたか。
この剣は元々、薬草採集中に襲われたときの護身用で買ったもので、粗悪品でも良いと思って中古品を買ったのだ。
―――――――――――――――――――
名称:ショートソード
外形:ショートソード
効果:攻撃力+3
耐久値:5/100
素材:鉄
鉄で作られた歩兵用の武器。別名「フットマンズソード」。
―――――――――――――――――――
【解析】で見てみたけど、やっぱり耐久値が限界に近いな。
あと数回使ったらポッキリ折れそうだ。
今後のことも考えて、新調するか。
連日の狩りで結構稼いでいるし、新品を購入してもいいかもしれない。
「……よし。とりあえず街に戻って、依頼報告をしてから鍛冶屋に行くか」
その報酬で買えるものを買おう。
ステータスはハッキングスキルで強化しているし、そこそこの武器があれば十分事足りるだろうからな。
***
ラムズデールにいくつかある鍛冶屋は包丁や工具などの鉄製具を鍛造しているが、彼らが主製品にしているのは騎士団や公安隊、冒険者が使う武具だ。
特に国の騎士団と取引しているような大きな鍛冶屋は、大量生産が可能な炉と多くの鍛冶職人を抱えていて、工房には毎日槌の音が響いているらしい。
だが、俺がやってきたのは、街の西地区にある小さな鍛冶屋だった。
街では西に行けば行くほど下町の風情が強くなり、庶民的な店も増えてくる。
ハッキングスキルのおかげで以前よりも収入が増えたとはいえ、ドでかい看板を掲げている大手の鍛冶屋に行くほど余裕はないからな。
「……10000ライムだな」
渋い表情で鍛冶屋の店主が言う。
「い、10000? このショートソードがか?」
「そうだ。値段交渉は受け付けないぜ。気に食わないなら、よそにいきな」
腕を組み、沈黙の壁を作る店主。
今使っているものと同じ武器がいいかと、店頭に並んでいるショートソード買おうと思ったのだが、いくらなんでも10000ライムは高すぎる。
ゴブリンロードの大魔晶石ふたつ分くらいだし。
多分、こっちが転移者だと見てふっかけてきたんだろう。
こっち予算は出せて3000ライムほど。
さて、どうしようか。
他の店に行ってもいいが、この調子だと他の店でも同じ対応をされてしまう可能性がある。転移者ってのは本当に嫌われているなぁ。
仕方がない。
本当は新品が欲しかったのだが、使い古しが売られている「
中古品店は冒険者がダンジョンで手に入れた新古品のアイテムや、使わなくなった武具、それに騎士団や公安隊の放出品が売られている。
良いものがあるかは運頼みなところがあるが、意外と使える装備が売られている。
俺がショートソードを買ったのも、その中古品店だ。
というわけで鍛冶屋を出て、裏通りにある中古品店へと向かう。
中古品店は俺みたいな貧乏冒険者の味方だが、商品を安く売っているものだから鍛冶屋や服飾屋などの組合から目の敵にされている。
なので大手を振って看板を出すわけにはいかず、こういう目立たない場所に店を出しているのだ。
殺風景な外観とは違って、店内は混み合ってでいた。
ざっと見たところ、冒険者風の格好をした客ばかりだ。
掘り出し物はないかと足を運んでいるのだろう。
こんなに客が来るなら、そりゃあ組合に嫌われても店を開くよな。
「……しかし、意外と値が張るな」
店先に並べられている中古品をひとつひとつ【解析】を使って調べてみるが、今の装備よりも上等なものは6000ライムほどする。
今の予算で買えるのは、騎士団放出品の2000ライムのロングソードくらいか。
―――――――――――――――――――
名称:ロングソード
外形:ロングソード
効果:攻撃力+13
耐久値:9/100
素材:鉄
騎士が馬上から使うために考案された両刃武器。別名「ホースマンズソード」。
―――――――――――――――――――
攻撃力は申し分ないが、ボロボロも良いところだな。
今のショートソードとそんなに変わらないし。
見た目は普通だから商品として並べているんだろうけど、この耐久料じゃ使い始めたその日にダメになりそうだ。
どうにかして耐久値を回復させる方法ってないのだろうか。
鍛冶屋に行って打ち直してもらうとか?
