第37話 お顔を拝借

「……【マキシマムブースト】」



 再びジャンがスキルを発動させた。


 体が赤く発光すると同時に、こちらに向かって猛然と走りだした。


 臆する必要はない。


 こいつの筋力はマイナスになっている。


 攻撃をガードしてしまえば、ダメージはそのまま相手に跳ね返って──。



「ぐ、はっ……」



 強烈な衝撃が腹部を貫く。


 その威力は凄まじく、倉庫の壁まで吹き飛ばされてしまった。


 痛みで立ち上がれなかったが、なんとか【解析】スキルで自分のステータスを確認する。

 


―――――――――――――――――――

 名前:トーマ・マモル

 HP:1320/1980

―――――――――――――――――――

 


 クソ。


 致命傷ではないが、かなりのダメージを受けたな。


 だが、何故だ?


 どうして攻撃が跳ね返らない?


 ちゃんと筋力ステータスはマイナスにしたはずだぞ。



―――――――――――――――――――

 名前:ジャン・エドモンド

 筋力:27

―――――――――――――――――――



「……冗談だろ」



 ステータス画面に出ている数値を見て、目を疑ってしまった。


 なんでマイナスになっていないんだ?


 それに、さっきは「23」だったはず。


 どうして数値まで変わっている?


 もしかして──攻撃する前に発動させていたスキルが原因か?



「どうした転移者? 立てよ?」



 ジャンは余裕の表情を見せている。


 スキルを確認するなら、今か。



―――――――――――――――――――

 マキシマムブースト:30秒間、筋力を+50 消費SP30

―――――――――――――――――――



 ああ、やっぱりこのスキルだ。


 というか、30秒間、筋力+50だと?


 ふざけたスキルを持ってやがる。


 難点は消費SPが高いことか。


 ジャンのSPを考えると使えて一回だけだ。


 重ねがけができるのかもしれないが、これ以上強化されることはないだろう。



「しかし、俺の拳を受けて死なないとは驚いた」



 悠然と歩きながら、ジャンが言う。



「貧弱な体をしてるのに、意外と頑丈なんだな?」

「ちょっとスキルを使ってお前の体に細工をさせてもらったからな」

「そうか。どんな細工をしたのか知らないが、俺には無意味だぞ」



 そうしてジャンが、再びスキルを発動させる。



「【エナジーチャージ】……【マキシマムブースト】」

「……っ!?」



 ジャンの体が赤く輝く。


 おいおい! ちょっと待て!


 こいつ……SPが空になってるはずなのに、スキルを発動しやがったぞ!?


 一体どんな魔法を使いやがった!?



―――――――――――――――――――

 エナジーチャージ:SPを30回復 消費SP0

―――――――――――――――――――



「……」



 心底呆れてしまった。


 こんなチートみたいなスキルがあるのかよ。


 こんなものを与えられるなんて幸運すぎるだろ……と思ったが、魔晶石を加工した指輪でスキルが使えるようになったんだったな。


 そりゃあスキルの厳選ができるわな。


 一体いくらかけたのかは知らんが。



「ビビるのはまだ早いぜ転移者。 【エナジーチャージ】……【ファランクス】」



 ジャンはさらにスキルを使う。



―――――――――――――――――――

 ファランクス:30秒間、受けるダメージを80%カット 消費SP30

―――――――――――――――――――



 これまたすごいスキル能力だな。


 だが、こいつの戦術がわかったぞ。


 【エナジーチャージ】でSPを回復して、永久的にダメージカットの【ファランクス】を発動させる。


 そして、【マキシマムブースト】で底上げした力を使って反撃して仕留めるってわけだ。


 攻守に渡って完璧な作戦。


 というか、凶悪なスキル構成しているなぁ。


 ──まぁ、対処のしようはあるが。



「どうした転移者。腰が抜けたか?」

「いや、お前の力を分析していたところなんだ」



 ゆっくりと立ち上がる。



「安心しろ。次の1発で仕留める」

「……っ!?」



 はじめてジャンの顔に怒りの色が見えた。



「……やってみろよ、クソ転移者」



 ジャンは、両手で顎から胸部にかけて守るガードの構えを作る。


 好きに攻撃しろってことらしい。


 だったら、お望みどうりやってやる。


 スキルを発動させ、ジャンに向かって走る。



「……」



 ジャンは微動だにしない。


 【ファランクス】の防御力に信頼をおいているからだろう。


 剣の切っ先をジャンに向ける。


 それを見て、ジャンが歪に笑う。



「バカめ! お前の攻撃など俺に通用するわけが──う、ぐっ!?」



 鈍い衝撃が剣を伝ってくる。


 アロンダイトの剣身は、ジャンの胸に深々と突き刺さっていた。



「ウ、ウソだろ……俺の……【ファランクス】が……なんで……」

「借り物のスキルを過信したのが、お前の敗因だ」

「……」



 血を吐きながらジャンが倒れる。


 こいつの【ファランクス】を打ち破った仕組みは単純だ。


 俺が使ったスキルは【痛撃】と【バーサーク】のふたつ。


 【痛撃】の「防御力70%無視」でファランクスの能力をほぼ無効化して【バーサーク】でダメージを1.5倍にしたというわけだ。


 俺の筋力と、1.5倍に強化された聖剣アロンダイトの攻撃力があれば、950のHPなんて一瞬で溶ける。



「……おい」

「ひ、ひいっ!?」



 そばで固まっていたカインがびくりと身をすくませる。



「オークション会場を教えろ。命だけは助けてやる」

「お、お、俺が教えたところで、お、おお、お前が入るのは不可能だぞ!」

「不可能? どういう意味だ?」

「い、いい、言っただろ!? 俺が許可した人間じゃないと、会場には入れないってよぉ!?」



 そういえばそんなことを言っていたっけ。


 斡旋人と名乗っていたし、この男の紹介じゃないと入れないということだろう。


 脅せば許可を出してくれるだろうが、俺の情報が会場に行ってしまうかもしれない。そうなれば、ジャンのような人間が大挙してくるだろうし、ミリネアの身にも危険が迫る可能性がある。


 こいつに許可を出してもらうのは無理。


 だが──もっと安全かつ、確実に会場に入れる方法がある。



「判った。そういうことなら……お前の顔を借りることにしよう」

「……えっ?」



 カインの顔から、さっと血の気が引いていった。

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