第30話 出るところは出てる
薬草採取は求められた種類の薬草を採取してくるという非常に簡単な仕事だが、大抵の場合、追加報酬がある。
規定数以上の薬草を採取すれば、追加でいくらかライムが支払われるのだ。
つまり、多くの数を採取できれば、それだけ多くの報酬がもらえるということにほかならない。
しかし、一見この依頼だけで食っていけそうな気がするが、そうでもない。
人間、持てる数には限度がある。
多くてもリュックに入るだけ。
それ以上運ぶとなると荷馬車が必要になるが、薬草採取の追加報酬で馬車なんて使っていると大赤字になる。
「……だから、魔法のリュックを作ろうと思ってさ」
「魔法のリュック!?」
ミリネアがいつも依頼を受けているギルド──。
多くの冒険者たちで賑わっているロビーの一角で、俺はミリネアと出発の準備をしていた。
「な、なんだかワクワクする響きだね?」
「だよな? その期待に答えられるようにがんばるよ」
というわけで、早速、自分のリュックの中から木製の容器に納められた陶器のコップを取り出す。
柄や刺繍など何も施されていない、シンプルなティーカップだ。
「それは?」
「魔導具屋で買ってきた『湧き水のティーカップ』っていう魔導具だ。こうやって縁をこすると……」
「あ。水が出てきた」
何もなかったティーカップの中に、まるで透明の水差しから注がれたかのように、綺麗な水が現れる。
俺も知らなかったのだが、こういう魔導具は飲食店で井戸代わりに使われているものらしく、特段、珍しいものではないのだとか。
だが、飲食店で使う湧き水の魔導具は樽ほどある大きなもので、数万から数十万ライムするらしい。
ちなみに、このティーカップサイズは2000ライムで買えた。
「それで、その水をどうするの?」
「使うのは水じゃなくて、このカップだ。こいつを【解析】して、ステータスをコピーするんだが……ちょっとキミのリュックを借りてもいいか?」
「え? 私の? いいけど?」
首をかしげるミリネアのリュックを、ちょいと拝借。
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名称:小型のリュック
外形:小型のリュック
容量:10
革でできた小さなリュック。安価だが収納量は少ない。容量10。
―――――――――――――――――――
ふむふむ。容量は10か。
続けて、湧き水のティーカップを【解析】する。
―――――――――――――――――――
名称:湧き水のティーカップ
外形:陶器のティーカップ
容量:無限
魔法効果を付与された陶器のコップ。縁をこすると水を召喚することができる。容量無限。
―――――――――――――――――――
そして、こいつの容量の「無限」部分をミリネアのリュックに──。
―――――――――――――――――――
名称:小型のリュック
外形:小型のリュック
容量:無限
革でできた小さなリュック。安価だが収納量は少ない。容量10。
―――――――――――――――――――
「……よし、できたぞ。試しに俺のロングソードを入れてみてくれ」
「ロ、ロングソード? そんなもの、私の小さなリュックに入るわけ……うえっ!? は、入っちゃった!?」
素っ頓狂な声をあげるミリネア。
リュックの中を覗いてみたが、ちゃんとリュックの底にロングソードが入っている。
これはどう説明すればいいのだろう。
簡単に言うと、中がとてつもなくデカくなってるリュックって感じで、無限空間が広がっているというわけじゃなさそうだ。
入ろうと思えば俺も中に入る事ができるんじゃないか?
自分の力で出られなくなりそうで怖いからやらないが。
「え? え? ちょ、どうなっちゃったの、私のリュック?」
「湧き水のティーカップの効果無限をリュックにコピーした。だから、ミリネアのリュックは収納量無限の『無限収納』になったはずだ」
「む、無限収納!?」
ミリネアの耳がピョコンと立つ。
「それじゃあ、ええと……限界無しで薬草が採り放題ってこと?」
「生えている薬草には限界があるが、理論的にはそうなるな」
「す、すごい! というか、良く思いついたね!? そんなすごいこと!」
「まぁな。実現できるかどうかはわからなかったが、湧き水の魔導具が手に入ってラッキーだったよ」
他のアイテムだと項目の「容量」は「効果」という名前になっている。
だから項目名がリュックと同じ「容量」で「無限」になっているものを探すのにちょっと苦労したんだよな。
運良く魔導具屋で湧き水のティーカップを発見できてよかった。
「ということで、ミリネア。早速出発して、薬草を採取しまくろう。追加報酬をたくさん貰えば、獣人税なんて痛くないだろうからな」
「……獣人税? もしかして、そのために無限収納を?」
「少しでも力になれればと思ってな」
ミリネアだけじゃなく、セナや西区の獣人たちのためにもなるし。
それに、おびただしい数の薬草を見て目を丸くする受付の男の顔も拝みたいからな。
「トーマ」
「ん?」
ミリネアの声が聞こえたかと思った瞬間、ギュッとハグされた。
彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
一瞬、自分の身に何が起きたのかわからなくて、固まってしまった。
「……えへへ、ありがとね」
「き、き、気にするな」
努めて冷静に返したつもりだが、頭が真っ白になってしまっていた。
いきなり抱きつくとか、本当にやめてほしい。
だって、その……ミリネアってば、意外と出るところは出てるっていうかさ。
いや、一体何を言ってるんだ、俺は。
気合を入れろ。薬草採取とはいえ、モンスターがいるんだぞ。
油断は即、死につながるのがこの世界の常識。
頬を叩いて煩悩を追い払う。
「……よし。じゃあ、行こうかミリネア」
「うん。だけどトーマ。そっちはトイレ。出口は逆」
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