まぁ、技術的には可能なんだろうが、また大金をふっかけられそうだ。
「……ちょっと待てよ。【不正侵入】スキルを使って耐久度を改ざんすればいいのでは?」
現在の俺のSPで改ざんできるのは一文字だけだが、自由に文字を消したり書き換えたり、追加することができる。
だったら、耐久値を「99」にしてしまえばいい。
早速【不正侵入】スキルを発動させ、ロングソードの耐久値を改ざんしてみる。
―――――――――――――――――――
名称:ロングソード
外形:ロングソード
効果:攻撃力+13
耐久値:99/100
素材:鉄
騎士が馬上から使うために考案された両刃武器。別名「ホースマンズソード」。
―――――――――――――――――――
「……おお、できたぞ」
これはすごいな。見た目も新品みたいになった。
新品のショートソードが10000ライムなら、ロングソードは30000ライムくらいするんじゃないか?
それを2000ライムで買えるなんて、お得すぎる。
早速、レジに持って行く。
使っていたショートソードを下取りしてもらい、差額を支払う。
合計支払い金額は1900ライム。
更に安くなったな。
店員が「こんな新品の武器がウチにあったか?」みたいな顔をしていたけど、無事に購入できた。
早速、明日からのモンスター狩りに使おう──と言いたいたいところだが、ロングソードを使うのは初めてだし、いきなり実戦投入は怖いところがあるな。
「すまない。ちょっと試し切りをしてもいいか?」
「あん? 試し切り?」
店員が怪訝な顔をする。
無茶振りをしているように思えるが、こういう武具を売っている店には必ず試し切りができる場所が用意されているのだ。
「もちろんかまわないが、手になじまないからって返品はできないぜ?」
「そんなつもりはない。実際にモンスター狩りをする前にどんなもんか試したいだけだ」
店主はしばし考え、付いてこいと言いたげに顎で後ろをさした。
裏口から出て、案内されたのは店の裏庭。
お世辞にも広いとは言えないスペースに、剣術道場においてあるような打ち込み人形が3つほど並べられていた。
これを使って試し切りしていいのだろう。
早速買ったロングソードを握ってみる。
剣術に覚えはないので良くわからないが、握った感じは使っていたショートソードとさほど変わらない気がする。
見た目はかなり大きいし、重くなっているはずなんだけどな。
これも筋力30の恩恵なのだろうか?
「ふむ」
打ち込み人形の前に立ち、剣を構える。
人形に着せてある鎧めがけて軽く振り下ろした。
「……あ」
「うえっ?」
俺と店員の声が同時に響く。
あまり力を入れずにやったつもりなのに、人形が真っ二つになってしまった。
「お、おいおい!」
店員が怪訝な声をあげる。
これは弁償を求められるか──と思ったのだが。
「あ、あんたどんな魔法を使ったんだ!?」
「え?」
「その人形だよ。簡単に壊れないように芯が鉄でできてるんだぞ!? そんな簡単に真っ二つになるわけがねぇ!」
「鉄?」
そんな硬い感じはしなかったが、よく見ると人形の骨組みが鉄でできていた。
人形の鎧だけじゃなく、鉄の骨まで綺麗に切れている。
ううむ。ゴブリンロードから奪取した筋力30がすごいのか、それともこのロングソードがすごいのか。
何にしても、EやFランクくらいのモンスターなら、一撃で倒せそうだ。
「試し切りさせてくれてありがとう。いい買い物ができたよ」
「ちょっと待ちな」
立ち去ろうとした俺を店員が引き止めてくる。
「鉄の人形をバターみたいに簡単に切るもんだからスルーしちまったが……試し切りしていいとは言ったが、真っ二つにしていいとは言ってねぇぞ?」
「……で、ですよね?」
ごもっともなことを言われて、苦笑い。
そりゃそうだ。
すみませんでした。
結局、人形の補修代として1000ライム支払うことになった。
まぁ、それでも新品を買うよりかなり安くついたし、良しとするべきか。
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