第10話 夜勤と地下一階


【テラーキャッスル】地下一階 中央エリア


「てなわけで再び! やってきたぜテラーキャッスル地下一階! ヤッファーー!」


「やっ……ふぁー」


 ありがとう! アリシア! 死んだような目をしながらも、俺のライムに応えてくれるなんて、感激だ!


 それにその衣装もビキニアーマーとまではいかないけどバッチリだぜ。


 現在アリシアは、東方の女性武道家たちが良く着るチャイナドレス風の服を着ている。


 あのあと、ビキニアーマーを着るくらいなら自害するとまで騒いだからなぁ。ちょっと公爵令嬢の貞操観念を見誤ったよ、俺。反省。

 

 荷物漁ったら、もう一着あったから、じゃあこっちはどうかと聞いたら、最後まで悩んだけど。


 悩む理由はわかるけどな、こっちはこっちでスリット深め、鎖骨丸見えのエロチャイナだもんよ。


 でも貫頭衣よりマシだろ。あれずっとパンツ見えとるから。


「では、はじめよう。はいこれ」


「食べなきゃダメなの?」


 アリシアへキノコを手渡すが、めっちゃ食べたくなさそう。


「勇者の制約を受け続けると、その身はいつか崩れていく。キノコは人格が変えられたように感じるから、抵抗があるかもしれんが。どうしてもというならビキニ「食べる」」


 アリシアはキノコを一息に噛み砕いた。


 なるほどキノコとビキニで天秤に掛ければいいわけだな。一つ賢くなったぜ。


「あら? この間とは違うのかしら?」

 

「レベルが上がって耐性がついたんだ。効果が出るまで時間が掛かる。ついでに効果継続の時間も短くなる。いつまでもキノコには頼れないぞ。だから、ここにくる前に説明した慈愛の心を早くものにしてくれよ?」


「……わかった。今回の相手は?」


「今回の相手はもうきてる」


「きてる? ここ薄暗いから、近く以外がよく見えないけど、えっ? 指?」


 アリシアは俺が指し示す地面を見た。


「……しょれで、なにがくるのー?」


 と、同時でお目目グ〜ルグル。バフの効果が出始めたな。

 

 地下一階の洞窟エリア。オーガ達がたむろす、岩壁の部屋ではなくとにかく広いこのエリア。


 天井も見えないほどに高いここを選んだ理由。それはここが地下一階の番人のテリトリーだからだ。


「ひょえ?」


 アリシアの背後からガリガリと何かを削る音が鳴りだす。


 ほどなくバガンッと地面が割れて飛びだしてきたもの。それは長い管状の体をうねらせ、生々しい肉感とツヤを持つ。それは蛇でもなく、龍でもない。


 さあ、お待たせしたね、胴体直径2メートル、化け物ミミズのミハイル君。


 遠慮なくやっちゃってー。


 あっ忘れるとこだった。アリシアに暗視魔法かけとかにゃ。ほい。これで良く見えるだろ。


「キモいー!」


 こら、アリシア! 見えるようになって、いきなりキモいとかいっちゃいかんよ! 彼、そういうの気にするタイプなんだから!


「ピギャアアアァァァァッッ!!」


 ほらー。先端の口が四つに割れて、怒りの捕食態勢で突進してきたからー。


「もっとキモくなったー。まあいいや。とにかく、わたしのエサになれー」


 うーん。アリシアはかなり魔寄りの性格なんだろうか。放つ言葉がとてもワイルドだ。


「てやー」


 アリシアはミハイル君のエグいお口攻撃を華麗に跳躍して避けた。そして無防備な横腹付近へと着地し、すぐさまそこへ貫手を乱打。


 キノコは効果を発している。アリシアの様子は特におかしくはない。

 

