第41話 絶対回避
アロンダイトの切っ先が、キサラギの胸部を斬りつけた──と思った瞬間だった。
「甘い」
キサラギは、まるでこちらの攻撃を予測していたかのように間合いを外して斬撃を躱した。
まさか、俺の攻撃が読まれていた?
だが、ヤツは後ろに下がった。
このまま一気に攻勢をかけて、勝負を終わらせる。
さらに一歩踏み込んで、アロンダイトを振り下ろす。
しかし──その攻撃も難なく回避されてしまった。
一度ならず二度も。
こいつ、動体視力を強化するパッシブスキルでも持っているのか?
「だとしたら、俺のことを目視できないようにしてやる! 【トキシックブレス】!」
「……っ!?」
再び俺の口から放たれた毒霧が、キサラギの周囲に広がる。
これでヤツから視界を奪った。
もう俺の攻撃を躱すことはできないはず。
剣を構え、キサラギの喉元めがけて剣先を突いた。
──だが、またしてもキサラギは身を捻り、剣先をスルリと躱す。
「フフ、何ともぬるい攻撃だな、ジャッジ?」
キサラギが余裕の表情を浮かべる。
一方の俺は困惑していた。
どういうことだ?
視界を奪っても攻撃が当たらないということは、目視して躱しているわけではないということか?
「何度やっても無駄だ、ジャッジ。俺は【絶対回避】の使い手だからな」
「絶対回避?」
「ああ。そういうスキルだ」
「ふん。ご丁寧に教えてくれてどうも。だが、ちょいと自信過剰すぎやしないか?」
「心配はいらん。なにせ、無敵のスキルだ」
まぁ、名前からしてチートっぽいが。
しかし、そんな大層なスキルを持っているなら──ありがたく頂戴してやろうか。
「あんた、キサラギとか言ったな? そんなチートスキルを持ってるのに、どうして奴隷商人の用心棒なんかを?」
「金になるからに決まっているだろう」
キサラギが冷ややかな笑みを浮かべる。
「この世界に召喚されてすぐに公安に配属されたが、仕事がイヤで辞めた。それから冒険者になったが、フラン様に腕を買われてな。スキルを使って殺しをするだけで大金がもらえる。こんな楽な商売はないだろう?」
「理想の職場ってわけだ」
「ああ。器量の良い獣人女も好き放題できるし、最高だ」
「……」
軽く殺意が芽生えてしまった。
こいつもリロイたちと同じ下衆野郎ってわけか。
現代でどんな人間だったのか、想像に難くないな。
さて、能書きをたれている間に、スキルを頂戴しようか。
―――――――――――――――――――
名前:キサラギ・ヨシミツ
種族:人間
性別:男
年齢:32
レベル:35
HP:1350/1350
MP:70/70
SP:80/80
筋力:65
知力:33
俊敏力:29
持久力:46
スキル:【範囲拡大】【SP強化(中)】【回避性能(極)】【剣呑察知(極)】【筋力強化(中)】【オーガハンマー】
容姿:キサラギ・ヨシミツ
状態:なし
―――――――――――――――――――
「……?」
おかしい。
絶対回避なんてスキルは持ち合わせていないぞ?
この回避性能というスキルがそれなのか?
―――――――――――――――――――
回避性能(極):スキルを発動した際に、自動的に回避行動を取る
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なかなかに凶悪でそれっぽい効果だが、これは自らスキルを発動させる必要があるようだ。
無意識で回避できる絶対回避とは程遠い。
一体どうなってる?
「トーマ!」
ミリネアの声。
顔をあげると、キサラギが目の前まで来ていた。
「……っ!?」
マズい。
ステータス解析に気を取られすぎていた。
「俺の前で余所見とは余裕だな、ジャッジ! 【オーガーハンマー】!」
キサラギがスキルを発動させる。
同時に鋭い膝蹴りが襲いかかってきた。
「……う、くっ!?」
なんとか右腕でガードしたが、激痛とともに嫌な音が聞こえた。
これは……骨がやられたかもしれない。
―――――――――――――――――――
名前:トーマ・マモル
種族:人間
性別:男
年齢:28
レベル:33
HP:1420/1980
MP:120/120
SP:50/50
筋力:67
知力:32
俊敏力:44
持久力:49
スキル:【解析】【不正侵入】【痛撃】【追跡】【投石Ⅰ】【体力強化(中)】【俊敏力強化(小)】【体力自動回復(小)】【光合成・魔】【光合成・技】【光合成・体】【花粉飛散】【ドレインエナジー】【軽足】【毒耐性(中)】【水耐性(中)】【MP強化(小)】【知力強化(小)】【魔眼】【トキシックブレス】【アシッドブレス】【筋力強化(中)】【バーサーク】【グランドブレイク】
魔術:【フレイムⅠ】【フレイムアローⅠ】
容姿:イリヤ・マスミ
状態:右腕骨折、出血(中)
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右腕から血が滴っている。
状態もひどいことになっているな。
出血は確か、毒と同じスリップダメージを受ける状態異常だったか。
ポーションを使って回復したいところだが、その暇はない。
【光合成・体】を使えば多少回復できるが、SPは温存しておくべきだろう。
しかし、どうする。
黒服連中の視界を奪っていた毒霧も次第に晴れてきている。
時間が経てば経つほど混乱は収まっていく。
そうなったら、ミリネアたちの身が危ない。
さっさとこの男を排除したいが──絶対回避の秘密を暴かなければ、勝機はない。
「……クソ。戦いの中で探るしかないか」
左手で剣を構え、キサラギに斬りかかる。
「無駄だと言ってるだろう」
だが、キサラギは俺が剣を振り下ろす前に間合いを外し、斬撃をかわす。
やはり違和感がある。
攻撃は当たらないが、ギリギリでかわしているのではない。
まるで事前に俺の攻撃を察知しているかのような動きだ。
「……察知?」
そう言えば、そんな名前のスキルを持っていたよな?
もう一度、キサラギのステータス画面を開く。
―――――――――――――――――――
スキル:【範囲拡大】【SP強化(中)】【回避性能(極)】【剣呑察知(極)】【筋力強化(中)】【オーガハンマー】
―――――――――――――――――――
あった。この【剣呑察知(極)】というスキルだ。
もしかしてこれが何か関係しているのか?
スキルに触れて情報を見てみる。
「……なるほど。そういうことだったのか」
わかったぞ。
こいつの絶対回避のカラクリが。
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