第15話 ドライアド討伐(2)

 そうして俺たちは、【マッピング】スキルを頼りに、ドライアドがいる場所へと向かう。


 薄暗い森の中に、明るい光が差し込んでいるのが見えた。


 そして、そこにいたのは──幾人かの女性。



「……えっ? 女の人?」

「ああ。あれがドライアドだ」



 差し込む光の下で日光浴をしていたのは、緑の長い髪を持つ美しい女性。


 実際に見るのは初めてだが、ドライアドは女性の姿をしたモンスターなのだ。


 通りかかった人間が襲われることがよくあると言われているが、不注意な人間が多いというわけではなく、あの姿に騙されて近づいてしまうのだ。


 パッと見は妖艶な女性の姿だし、騙される哀れな男がいても不思議じゃない。



「そ、そうだったんですね。見た目に騙されないでくださいね、トーマさん?」

「俺は大丈夫だが、あれに騙される理由はわかる気がするな」

「人間の男の人って、ああいう見た目の女性に弱いんですよね。トーマさんもそうなんですか?」

「……」



 言葉につまってしまった。


 実に答えにくい質問をしてくるなぁ。



「……違う、とは断言できないな」

「やっぱり」



 ニンマリと笑うミリネア。


 なんだその楽しそうな顔は。


 別にいいだろ。俺だって男なんだ。 



「……だが、戦闘にはなんの問題もないぞ」



 剣を抜いてゆっくりと近づいていく。


 ドライアドは見た目は人間の女性だが、植物のモンスターだ。


 トレントのように力任せの攻撃はしてこないが、蔦を使って身動きを取れなくさせ、養分を吸い取ると聞いたことがある。


 要注意すべきは、蔦攻撃。



「キキッ!」

「……っ!?」



 甲高い声が頭上から聞こえた。


 見上げた俺の目に映ったのは、木の上からこちらを見下ろしているドライアドの姿。


 クソっ。そこにもいたのか。



「私が仕留めますっ!」



 咄嗟にミリネアが動く。


 木の幹に足をかけ、一気に跳躍。


 素早い身のこなしで一気にドライアドとの距離を詰めると、2本の剣でまたたく間にドライアドの首をはねた。


 ドサリと落ちてきたドライアドが、黒い煙へと変わる。



「……やるなミリネア」

「えへへ」



 戻ってきたミリネアは照れ笑い。


 ゴブリン戦のときから思っていたが、やはりミリネアは強いな。


 というか、すごく速い。


 鎧を身にまとっていないのが不思議だったが、防御力を犠牲にして身軽さを重視しているんだろう。


 ゴブリンの集団に押されていたのは、防御力が低くて大人数を相手にするのが苦手だからか。


 得意分野は少人数。


 だったら、俺がターゲットを取ってやろう。



「よし、このまま行くぞミリネア」



 早速【投石】スキルを発動させ、ドライアドの集団に向けて石を投げつける。


 見事一匹のドライアドに命中。


 その瞬間、モンスターたちがこちらを向いた。



「ギギッ!」

「キキキッ!」



 そして一斉に襲いかかってくる。


 よし。ターゲットを上手く取れたな。



「ドライアドは俺が引き付ける! ミリネアは攻撃に集中してくれ!」

「わ、わかりましたっ!」



 ドライアドたちは、ざざざ、と風のように近づいてくる。



「キキッ!」



 ドライアドがこちらに手を向けた。


 刹那、モンスターの腕から無数の蔦が伸び、俺を絡め取ろうとしてくる。



「させるかっ!」



 その攻撃を盾で弾くと同時に、剣で叩き斬る。


 そこからは混戦だった。


 ドライアドたちの腕から伸びてくる蔦を剣で切りながら、ターゲットがミリネアに行かないよう最低限の攻撃を続ける。


 最初は四方八方から放たれる蔦攻撃にヒヤヒヤしていたが、すぐにその猛攻は鳴りを潜めた。


 ミリネアが的確に一匹づつ仕留めはじめたからだ。


 おかげで戦闘はわずか数分で終了した。



「……無事かミリネア」

「は、はい。怪我はありません。トーマさんは?」

「俺もだ」



 剣を収め、転がっている魔晶石を拾う。


 魔晶石はミリネアのものだが、少しだけ【解析】させてもらおう。



―――――――――――――――――――

 名称:ドライアドの小魔晶石

 スキル:【光合成・魔】【花粉飛散】【ドレインエナジー】

 備考:なし

―――――――――――――――――――



 お、見たことがないスキルを持ってるな。



―――――――――――――――――――

 光合成・魔:MPの回復量が2倍

 花粉飛散:吸い込んだ対象の俊敏力-5

 ドレインエナジー:ダメージの10%をHPとして吸収する

―――――――――――――――――――



 回復量をアップさせるパッシブスキルと、デバフ系スキル。


 それに攻撃スキルか。


 使えるのは【ドレインエナジー】くらいか?


 俺は魔術が使えないからMP回復は不必要だし、俊敏力マイナス5がどれくらいの効果かはわからないしな。


 だが、奪取するデメリットはないので、全部いただいておこう。



「何をしているんです?」



 ミリネアが不思議そうに尋ねてきた。


 返答に迷ってしまった。


 持っているスキルを他言することは、弱点を晒すことに等しい。

 もし相手と敵対したときに、対策が容易になってしまうからだ。


 だが、ミリネアなら大丈夫か。


 彼女は【マッピング】スキルを隠さずに教えてくれたし、何より敵対するなんてありえないからな。



「実は、触れた対象の能力を奪うスキルを持っているんだ。だからドライアドのスキルを貰っておこうかなってさ」

「……えっ」



 目を瞬かせるミリネア。



「う、奪う? スキルを?」

「そう。この【不正侵入】スキルは能力値やスキル……それに、アイテムの性能を書き換えることもできるスキルなんだ」

「ぅえええっ!?」



 ミリネアが素っ頓狂な声をあげる。



「ト、トーマさんってば、そんなすごいスキルを持ってたんですか!?」

「最初は【解析】という、相手の能力を見ることしかできないスキルだったんだが、とある事件がきっかけで能力が進化したんだ。ゴブリンロードを討伐できたのも、このスキルのおかげだ」

「そ、そうだったんですね……」



 ははぁ……と感心の声を漏らすミリネア。


 彼女は、しばしぼんやりとした顔をして、ハッと何かに気づく。



「ちょ、ちょっと待ってください。わっ、わわ、私のスキルは盗らないでくださいね? こっ、これがなくなったら、すごく困っちゃうので……」

「と、盗るわけないだろ!」



 速攻で突っ込んだ。


 俺を何だと思ってるんだ。

 でもまぁ、こんな犯罪じみたスキルを持ってたら、疑われて当然だけどさ。


 スキルはコピーすることもできるけど、知り合いにハッキングなんて絶対やらないよ。

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