「てごたえありっー」


「ピギャアッ! ピギャアッ!」


 うん。攻撃通ってるな。ミハイル君は身をよじらせながらピギャってるし、バッチリ効いてる。


 ミハイル君のレベルは200。地下一階の番人で、これまで飲み込んだ冒険者は数知れずの強者だ。


 そして自分よりも強い相手には、無理をせず退却する知性も持ち合わせている。


 元はといえばこのミハイル君。姉ちゃんにまだ気軽に会えるころの研究ラボで飼ってた鳥の餌だった。


 そして、明日には喰われておしまいというタイミングで、小さきミハイル君は逃げすことに成功。


 百年ぐらいかけて捕食する獲物を少しずつ大きくし、ついにはこの見上げる程のサイズにまでになり、ネームドにまで登り詰めた。


 いやー。鳥の餌がここまでになるとは、感慨深いよね。


 魔物がネームドに至るのはレベルアップによるものだ。


 レベル101からがネームド、そこまでレベルアップすると種族特性に縛られないスキルや個性といったものを獲得することができる。


 あと、ミハイル君は何故か、俺に感謝の気持ちを強く持ってくれているみたいだ。


 俺のおかげで逃げ出せたらしいんだが、記憶にねぇからちょっとむずかゆい。


「あれ? あなをあけたところがなおってる?」


 アリシアがつけたミハイル君の傷口はねっとりした液体でたちまち覆われて、泡立ちを見せている。


「アリシア。ネームドはな、ほぼ全ての個体が再生能力を持っているからよ」


 ネームド舐めちゃいかんよ。


 倒すためには——


「じゃあ、おいつかないぐらいグチャグチャにするね?」


 いや、正解だけども、とろけた笑顔でいわれると怖いよ。

 

 マジではよ慈愛(極大)獲得してもらわんと……あっ、ミハイル君が距離をとってとぐろを巻いた。


「アリシアー。よそ見してっと、やられんぞー」


 ミハイル君だって地下一階の番人として簡単には負けられんからな、必殺技だしてくるぜ。


 ほれ、とぐろを巻いてバネのように体をたわめてからの——射出!


 ウルトラシンプルなぶちかまし!

 

 どうするアリシア、レベル差はほとんどないといってもこれは直撃すりゃヤバいぜ。


「あはっ、やっぱりキモい」


 アリシアは口を歪めて、前傾姿勢をとる。


 そのまま倒れこむように一歩前へ。

 たったそれだけの動きだけで、ミハイル君がアリシアの横を滑るようにすり抜けていく。


 おいおい戦闘センス良すぎん? またスキルかなんか生えてきたんか?


 しかも、途中からミハイル君の横腹に手刀を突き刺してうなぎの腹を開くみたいに……。めっちゃ痛そう。


「ピギャアアアァァッッッッ!!!」


 ミハイル君の断末魔が響く。


「アリシア! 例のやつぅ!」


 頃合いだ。魔法発動っと。


「土喰らう竜もどきのミハイル。我に力をよこせ」


「つちくらうりゅうもどきのみはいる。われにちからをよこせ」


 ミハイル君からでた魔素がアリシアへと吸い込まれていく。無事成功だ。


「ん……ふぁ……あふ」


 ミハイル君を倒すことでレベルキャップが更新された。俺から手にした魔素はまだまだ余っているので、今回も上限まで一気にレベルアップしたはず。


 アリシアはがくがくと膝を揺らしながら耐えていたが、やがて白目をむいて倒れ込んだ。


 さて、瀕死のミハイル君をいつまでも放っておけない。


「イビルヒール」


 俺の回復魔法によって、ミハイル君は巨大かば焼きの下準備状態から一気に本来のミミズスタイルへと変化した。


『夜勤さまー。末恐ろしい女性ですなー』


 元気になったミハイル君から、念話が飛んでくる。


「だろ。まだまだ強くするからな」


『それは楽しみですなー』


 ミハイル君は、そういいながら土中へと潜り込んでいく。


 それを見送りつつ、アリシアを担ぎ、俺は転移魔法で制御室へと転移した。










 


 



 

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