第14話 夜勤の策謀

 テラーキャッスル地下十一階 制御室


「A氏ィィぃッッ! 俺は閃いてしまったあああぁぁぁっっぅぅあああ!! 聞けぇっっ! 聞いてくれっ! 聞いてくれたまえあッッッッ!」


「ぢゅ!? ぢゅぢゅーぢゅーっ!?」

(やべぇ!? 頭に王冠が浮かんでやがるっ! この状態は完全にイッてるときだ! みんな逃げろっ!)


 あまりにも素晴らしいアイデアを思いつき、テンションが振り切れてしまった俺をみて怯えたA氏は、魔導モニター画面についている、緊急事態を知らせる警報ボタンを殴りつけるように押した。


 たちまちのうち、制御室エリアには警報が鳴り響き、天井に据え付けられた魔導ランプの光が白から赤へと変じた。


「無駄だよぉぉA氏ぃ。仲間を逃したって無駄さぁぁ。俺が欲しいのはキミだけなんだからぁぁ……」


 ラットマンたちの慌てふためく鳴き声が俺の背後に漂う。


「ぢゅ……ぢゅあっ!」

(上等だぁっ! やられる前にやってやらぁ!)

 

 A氏はカピバラボディを躍動させ俺へと殴りかかってきた。


「はい、捕まえたー。ゆっくり寝てちょうだい」


 だがそれを空中で軽くいなしてA氏を鷲捕わしづかみにし、魔法をかける。


「ぢゅっ……」

(仲間に手はださないでくれ……)


 龍すら眠らせる俺の睡眠魔法の前に、A氏は一瞬抵抗するもすぐに眠りについた。


 安心しろよ、A氏。いったろ? 俺が欲しいのはキミなのさ。


 A氏を抱えモニターの前へ。画面を操作し警報を解除。


 それから、制御室の記録モニターを録画だ。


「これだな……」


 ポチりとモニター横のボタンを押すと、モニター画面は俺の背中を映した。右上に赤い丸が表示されているので録画中だ。


 よし。これで俺の潔白は証明される。


 そして、小脇にA氏を抱えアリシアが漬かる治癒槽へと移動する。


「ふぅー」


 大事の前に、うなぎのぼりしていたテンションを落ち着かせ、ため息をひとつ。


 これが上手くいけば、神連中にひと泡吹かせてやれる。


 いざ、作戦開始。


「まずはA氏を治癒槽へ……よし、この角度でいいだろう」


 アリシアのお腹の上あたりにA氏を浮かべたのち、モニターへと戻る。


「次はこの区画の解放だな」


 間違いがないか、声だしと指差し確認しつつ、一つずつ丁寧に進めていくぜ。


「権限設定、地下十一階、第八区画の遮蔽を一時解除」


 モニターをポチポチ。ダンジョンを覆う防御膜を一部解除。よし。これで神たちアホ共もここをのぞき視ることが出来る。


 次は目隠しだな。


「よし。……えーと、呪文なんだったっけ、たしか"世界を隠せ"【暗幕】発動」


 こういう失敗できない時は、面倒くさがらずに呪文を唱えるほうがいい。


 魔法の威力や操作性が格段に向上するからな。


 ……さて、どうだ? 


