【元は人間、いま骸骨。好きなタイプは鎖骨美人】〜見守り対象の公爵令嬢が、棲み家の極悪ダンジョンに追放されてきたので、レベルアップさせてから復讐ざまぁを手伝いたいと思います〜
第20話 夜勤のこだわりクッキング(アリシアLv599)
第20話 夜勤のこだわりクッキング(アリシアLv599)
テラーキャッスル 地下十一階 制御室
丁寧な仕事というやつは、必ず客に伝わる。
そしてそうやって作ったものを食べると、最高の笑顔を見せてくれるもんだ。
だから俺は手を抜かない。さあ、調理をはじめよう。
丁寧にもも肉の筋をとり、噛みごたえ抜群の七ミリにスライスカット。
知り合いの冒険者から仕入れた胡椒に似た粒は、遥か東方にある別大陸からの高級品。いつか使おうとアイテムボックスに長らく眠っていたが、今日ようやくその真価を発揮させてやれる。
「芳醇……まさかこんなちっさな粒にそんな言葉を送ることがあるとは」
いけねぇ。思わず見惚れちまった。肉の感覚器官よりも鋭敏な、魔力で構築した俺の感覚器官が震えてやがる。
ああそれに、塩も砂糖もワインもハーブだってそうだ。
地球とよく似たこの世界は、食べ物だってほとんど同じ。しかしその価値はこの世界では地球の十倍どころか秤にかけるのもバカバカしいほど。
どんな国の王族でもこんな使い方は勿体なくてできねえ、こだわり抜いた高級品ばかり。
迷いなくぶちこんでやる。
「さあ、いくぜ」
九階村で作っているガラスの器に材料を投入する。
よし、しっかりと漬かっているな。
「時よ、定命に絡みつく、残酷よ。歯車を回せ」
ガラスの器を覆うように時間短縮魔法をかける。
指定した範囲の時間を加速する魔法で、およそ丸一日を一分程度に加速させた。
「いい。素敵。この色合いとか、もうめっちゃラブリー」
ガラスの器に入った肉はワインや塩、香辛料が染み込み、茶色でいい見た目とは言い難いが、俺にとっては心躍る色合いへと変化している。
さあ、次は塩抜きだ。
「潤いの泉」
清浄な水溜まりを作り出す魔法でガラスの器を水で満たす。
このダンジョンの者たちは濃いめの味付けを好むので、さっと流す程度で肉を取り出す。
どれどれ、焼いて確かめよう。
「フレイムストーム(改)」
俺が勇者パーティ時代に開発した調理専用の魔法だ。
炎の渦を作り出し敵を包む魔法【フレイムストーム】の出力を極端に落とし、弱火かつ空中に浮かべたまま継続させることができる。
この世界の魔法は呪文に頼るところが大きい。唱えることで必要な魔力の出力制御が、ある程度それでできてしまうからだ。
魔力制御は本当に難しいからな。失敗したくない時は呪文を唱えるほうが安全でもある。
だがだからといって、そこで思考停止すれば決まった魔法しか使えないし、威力も範囲も変えられないのは、とても不便で使い勝手が悪い。
なので、出力や制御はド根性で体に覚え込ませ、俺はいくつものオリジナル魔法といえるものを、しかも呪文不要なものまで多数生み出してきた。
これもその一つ。
「火加減よし」
フライパンをアイテムボックスから取り出し塩抜きした肉をのせる。
ほどなく、ジュウジュウと刺激的な音と香りが制御室を満たす。
「ぢゅあっーー!?」
(信じられねぇっ! なんだこの香りは!)
来たな、A氏よ。
二区画先から転がるように、俺の前へとA氏が飛び跳ねてきた。
その目は赤黒く濁り、普段の理性的な顔つきは失われている。
「落ち着けよA氏。テイスティングはお前の仕事じゃねぇか」
「——っ! ぢゅ……」
(す、すまねぇ。俺としたことが……)
焼いた香りだけで、ここまでA氏を取り乱させるとは……。これは想像以上のものかもしれない。
「いいだろう、食ってくれ」
「ぢゅ」
(ああ、頂くぜ)
A氏は俺の差し出したフライパンから焼けた肉をつまみ出すと、熱さをものともせず一息に口に放り込んだ。
「…………」
ものいわぬA氏。
彼は天井を見上げ目を閉じている。
そして……ゆっくりと口が動き、噛み締めるごとに溢れる——涙。
なるほど。どうやら最高だったようだ。
次の乾燥工程にいこう。
◆
「いい具合だな」
時間を加速させながら乾燥させた程よい硬さ。理想的な仕上がりだ。
「A氏、いい感じ——まだ戻ってこねえか。まあ、いいや」
あまりの感動に、立ち尽くしたまま動かないA氏は一旦置いて、アイテムボックスから取り出したのは龍香木。
「ついにこれを使う時がきた」
龍皇ハジャが長年棲み家としている超巨大樹木。その寝床より切り出した木材を破砕し押し固めたものだ。
それをフレイムストーム(改)で炙る。
煙がモクモクと上がる……上手く燃焼しているな。
俺お手製の燻製箱をアイテムボックスから取り出し、肉を設置。煙を吐き出す龍香木も設置。
煙は途切れず安定して煙を出している……。
ここまでやれば後は待つだけ。
……おっと、防護魔法を掛けなきゃラットマンたちが食い尽くしちまうな。
燻製箱にラットマンたちが近づかないよう、かつ空気の通り道は確保できるように細かい網目状の魔力で覆う。これでよし。
「いや、これは俺史上、最高傑作の予感だな」
頑張っちまったよ。汗びっしょりだぜ。
汗かかないけど。
「げへへへへっ、今日も冴えてるなぁ」
さて、結構時間も経ったしアリシアの様子でも見るか。
マスターの……いや、最高の素材とはいえ、肉の臭いをアリシアにまとわり付かせるのは少々はばかられたので、治癒槽は三区画離れたところだ。
やはり、隣の区画は燻製の臭いがまだ強い。もう一つ隣はどうだ?
「おっ。ここはもうそんなに臭わないな」
そして、アリシアが漬かる治癒槽の部屋はまったくもって問題ない。
「さて、どうなった?」
アリシアの手を取り黒い石へ。
ステータスボードを出現させる。
【アリシア・ウォーカー】
【種族】:普人族(女)
【生体レベル】:599
【天職】:勇者(レベル不足)
【職業】:魔拳皇(セット中)
【技能スキル一覧】
「天魔殺」「必死突」「必死脚」「瞑想」
「紙一重」「身体強化(極大)」「王者の風格」
「予知」「指弾」「天賦」「見取り」「瞬身法」
「核撃(中)」「復讐心(中)」「武心(大)」「常時回復「大」」「魔皇闘気」「慈愛(小)」「レベル可変制御」「契約:死亡時蘇生保険」
【状態】:安定 魔素ストック(大)
【称号】:
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