第29話 アイテムハッキングの可能性

 フィアス・キャッツに戻った俺は、ブラックスワン砦の状況をルシールさんに報告した。


 入り口などの一部は壊れていたが、概ね再利用に問題はないこと。


 砦を占拠していたオークはすべて排除し、安全を確保したこと。


 そして──宝物庫でお宝を発見したこと。



「……それは、剣か?」



 テーブルの上に乗せられた聖剣アロンダイトを見て、ルシールさんが眉間にシワを寄せながら尋ねてきた。



「はい。俺のスキルで調べたところアロンダイトという剣らしいのですが、ご存じですか?」

「アロンダイト? 聞いたことがあるな。確か、剣聖ギデオンが愛用していた武器だったか。数十年前に起きたモンスターどもとの戦いの混乱の中で失われたと聞いたが、まさかブラックスワンにあったとはな」

「砦に駐留していた騎士団が隠し持っていたとは思えないので、盗賊から押収したものでしょう」

「そう考えるのが妥当だな」

「国王様に献上しますか?」

「……いや」



 ルシールさんはアロンダイトを俺に差し出す。



「王城のやつらにくれてやっても良いことはない。お前が持っていけ」

「え? いいんですか?」

「折れてしまっているから使い物にはならんだろうが、売れば多少の金にはなるだろう。追加報酬だ」



 そう言って口の端をキュッと吊り上げるルシールさん。


 話がわかる人で良かった。

 そういう部分もルシールさんの良いところだよな。


 ルシールさんから報酬の10000ライムを渡され、近々また特別依頼を出すかもしれないことを伝えられて部屋を出る。


 次の依頼はモンスター掃討作戦だろうか?


 騎士団が主体となった掃討作戦らしいし、冒険者の出る幕はなさそうだが。


 何にしても、これで周辺地域から少しでもモンスターが減ることを祈ろう。


 ──ま、仕事が減るのはかんべんしてもらいたいがな。



「……しかし、これはどうするか」



 アロンダイトを見て、思案する。


 ありがたく頂戴したはいいものの、ルシールさんが言う通りポッキリと折れてしまっているので使い物にはならない。


 ここまで綺麗に折れていたら鍛冶屋に持っていっても修復は不可能だろう。


 仮にできたとしても、修復料をぼったくられてしまうだろうしな。


 溶かして武具生成の素材に使えればいいのだが、そんな技術は俺にはない。


 せめて【不正侵入】で使えるようにできればいいのだが、改ざんしても耐久値は9にしかにならないし──。



「……あ」



 そうだ。


 改ざんで耐久値を上げることはできないが、【不正侵入】を使えば色々とや利用があるぞ、これ。


 よし。早速やってみるか。


 丁度、もうすぐギルドの営業時間が終わるので他に冒険者の姿もないし。



「トーマ」



 と、背後から声がした。


 ミリネアだ。


 彼女はギルドの制服ではなく、冒険者のときの私服スタイルになっていた。


 口調も受付嬢ではなくなっているし、丁度仕事が終わったんだろう。



「おつかれさま。ルシールさんの依頼が終わった感じかな?」

「ミリネアもおつかれ。ブラックスワンという砦からモンスターを駆除してきたところなんだ。掘り出し物も手に入れてさ」

「それって、剣?」



 アロンダイトを見て、首をかしげるミリネア。



「ああ。見ての通り折れてしまっているがな。ちょっとギルドのテーブルを借りてもいいか?」

「かまわないけど、何をするの?」

「この剣を使って色々と試そうと思ってさ」

「……?」



 というわけで、ロビーのテーブルでちょっと作業させてもらうことにした。


 ミリネアも気になるのか、俺の後をついてきた。


 テーブルの上にアロンダイトを置いて、【解析】スキルを発動させる。



―――――――――――――――――――

 名称:聖剣アロンダイト

 外形:聖剣アロンダイト

 効果:攻撃力+344

 耐久値:0/100

 素材:アダマンタイト

 剣聖ギデオンが愛用していたと言われている剣。剣身がほのかに青く発光していることから「青焔剣(せいえんけん)」とも呼ばれている。

―――――――――――――――――――


 

 俺の【不正侵入】スキルでできるのは、能力の奪取とコピー、そして改ざんだ。


 改ざんで書き換えられる文字は今のところ一文字だけなので使えない。


 だが、この「攻撃力+344」を他の武器にコピーできないだろうか?


