【元は人間、いま骸骨。好きなタイプは鎖骨美人】〜見守り対象の公爵令嬢が、棲み家の極悪ダンジョンに追放されてきたので、レベルアップさせてから復讐ざまぁを手伝いたいと思います〜
第7話 夜勤のお散歩(アリシアLv199)
第7話 夜勤のお散歩(アリシアLv199)
テラーキャッスル地下十一階 【制御室】
「A氏〜。
「ぢゅぁ」
(とっくに準備済みだっての)
A氏が指す方の部屋には、半透明の緑色の液体で満ちた猫足がついた
完全に共犯にするとまずいので、A氏には全て話してはいないが、長い付き合いだから俺のやることには大体予想がつくようだ。
「服は……まあ、いいやそのまま入れちゃえ」
あとから騒がれるのも嫌だし。
服は着せたままで、アリシアを治癒槽へ投入。
緑色の液体は肉体と霊体の両方を癒す生命の水だ。
レベルアップによる反動が癒えて、意識が戻るまで、大体半日以上ってところか。
よし、アリシアのステータスを確認しよう。
台座に嵌められた黒い石。これに触れることで【解析】では見ることができない詳細なステータスが確認できる。世界に数えるほどしかない超貴重品だ。
俺の魔法創生で同じことはできなくもないが、コスパがクソ悪いのでこれには助けられている。
なんでもできそうだが、不得意なものが結構あるのが俺の魔法創生なんだよな。
「ステータスどうなったかな?」
アリシアの手を持ち、台座の黒い石に触れさせる。
黒い石が淡い光を射出すると、その何もない空間の先へと、プロジェクターのようにアリシアのステータスが映し出された。
【アリシア・ウォーカー】
【種族】:普人族(女)
【生体レベル】:199
【天職】:勇者(レベル不足)
【職業】:ストライカー(セット中)気攻闘士
【技能スキル一覧】
「連撃」「貫手」「鉄拳」「瞑想」
「身体強化(大)」
「核撃(レベル不足)」「復讐心(大)」「魔心」
「慈愛(小)」「契約:死亡時蘇生保険」
【状態】:安定 魔素ストック(極大)
【称号】:「神の尖兵(育成候補)」
……清々しいほどの脳筋スキル構成。喧嘩強そう。
しかもストライカーとか格闘系上級職だぞ。下級も中級もすっ飛ばして、いきなりかよ。下級職で覚える基礎的な技ってめっちゃ大事なんだけど。
……いま考えても仕方がないな。とりあえず、レベルを上げてゴリつよ戦法に変更なし。
あっ、そういや使えたはずの聖魔法の記載がないから、魔術師系はもう無理ってことか。了解と。
ちょっとステータスをおさらい。
まずは天職。これは、資質を表す。でもって「勇者」は予想通り。まだレベルが足りないのでそもそもなれない状態ではある。
天職が最もその人物の才能を活かせる職業だが、それになれるのはごく僅かだ。
アリシアも聖魔法が消えたから、このままいくなら勇者はない可能性もある。
次に職業、まあ読んだまま。なることが出来る職業もしくは、現在の職業。
ストライカーは打撃格闘の上級職。気攻闘士はストライカーの亜種。覚える技も殆ど一緒。
同時に同系統の職が生えるのは珍しいが、特定の才能に顕著な適正がある場合にはよく見られる。
アリシアは間違いなく格闘タイプだな。
技能スキルも字の如く、出来る技とか、魔法だ。それと、「復讐心(大)」や「魔心」といった身体に影響を与える心の状態も表記されるんだが……この二つはやばい。
復讐心はせっかく生えた「慈愛(小)」が育たねえ。
魔心は戦いを楽しむ心というのが近い表現だが、少し複雑だ。育ってしまえば、下手すると闇堕ち魔人が爆誕しちまうトリガーでもある。
なんとか魔心と対をなす武心に転じて欲しいところだ。表裏一体の関係だから、出来るはず。いつまでもキノコに頼ってられんし。
とにもかくにも「慈愛(小)」をなんとか(極大)にまで持っていき、魔心を武心へと転じさせる。これが当面の課題か。
そんで次は、「契約:死亡時蘇生保険」。
これについては、オーガくんと戦う前にアリシアにかけた、俺の魔法創生で作った魔法だ。
レベル999までダンジョンから出られない代わりに、一回だけなら死んでも蘇生出来る契約魔法で、万が一の保険だな。
はあー。それとあとはこの称号。
……ため息でるわ。ド腐れの神と取り巻き共が、まだなってもいねえのに勇者の所有権を主張しやがって。何が神の尖兵だバカヤロウ。
相変わらず操り人形が好きな奴らだ。
アリシアにはきっちり、爽やかスッキリと復讐させてやるんだ。お前らのおもちゃにはさせねえ。
「ぢゅぢゅ」
(実際のところ、どうするつもりだ?)
