第5話 夜勤の提案
顔を上げたアリシアは更に俺へと問いかけた。
「貴方は……「夜勤だ。みんなそういってる」夜勤は、わたしの味方なの?」
「味方だな。骸骨の魔物だけど。げへへへっ! なんつって」
「…………」
おい。アリシアよ、そいつぁいけねぇな。そんな真面目腐った顔はいけねぇ。
ため息つくか、呆れるか、はたまた突っ込んでくれなきゃ、スケルトンジョークは虚しくも風に舞って、はかなく散っていくだけなんだぜ?
A氏を見ろよっ! きちんと呆れ顔で汚物を見る視線を俺にぶつけてきてくれているじゃねぇか。
こういうのでいいからさ。なっ。
「ぢゅーぁ」
(真剣な話しの時間だと思うぜ夜勤)
怒られた。
「……味方だよ。でもさっき言った外に出たいってのは、今のままじゃあんまり良くねぇ」
「なぜなの?……わたしはっ!」
アリシアは俺の言葉に怒りを見せる。今すぐにでも外に出て行きたそうだ。
「まあ、まてよ。今のままじゃって言ったろ?」
まだ話していない問題もあるし、確認することもある。まずは一旦休ませたい。
「A氏、俺の設定権限を受け取ってくれ。一区画改造してベッドやら食い物やら頼むわ」
「ぢゅ」
(仕方ねぇな)
「明日の朝にまたくる。少し落ち着いてから話そう」
「……」
下を向くアリシアを見ながら、転移魔法でその場を後にした。
◆
巡回を終え、早くも翌朝だ。
約束通りに制御室へと転移する。
「おはよう。アリシア」
「……おはよう」
アリシアはあまり眠れずにいたようだ。顔色が優れない。
「ぢゅぢゅ」
(飯は食ったが、少しだ。横にはなったが寝ていない)
A氏からも寝ていないとの報告。まずは意向を聞いてみようか。たぶん予想通りだけど。
「アリシア。外に出たいんだな?」
「わたし、一晩考えたわ。……やっぱり、外に出たい。父とルード様の無念を晴らし、妹を救いたいの。……この力があれば」
やっぱり復讐か……だよな。わかる。すごくわかる。俺も勇者が権力争いのドンパチに巻き込まれたせいで、負傷した時なんて、騒動起こした大元のやつを戦士と一緒にバチボコにしてやったもんよ。
そりゃもう超気持ちよかった。
でもあの時、戦士は勇者にお礼を言われたけど、俺はやりすぎだって怒られたんよな。
ああ、
なんで俺だけ怒られるんだよ。
「ぢゅーあ」
(魔力を抑えているのは立派だが、はよ、戻ってこいよー)
「——おっ、あ、すまん。で、アリシアはいますぐ仇を討ちたいと。心情的にはわかるし、応援するんだが、一つ二つと問題があってだな。うーん……説明が難しいから、とりあえず俺を攻撃してみろ」
「えっ? こ、攻撃?」
「そそ、遠慮なく。ほら」
「えっ、えっと、い……いくわよっ!」
一瞬戸惑いを見せたが、アリシアは俺目掛けて突っ込んでくると、
素直でよろしい。
ドムッと重い衝撃。なかなかの攻撃だ。
連撃。上下左右、丁寧に打ち分けられた拳たちが全てヒット……最後は沈み込んでからのフィニッシュブロー。
顎からの衝撃で俺の頭骨がくるくると回りながら宙を舞う。
「はあっ、はあっ、——! 痛っい!?」
アリシアは拳を抱えこみ、その場にうずくまった。
俺の骨の硬さに拳を痛めたのではない。憎悪と復讐心によってにじみ出たアリシアの黒い魔力が体を蝕む痛みだ。
「アリシア、これが俺の言ってる問題だ。お前は勇者によく似ているからそうかもしれないと思ったが、見立て通りだったな」
「そ、それは、どういうこと」
頭骨を拾い上げ、アリシアへ答える。
「勇者の資質を持つものが、憎悪、復讐心を抱えたまま力を振るうとそうなる。勇者の制約ってやつだ。リアは人を喰らう魔物ですら慈愛の心をもって仕留めていたからな」
「痛い……」
「これが一つ目の問題だ」
「そ、それ、それでもっ!」
痛みに耐えながらアリシアは叫んだ。
俺はアリシアに近づくと、拳に手を置き語りかけた。
「そして二つ目。こんな中途半端な強さじゃ、復讐は上手くいかねぇ。騎士団どころか国を相手にするかもだぞ? 追加で妹の救出まで。それにはレベルが全く足りていない。……だが、アリシア。俺の言う通りにすれば、お前の望みが叶うといったらどうする?」
「望みが叶う……?」
「指一本で無双させてやる。それぐらい強くなれる。どうせならスカッと爽快に蹂躙しながら復讐しようぜ?」
「……強くなりたい」
そうだアリシア。いい目だ。俺が惚れた勇者と同じ、意思の宿ったその目だ。
やろうぜ! 復讐! 邪魔する奴はタコ殴りだっ!
「……わたし、やるわ!」
よし。言質とった。契約魔法発動〜。
アリシアの足下に現れた魔法陣。今度は契約用だ。
唐突な展開に、またまたびっくりして引き攣った表情のアリシア。だいじょぶ、だいじょぶ。ヤバイやつじゃないから。ちょっとした保険だからね。
「痛くないよー」
「ぢゅぢゅーぢゅ」
(アリシア、ご愁傷様)
A氏ったら、大げさだな。いくら手を合わせて拝んだからって、この世界には俺たちを救ってくれるような神様はいねぇってのによ。
魔法陣が消え、契約が完了した証の紙がボフンと煙を伴い現れる。
驚きから復帰したアリシアが、それを拾って読み上げた。
「これは……レベル999……になるまで、出られません? どういうこと? あとは記号?」
「いや、まあ書いてある通りのことと、ちょっとしたことだ。それより、明日からのレベル上げ、がんばろうなっ!」
俺、張り切っちゃうぞ!
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