 魔法によって、部屋の境目に発生した黒い膜の、カーテンを注視する。


 成功だ。アリシアとA氏がいる部屋の様子は全くわからない。


 更には透視魔法の呪文を唱える


「"全てを見通す"【透視】」


 ……完璧じゃぁ! 黒い膜から先は何にも見えなくて、辺りを見渡すと効果範囲は全部スケスケ。よしよし透視解除っと。


 これでアリバイは完璧だ。


「おっしゃ。あとは"友好の証"【武装解除】」


 きぬずれの音と水に濡れた衣服が床に落ちる音を隣の部屋から確認。これも成功。


「最後の仕上げだ……"不可視の手"【念動】」


 黒い膜の先、A氏とアリシアが漬かる治癒槽へと魔力で作った腕を伸ばす。


 そっーと伸ばしていく、このサイズ感はA氏だな。よし。


 A氏をゆっくりとアリシアへと近づける。


 ……うーん、ここかな。


「ふぃーー、いい感じだろ」


 黒い膜の先は視認できないが、今その中はアリシアとA氏が少々、問題のある格好で抱き合っているはずだ。


 紳士である俺は、そんなもの見なくとも良いが、性癖を拗らせた神と取り巻き《アホども》なら必ず覗いてしまう。


 ダンジョンを覆い外部の監視を妨害する遮蔽膜を、これみよがしに解除してやったからな。


 さて、神達アホ共の様子はどうだ?


 俺はテラーキャッスル周辺を映すモニターをチェックする。


 天候が荒れ、稲妻がテラーキャッスル周辺の地上へと次々と降り注いでいるのが確認できた。


 稲妻はこの世界の神とその取り巻きだけが使える奇跡だ。


 ……そしてこの樹状に広がる雷の形状と連発具合。神のごますり、【導きのアスメルテ】だな。


 間違いない。奴だ。


 リアと旅した時に散々に見たから、よく覚えているぜ。


 だが、いくら怒ろうともダンジョン内への攻撃は不可能。あいつらが互いに不可侵にすべきと、そう決めたからな。


 そして、この怒りよう。見えないから勘だったが、だいぶヤバい体勢を作り上げることができたようだ。


「おお、【ゴマスリのアスメルテ】よ。お怒りなのですね。どうか、そのままくたばりたまえ」


 神たちに聞こえるように、声に魔力を乗せて呪いの言葉を吐いてやる。


 すると、それに反応するかのように、モニターが稲妻で埋め尽くされ明滅した。


 あー。癖になりそう。最高に気分いいわ。

 でもまだ足りねえ。


 リアと俺らを散々オモチャにして楽しんだ奴らには、こんなのじゃまだ足りねえ。


「相変わらず、我慢のできねぇ奴だなぁ? がお前の言う【汚れた獣】と裸で抱き合った程度だろうが」


 モニターの明滅がひときわ激しくなる。


 しばらく続いて……止んだ。


 どうやら、諦めて帰ったな。淡白さんめ。もっと怒って規約ルール破れば良かったのに。


 そうすりゃ俺が殺してやれる。ぐちゃぐちゃにすりつぶしてから、消滅させて——


 ——っと、いかん……作業を開始しよう。


 モニターを操作して、遮蔽解除を終了と。


 次は、【念動】の魔法でアリシアの服を床から拾う。こっから服を着せるぐらいなら呪文はいらんだろ。


 ……えっと、こんな感じかな? 見えないから勘だけど、よっしゃ、多分着せ終わった。


 そうだ、今回のMVPであるA氏も忘れてはいけない。


 これかな? うん、これだろう。丁重に持ち上げ……たけど、置く場所ないし、とりあえず床でいいや。


 そして、【暗幕】を解除。


 黒い膜が消えたので、すぐに部屋へと入る。


 アリシアは……良し……服は裏向きだし、着崩れまくっているけど良し。良しで。録画もあるし説明できるから良しで。


 起きてから、ちゃんと説明を聞いてくれることを祈りつつアリシアの手を取り、黒い石へおき、ステータス確認。


【アリシア・ウォーカー】

【種族】:普人族(女)

【生体レベル】:399

【天職】:勇者(レベル不足)

【職業】:戦鬼(セット中)

【技能スキル一覧】

「連閃撃」「死突」「死脚」「瞑想」「見切り」

「身体強化(極大)」

「核撃(極小)」「復讐心(中)」「武心(小)」「常時回復「小」」「魔闘気」

「慈愛(極小)」「契約:死亡時蘇生保険」

【状態】:安定 魔素ストック(極大)

【称号】:


「ぃ——————————!!」

 

 努力が実を結んだ結果に、俺は声にならない声で叫んだ。




 

 

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