第11話 夜勤の確認(アリシアLv299)


「ぢゅぢゅ」

(おかえり)


「ただいま」


 制御室へ帰るとA氏が監視モニターからは顔をそらさずに、片手だけをあげて出迎えてくれた。


 モニター画面から察するに、地下三階の宝箱へのお宝補充作業が忙しいようだ。


 くいくいっと親指を隣の区画へと向けている。そちらのほうをみると……ステータスボードと治癒槽が既に設置されていた。水気を取るための布も大量に置いてある。


「ありがとう。準備万端だな」


「ぢゅ、ぢゅぢゅ」

(熊肉ジャーキー、二キロってとこだ)


「構わんけど、あんまり独り占めしてっと、妬まれるから、ラットマンズでちゃんと分けろよ?」


「ぢゅぢゅっ」

(おめえから貰ったっていやあ、誰も欲しがらん。面白ぇだろ、肉に変わりはねぇのによ)


「えっ。ちょっとそれ傷つく」


「ぢゅーぢゅぢゅぢゅぢゅ」

(被害者面してんじゃねえ。てめえがこれまでやってきたことをみんな忘れてねぇだけだ、このアホぅ!)


「んだよ。制御室のみんなが暇そうだから、いつも楽しいイベント考えてんだろがよ。闇鍋したり、お見合いパーティーしたりよぉ」


「ぢゅあぢゅっー」

(それこそが原因なんだよなぁ。お前がとった、何が入ってるかわからん出汁とか飲みたくなかったし。パーティー参加費だっていって監視業務肩代わりさせたりよぉ)


「そうそう、それに隣の大陸のラットマンはメスが積極的で楽しかったよな」


「ぢゅ」

(……見てるだけのおまえはな)


「アリシアの件が片付いたら、またなんか考えるわ」


「ぢゅっ」

(しね。いらんことすんな)


 と、いうわけで、紳士な俺は今日もアリシアのセンシティブラインを死守しつつ、着衣のままに治癒槽へじゃぽーん。


 お手を拝借。ステータスオン!


 ……ふむ。どれどれ。


【アリシア・ウォーカー】

【種族】:普人族(女)

【生体レベル】:299

【天職】:勇者(レベル不足)

【職業】:拳鬼(セット中)

【技能スキル一覧】

「連撃」「貫手」「金剛拳」「瞑想」「見切り」

「身体強化(特大)」

「核撃(レベル不足)」「復讐心(大)」

「魔心(中)」「慈愛(極小)」

「契約:死亡時蘇生保険」

【状態】:安定 魔素ストック(極大)

【称号】:「神の尖兵(三番人気)」



 魔心が伸びて慈愛が下がりよる……。


 まあ、拳聖の一個前のクラス帯である、拳鬼になっているから前進はしたと受け止めよう。


 このクラスは武心が生えやすいし。


 ただ、神の尖兵が三番人気に伸びてるのはやべぇ。完全に目をつけられちゃってんじゃん。


 三番人気とか、もうドラフトでいうなら三球団競合ぐらいだからな。

 

 何が原因だろう、考えられるのはキノコ使用時の言動か? クソ神どもがよぉ。ほんと、ああいう操りやすそうな無邪気なタイプ好きだよな。ああ、もうマジうぜぇ。


 思わぬキノコの弊害だな。次は一旦、キノコなしで行くべきか。


 ここまでレベルが上がったなら、制約のダメージも何回かは耐えられるはずだしな。……たぶん。


 次の相手なら問題はなさそうだし。


 でも、慈愛が(極小)になってランクダウンしたから、ダメージは増えるかもか。


 慈愛伸びれば相殺できたんだけどなぁ。なんでダウンするんだよ、マジで。


 うーん。次の階、ダメなら最後はに頼るか。そうしよう。


「お仕事いってきまーす」


「ぢゅーあ」

(嬢ちゃんが起きたら、すぐ連絡するからな)


「よろしくたのまぁ」


 A氏の声を背中で聞き、本日のお仕事へと向かいますかねと。





 テラーキャッスル地下十一階 制御室


 勤務を終え、早朝。制御室に戻るとアリシアは既に起きていて、服を乾かした状態で俺を待っていた。


「おはよう、アリシア」


「ええ、おはよう夜勤」


 意外にもアリシアの挨拶が返ってきた。妙に好感度が高まったような感触だな? 


「ぢゅっ、ぢゅぢゅ」

(だいぶ落ち着いたようだ。俺にも状況を色々と聞いてきたし、ステータスボードも自分で確認していたぜ)


 どうかなぁ。安定して落ち着いていても、魔心が伸びている限りは安心できねえ。


 次でなんとか武心を獲得するか慈愛を伸ばしてほしいところだなんだが。


「さっそくだが、今日もはじめるぞ」


 転移魔法を発動し地下二階【地下墓所】へと向かう。


 歪む景色が再び形を取り戻し、地下二階へと到着すると、アリシアが口を開いた。


「今日の相手はだれなの?」


「昨日と同じでもういるぜ」


「ッ——! そういうことは早く教えてっ!」

 

 そんなに身構えなくても、今日は向こうからは来ないって。


「焦んなって、前見ろ、前」


 やっぱ、急激なレベルアップの弊害はこういうとこにでるな。


 下級職から始まりゃ、当然のように身につける気配察知や魔力察知がまるで出来ていねぇ。


「前? 何をいってるの、周りはお墓ばかりよ?」


『挑戦者よ我にその力を示せ』


「声? どこからっ! 姿を見せなさい」


 アリシアー、前やでー。そこ、そこーだー。


『夜勤殿。聞いていた話とは様子が違いますが……』


「ちょっと諸事情でバフを取りやめたんだわ。まあ、やること変わらんし、よろしく頼む」


「誰と話しているのよっ!」


 だから前だって。ほら。


「みているのはお墓が並んだ先にある、あの大きな扉でしょ、誰も……まさか扉なの?」


「おっ、正解ー。それではレベルアップ作戦第三弾。紹介するぜアリシアっ! ただの扉と思うなよ、頑丈一筋三百年! 地下三階への扉、【大城門】ゲトークス・ベルアナン氏とは彼のことだ!」

 

『やあやあ、我こそはゲトークス・ベルアナン。挑戦者よ! その力を示せっ!』


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る