第4話 夜勤の犯行(アリシアLv99)
転移魔法を発動させる。
対象はアリシア。転移場所はここだ。
魔法が発動し、アリシアの足下に魔法陣が浮かぶ。
作戦は上手くいったな。
逃げた移送役はアリシアの生死を確認していないが、この状況的に死んだと報告するだろう。
ひとまずアリシアの身を隠すにはちょうど良い。
しかし距離があると、ちょっと発動に時間が……って、おい!
「ちょっ、ちょっ! オーガくんよ! もう君の仕事は終わってるって! 何してんの? それアリシアに向けて拳を振り下ろそうとしてるよね!?」
「ぢゅあー……」
(夜勤よ、いくらネームド手前のオーガでも、進化前だから脳みそなんてほとんどねえし、二つか三つぐらいのことしか覚えられねえって……)
「いや、だから騎士を襲う。女の縄を解け。襲ったふりをしろの三つだし、いけると思ったんだよ!」
ともかくはよっ! 魔法はよっ! はやく発動しろって!
オーガくんが拳を振り下ろす……。
っっ——発動ぉっ!
「きゃあああっ…………えっ?」
ふぁぁーセーフ。マジでギリ。
「焦ったわー……マジで焦ったわー」
「えっ?……えっ?」
逃げる時に岩肌で切れたのか、結構な血が足から流れているが、アリシアは無事だ。
「ぢゅー」
(おーい。早く事情説明しろって)
そうだ、説明しないといかん。目の前で口をパクパクさせているアリシアに現状を話そう。
「よう。俺の名は夜勤。訳あってお前を助けた。それと、ここで生き残るためには俺に言われたことを実行する必要がある」
「……」
返事はないけど、まあいいや。
「よし、ではさっそく俺の頭骨に——『ぢゅーーーっ!』」
「なんだよ。話してる途中に遮ってくんなよA氏。そんなんだから、いつまでもネームドになれねぇんだぞ」
「ぢゅぁっ! ぢゅぢゅぢゅぢゅっ」
(それはマズイって! お前マジでか!)
モニターの記録も今日は切ったし、細かいことはもういいじゃんよ……おっ、アリシアがなんか話したそうだな。
「……言葉が通じるのね」
「さっきから喋ってるだろ?」
「わたしを助けた訳を教えて」
「二百七十年前、俺は勇者リア・ウォーカーと約束したんだ。子孫の行く末を見守ると。で、見殺しにしたくねぇから今日、いまって訳だ」
アリシアの眉がピクンと動いた。ウォーカー家にも何らかの形でこのことは伝わっているはずだから、なんとなくの見当はついただろう。
「では生き残るための実行というのは?」
状況を飲み込みはじめたアリシアは、早くも落ち着きを取り戻しつつある。
「そのまんま。テラーキャッスルで生きるために必要なことだ。てな訳で、俺の頭骨に触れろ」
「……ぢゅーっ、ぢゅー?」
(説明の意味とか分かってねぇよな。脳みそあんのか?)
クソデカため息をつきながら、A氏がやれやれといった感じで肩をすくめる。
脳みそねえよ。知ってるだろが。でも。
「A氏よ。そのスケルトンジョーク悪くないぜ? げへへへっ!」
「ぢゅ」
(しね)
俺とA氏のハートウォーミングなやり取りの横で、アリシアの声が響く。
「わかったわ、頭にふれるのね?」
いいね。その思い切りの良さ。リアを思い出すぜ。
「そそ、ここをかるーく、指でトンと叩く感じで」
そうそう、そんな感じ。トンっと。
「うわー。やられたー」
アリシアの白魚のような指が頭骨に触れた瞬間、俺は大げさに後ろに倒れ込む。ついでにその衝撃で全身の骨はバラバラだ。
「ひぃっ!」
アリシアは息を飲むような悲鳴をあげた。
まあ、ちょっと触ったぐらいで、倒れ込んでバラバラになる俺を見たらびっくりはするわな。
でもこれが大事だから。よし、条件揃ったし魔法発動。
「アリシア。俺の言うことを復唱しろ」
「へっ? はっ、はい!」
転がる頭骨からの声に戸惑いながらも、アリシアは返事をしてくれた。そして、その足下には魔法陣が展開されている。
「ヴァイス・ギル・グリンガルド、我にその力を与えよ」
「ヴァ、っヴァイスイス、グリ? ギル、グリガルド? 我に、そ、その力を与えよ?」
アリシアが復唱を終えると俺の体から魔素が抜け出ていく。
ヴァイスは俺のこっちでの真名だ。
目論見通り、アリシアに俺の魔素が吸い込まれていく。
指による打撃で、致命的なダメージを負った俺は、アリシアに倒されたという判定を世界からもぎとれた。
その判定を元に経験値の元となる魔素を移譲し定着させる。いうなれば強制レベルアップ魔法を発動した。
俺が創生した
いやーよかった。雑にみえるかもだけど細かい手順ちゃんと踏んだから、すんなりいってるわ。
「ぢゅーぢゅ」
(マジでやりやがった)
「暖かくて大きなものが入ってくる……」
俺の魔素が自分の中に入っていく感覚について、アリシアは口にした。
その言葉の響きに少しばかり興奮してしまったが、それについては黙っておこう。
……よし。魔素の流出が止まった。体感十分の一ぐらいは向こうに渡せたな。
【アリシア・ウォーカー】
生体レベル:99
状態:魔素ストック(極大)
これでアリシアは普通の人間の上限レベルであるレベル99になった。更には消費しきれなかった余剰の
あんまりやり過ぎると、魔素が溢れて死ぬけど、俺の魔法はそこもカバーしている優れものだ。
レベル99。これならダンジョン内、地下三階までの通常の魔物になら、不意をつかれて襲われても傷一つ負わないだろう。
もし、ネームド達に遭遇しても大丈夫なように後で話しを通しておくのも忘れずにだな。
ひとまず彼女の安全は確保できたといえる。姉ちゃんもリアとは友達だったんだ、アリシアの血筋を知れば、助けたことを咎めたりはしないだろう。
方法がよろしくないから怒られるかもだが、その方法を確認するためのモニター記録は破棄して闇に葬ったし。
事実を知るA氏も、きっと黙っていてくれるのは間違いない。彼は保身と処世術の権化だからな(褒め言葉)。
「ぢゅあ……?」
(おい、夜勤。お前なんか俺のこと馬鹿にしてねぇか?)
「あっ、A氏。これ熊肉ジャーキーだけど、食べる?」
バラバラになった骨を逆再生したかのように組み立て直し、手には
ちなみにこのシーンは、A氏が共犯者である証拠としてモニターの時間を昨日の設定にしてバッチリ記録してある。
バレて姉ちゃんに怒られる時は一緒にだぜ、A氏。
「あ、あの……」
「なんだ? ああ、そうだ説明だな。これでアリシアはこのダンジョン、地下三階までの魔物になら襲われても切り抜けられる」
「確かに、信じられないくらい力が溢れて……」
「これで事態が治るまで安心して、このダンジョンで隠れて暮らせるな」
「事態が治るまでダンジョンで暮らす……」
アリシアは下を向いて考えだした。
「外に出ることはできないの?」
……やはり、そうきたか。でも大丈夫。俺はちゃんと考えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます