第21話 夜勤の計画

 

 アリシアは治癒槽のおかげでの形を保ったままここまで来れている。


 もし治癒槽に入れずにここまで進めていたら、今頃、熊より太い腕と首のマッチョアリシアが爆誕していただろう。


 少しずつのレベルアップであれば骨や内臓、筋肉の変化も少ないが、急激なレベルアップの場合は肉体に大きな変化をもたらす。

 

 治癒槽はその急激な変化を緩やかにする効果もある。何もせずに、アリシアの完璧な鎖骨ラインが筋肉で覆われるなんて未来、俺は絶対に許せない。


 毎回レベルアップの度に漬け込んだのは、そういった理由もあった。


 そのおかげでアリシアの鎖骨は今も完璧なラインを描いている。



 さて、アリシアは【レベル可変制御】を覚えた。


 このスキルは簡単にいうと、自らの意思でレベルを上下させるというもの、まあ手加減だな。


 500を超えたあたりから、エナジードレインとか、石化とか、ちょっと危ないで済ませられないスキルが常時発動したりするので、その対策スキルとでもいおうか。


 大体、このレベル帯でこのスキルを覚えることが多い。


 このダンジョンでいうと地下四階から先の管理者は全員【レベル可変制御】を使用している。


 実際のところ。あいつらのレベルいくつなんだろう? 2000ぐらいかな? ちゃんと測ったことないんだよな。全員同じぐらいの強さなのは間違いないんだが。


 まあ、そんなわけで。マスターも当然、アリシアと戦った時はレベル可変制御で500レベルに抑えていた。


 マスターが本気だった場合、精神汚染波動というとんでもないものが垂れ流しになるからな。


 近くによるだけでも危ない。



 ……では本題、次はどうするべきかを考えよう。アリシアのレベルは599。


 と、なるとレベル999までに必要なのはあと四回のレベルキャップ解放戦闘。999から先の1000になるのは単純なレベルキャップじゃないから、今回は目指さないし。


 戦うんじゃなくて、キーアイテムがいるんだよな。しかも人によってバラバラだし、ノーヒント。


 昔はみんな苦労したもんなー。


 

 ……いかん。思考がそれた、戻そう。


 レベル999か。これが必要なのは間違いない。


 ダンジョンに協力してくれている冒険者の話だと、ロンド皇国騎士団長のレベルが500〜600、あと祈念流の師範がレベル700で冒険者ギルドのトップランカーだったはずだ。


 祈念流の師範はアリシアを教えていたやつだし、協力する可能性もあるが。万が一がある。


 だからレベル999は必須。レベル200程度の安全マージンは欲しい。


 だからあと四回のレベルキャップ戦闘が必要……なんだけど、四回かー。


 このまま管理者たちと戦うのはちょっと無理がありそうだ。


 地下七階のヴィルヘルミナは良いんだよ。見た目の割に理知的というか落ち着いているし。


 興奮すると性質が悪いけど、今回はそこまで興奮もしないと思う。手加減もお願いするし。


 地下八階のハジャは、レベル可変制御ができるけど、そんなに器用じゃない。まともに言うこと聞いてくれるかもわからん。


 まあ、これについてはちょっと作戦があるからとりあえずはいい。


 問題は地下五階のシャルロットと地下六階のアホだ。


 あの二人は話しが通じねぇから嫌なんだよ、マジで。


 ……こうなったらちょっと危ないけど地下七階の【闘技場】を利用するしかないか。


 安全をみて話が通じる奴らでレベル上げを行ってきたが、少々危ない奴らを利用する計画にシフトする時だな。


 【闘技場】に集まっている奴らはここのダンジョン外の奴らだが、ヤバめの戦闘ジャンキーなだけで、シャルロットと地下六階のアホよりかは、よほど話が通じる。


 確か今季の【闘技場】のレギュレーションもレベル600固定だったはず。違ったとしても、頼めばいじってくれるはず。


 ……よし、この案でいこう。



 簡単な筋書きだが、上手くいきそうだぞ。


 まず闘技場で二回戦ってレベルを上げる。


 そしてヴィルヘルミナ(手加減をお願いしてレベル800で)に勝利しアリシアのレベルは899に、その次はハジャ(レベル900)に勝利しアリシアのレベルは999へと。

 

 シャルロットと六階のアホを相手にするより、百倍素敵なレベルアッププランだな。


 もう少し詳細を詰めれば、勝利は間違いないものにできそうだ。


 ここまでの戦闘からも、アリシアの才能ならばこの作戦を遂行できると俺は思う。


 ここから先は強者ばかりだが、アリシアが通用しない訳でもない。


 アリシアに対戦相手の攻撃パターンについてレクチャーすれば、充分にやりあえるはず。


 制御室のモニター記録に残っている、【闘技場】での戦闘記録を引っ張り出してきて、勉強してもらうことにしよう。


 防御はこれぐらいで、あとは攻撃についてだが。


 これはA氏と俺がこつこつと夜鍋したかいがあってほぼ決まっている。

 

 ドロシーちゃんの補修素材の余りで作った棘付きカイザーナックル、俺の付与魔法で強化した逸品だ。


 これがあれば、相手もアリシアの攻撃を受け流すよりも避ける選択を取るはず。


 つまり、カウンターを取られる可能性を下げることができる。


 さらに可変構造にして手甲も覆えば防御もバッチリ。


「いける。危なかったら割り込みゃあいい」


 ゴールが見えつつある順調さに思わず顎がカタカタと揺れる。


「くくく……待ってろよぉ。ロンド皇国よぉ」



 




 




 

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