 できれば「効果」の部分をそのまま俺のロングソードにコピーしたいところだが……問題は能力値が桁違いに高いから、消費SPが跳ね上がること。


 多分、今のSPでは不可能だと思うが、一応試してみるか。



《SPが足りません》



 やはりだめか。


 だが、落胆するのはまだ早い。本命はここじゃないからな。


 俺が可能性があると感じたのは「素材」部分だ。


 素材の「アダマンタイト」を愛用のロングソードにコピーする。



「……あれ?」



 ミリネアが声をあげる。



「トーマのロングソード……ちょっと見た目が変わった?」

「ああ。素材をアダマンタイトに変えてみたんだ」



 ロングソードの剣身が、ほのかに青白く発光している。


 素材がアダマンタイトになったからだろう。


 聖剣と同じ素材だったら、普通のロングソードでも強力な武器になると考えたのだが……さて、能力はどうだろう。



―――――――――――――――――――

 名称:ロングソード

 外形:ロングソード

 効果:攻撃力+100

 耐久値:83/100

 素材:アダマンタイト

 騎士が馬上から使うために考案された両刃武器。別名「ホースマンズソード」。

―――――――――――――――――――



 おお、すごい。


 アロンダイトと同等とまではいかないが、かなり強くなったな。


 このアダマンタイトという素材が相当レアなんだろう。


 しかし、これは良い発見だ。

 前にアイテムを改ざんしたときは気づかなかったが、こうして効果や素材をコピーできるなら一気にやれることが増える。


 例えばロングソードがボロボロになっても、安価な他の新品の武器の耐久値をコピーすれば永久的に使うことができるし──。



「……ん? ちょっと待てよ?」



 他の武器から耐久値をコピーできるってことは、新品ナイフの耐久値をアロンダイトに移せばいいのでは?



「ミリネア、ナイフって持ってる?」

「え? ナイフ? ええと、ギルドのやつがあるけど……ちょっと待ってね」



 カウンターの奥からミリネアが持ってきてくれたナイフを借りて、耐久値をコピーしてみる。



―――――――――――――――――――

 名称:聖剣アロンダイト

 外形:聖剣アロンダイト

 効果:攻撃力+344

 耐久値:100/100

 素材:アダマンタイト

 剣聖ギデオンが愛用していたと言われている剣で、剣身がほのかに青く発光していることから「青焔剣(せいえんけん)」とも呼ばれている。

―――――――――――――――――――



「わわっ!? 今度はそっちの剣が新品になった!?」



 アロンダイトの剣身がキラキラと光ったかと思った瞬間、折れていた部分が修復されていた。


 予想通りだ。これはすごい。


 この方法を応用すれば、一気に装備の強化ができる。


 中古品店で防御力が高いが耐久値が0のボロボロ装備を買って、耐久値をコピーすればいいだけだ。


 「一度でも情報を改ざんすると、能力のコピーと奪取ができなくなる」というルールがあるので少し不便だったが、これなら何度でもいける。


 改ざんするよりずっと効率的だし、それに、転売して金儲けも可能だ。


 ……まぁ、そんなことをやると一気に貨幣の価値が暴落しちゃいそうだからやらないほうが良さそうだが。


 今以上に転移者が敵視されてしまいそうだ。


 しかし、アイテムハッキングは能力ハッキングより色々と可能性がありそうだな。もっと試したくなってきたぞ。



「……そうだ。ミリネアって、明日はオフ日だよな?」

「うん。ギルドは休み。いつも通り依頼を受けるつもりだけど」

「それじゃあ、一緒に薬草採取にでも行かないか?」

「薬草採取?」



 キョトンとした顔をするミリネア。



「もちろん良いけど……どうして薬草? モンスター退治のほうがよくない?」

「薬草採取に使えそうな装備を作れそうなんだ」

「……へぇ?」



 ミリネアの尻尾が楽しそうにくねくねと動きはじめる。


 薬草採取に使えるアイテムのアイデアが浮かんだんだよな。


 きっとミリネアも驚くはず。

 明日が楽しみだ

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