第35話 夜勤の激突
テラーキャッスル地下八階【龍の棲家】
「そろそろ、出してもらうぜ、ハジャよ」
「うるさいわっ!」
魔力を手に集中させ、口の中で爆発させようとすると、その動きを察知したハジャが俺をぺいっと吐き出した。
せっかく練った魔力がもったいないので、熱線魔法を発動し、空中落下しながら放つ。
『ゴガァッッッッ!!』
だが、レーザービームのように伸びた熱線は当たる直前にハジャの気合いによってかき消されてしまった。
「ずるいぞっ!」
『それはこっちのセリフだ、この違法骸骨めっ! 龍族でもあるまいに詠唱もせず、馬鹿げた威力の魔法を使いおってからに』
「俺の努力の証になんてことをいう!」
違法骸骨とかいうな。龍族のように、ノータイムで魔法を撃ったり、無詠唱で発動させるのに憧れて練習しまくっただけだ。
それに違法でいうなら練習もなしに気合いで魔法を扱えるお前らの方が違法だっつうの。
なんだよ、叫ぶだけで魔力障壁張ったり、熱線だしたりよ。
『ふん! まだ暴れ足りんからいくぞっ!』
「えー、まだやんのかよー。もうスッキリしたろ?」
俺への返事とばかりに、ハジャの口が大きく縦に開かれる。
魔法陣が次々と口の前に浮かび上がる。
「まーた、そういう周りのことを無視した攻撃をしてくる……」
俺になら全力で撃ってもいいのは間違いないけど、それはあくまで俺にだけだからな?
周りへの影響というのを少しは考えてくれ。
『喰らえっ!!』
ハジャの口周辺から数多の熱線がこちらへ伸びてきたが、あらぬ方向へと向かいそうな角度のものが何本もある。
……あー、全部こっちに誘導しなきゃならん。
「こんぐらいかな、魔力障壁で覆って……」
両手を突き出し魔力を放出。ハジャと俺を結ぶライン上を、チューブ形にした巨大な魔力障壁で囲む。
あらぬ方向へと向かっていた熱線は、それにぶち当たって軌道を変える。
『そんな配慮ができるとは余裕だな、夜勤!』
「本来はお前も配慮することなのっ!」
あのまま放置すれば俺に当たるのは二本か三本程度の熱線。魔力障壁を張れば俺は無傷で済む。
だがそれだと、周囲の地形は先ほどの地形破壊とは比べものにならない、深刻な修復不可能ダメージを受けることが予測される。
一応このダンジョンの管理責任者としては、その被害を見過ごすようなことはできない。
そもそも過失はこっちにあるし……。
『地下八階が全壊しました。夜勤のせいです』
なぜかと問われたら全員が口を揃えて、そう報告するだろうなぁ。
正直、ハジャもそれをわかって撃ってきている節がある。
「見せてくれ、夜勤! 龍の全力を耐えるお前の姿をっ!」
熱線が収束し極太の一本となって俺へと向かう。
障壁を展開し、かつ他へと散らさぬように正面から受け止める。
「熱ぅっ! 重ぉっ!」
魔力障壁は魔力を減衰させているはずだが、なお熱く、俺を地面へとめり込ませていく威力だ。
ハジャのやつ、以前にじゃれついた時よりも威力が上がってやがる。
隠れて修行してやがったな、これ。
あんまり、長く続くならちょっと
……ふうっ、なんとか耐えた。
「うははははははっ!! やはり耐えおるっ!」
地形の変形は、俺がめり込んでいった穴と周辺十メートルが半球形で抉れたぐらいか。
……この程度ならA氏と俺の権限ですぐ直せるな。
「やはりじゃねえのっ! 半分遊びなんだから手加減しろっ!」
『なかなか本気を出させることが出来んのぉ。我もまだまだじゃなー』
まだまだじゃないのよ。充分なの。
世界中探しても、神クラス以外でこんな攻撃できるやつ数えるほどしかいねえから。
『まだ、故郷に凱旋とはいかんなー』
ハジャはさっきの攻撃である程度満足したようだ。
ゆっくりと俺のいる場所へと降りてきた。
「いや、年一ぐらいは帰れよ。そんな拘らんでも、親父さんは許してくれていただろ?」
ハジャが地下八階の管理者をしているのは俺に一度負けたからである。
このダンジョンを乗っ取ってすぐあたりに、人型に化けたハジャが冒険者に紛れて侵入。
地下八階まで大暴れしながら到達したところを俺が倒した。
龍族は、負けた相手にもう一度勝てるまでは命令に従う掟があり、それを利用しそのまま地下八階の管理者に俺が任命したのが経緯だ。
まあ、素性を調べたら龍の国の皇女様で、親父は龍神という大変な事態だったわけども。
すわ、龍の国と全面戦争かっ?! と、ビビり散らかして、ごめんなさいしにいったのは懐かしい記憶だ。
案外あっさりというか、「あっ、そうなん? 末長く、よろしくぅ!」みたいにフランクな対応だったのが拍子抜けなような、助かったような。
「土産もなしに帰れんわー」
ちょっと、顔近いし鼻息荒いよ。目の前でぶしゅるぶしゅるとさー。
「そういうもんか。ハジャよ、とりあえずは暴れてスッキリしただろ? アリシアの件は恨みっこなしでいいな?」
「ふん。気にしておらんわー。そもそも夜勤の企みじゃろうがー」
ハジャは体を揺らして笑った。
「お前のそういうところ好きだぜ」
「……お前はー、ほんとうに——おっ?」
「……あー、来たな」
ハジャが何かを言い終える前に、テラーキャッスルに属するもの全てに、ある種の畏怖を与える波動が体へと届いた。
それは、重く静かに体の芯に響く。
俺の姉であり、このダンジョンの主。
リビア・ゼト・グランガルドの目覚めを知らせる波動。
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