「とりあえずレベルアップの邪魔をするなら、神連中とは遊ぶつもりだぜ?」
アリシアの手をバスタブに戻し、振り返りながらA氏に答える。
「ぢゅあっぢゅー」
(規約違反中の規約違反……)
「知ってるよ。どっちにしろ勇者の資質を持ってんだ。闇堕ちも神の尖兵にもさせねぇように俺ができることをやるだけだ」
「ぢゅ……ぢゅー」
(闇堕ちなら、こっちでおめえと番いになることもできるのにか?)
「……巡回に行ってくる」
それじゃアリシアじゃなくなっちまうだろ。そもそも、そんなつもりで手伝ってねぇ。
「……」
まだ何か言いたげなA氏を残して、転移魔法でその場を後にした。
◆
さて、湿っぽいのは性に合わないので、さっさっと忘れて、本日も元気に働こうじゃないか。
今日はいつもの巡回の前に色々と寄っていこう。
まずは地下十階へと転移だ。
空間がぐにゃりと歪み景色を一変させると、赤土の荒野が広がった。
何もない。ここはほんとになにもない。地面だけがずーっと続いているだけだ。
地下十階はダンマスである姉ちゃんがいるところだが、姉ちゃんに会うのは難しい。
ここのエリアサイズが地球と同じ広さを持つ亜空間だからだ。
このどっかで姉ちゃんは研究を続けている。呼べば来てくれるが、研究の邪魔になるから俺から呼ぶことはほとんどない。
……よし、月に一度の業務報告といこう。
「姉ちゃーーん……! 異常なしーー!」
誰もいない荒野で叫ぶ。
『了解』
姉ちゃんから念話が飛んできて報告完了っと。
あっさりした返事はいつものことだし、いつも通りならアリシアのことはまだバレていないな。
さっさっとずらかろう。お次は地下九階。
再び視界がグニャリと歪む。
地下九階へと到着。ここには管理者はいない。村の人間たちが統治を担っている。ここには気分転換を兼ねて立ち寄ることが多い。
「あっ! 夜勤だ! 遊ぼっ!」
「仕事中だし、また明日の朝な」
「ええーっ、いいじゃんよー。教えてくれた、サッカーとかいうの、布で作った玉じゃすぐ壊れるから、また頭外して球の役やってよ!」
地下九階にある村のひとつに転移して早々、村人のウォルシュ君に捕まった。夜の時間だというのに遅くまで起きて、悪い子だな。
「球を壊さないように優しく蹴ればいいだろ」
ウォルシュ君をはじめ、地下九階にはここで産まれた子供がたくさんいる。
彼らの特徴として、産まれた時からレベルが40近くある。ダンジョンで産まれた場合、ボーナス補正が入り高レベルとなるからだ。
このことを知っている貴族なんかは、ダンジョン出産なんてエクストリームイベント敢行するんだが、成功率は……まあ、推して知るべしだ。
ウォルシュ君は今たしか、八歳でレベル56ぐらいかな?
外の人間は産まれた時はレベル1。そっから年に1上がって三十歳で加齢によるレベルアップはストップ。
一般的な鍛えた冒険者で、そっからプラス10か20程度。
ここの子供たちは40スタートかつ、年に2上がる。
八歳で熟練冒険者レベルだ。そりゃ手加減しなきゃ布の球なんか蹴り壊しちまうわな。
「優しく蹴るなんてつまんねぇ。ねぇ夜勤ー。球になってよー」
こりゃ納得するまで諦めない気配だ……。
「わかったよ。ほれ」
頭骨をおもむろに取り外して、地面に転がす。
「やったー! おーい、みんな! 夜勤の頭で遊ぼうぜーっ!」
ウォルシュ君の号令でわらわらと集まりはじめる児童たち。
早く寝ろって。
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