第27話 夜勤は裏方(アリシアLv699)


 ベルート戦を無事に終え、アリシアを担いで地下十一階へと帰還した。


 レベル699ともなれば体の回復も早い。


 急いで治癒槽に放り込まないと、ムキムキになっちまう。


 それは駄目だ。許せねぇ。美しい鎖骨を守る義務が俺にはある。


 と、いうわげで治癒槽にアリシアをじゃぼーん。


 でもってステータス確認と。


【アリシア・ウォーカー】

【種族】:普人族(女)

【生体レベル】:699

【天職】:勇者(レベル不足)

【職業】:死凶(セット中)

【技能スキル一覧】

「天魔殺」「告死突」「告死脚」「瞑想」

「紙一重」「身体強化(極大)」「王者の風格」

「予知」「指弾」「天賦」「見取り」「瞬身法」

「核撃(中)」「復讐心(大)」「武心(極)」「常時回復(極)」「魔皇闘気」「慈愛(小)」「レベル可変制御」「契約:死亡時蘇生保険」


【状態】:安定 魔素ストック(大)

【称号】:


 「……死凶てなんぞ?」


 はじめてみたわ。


 名前の響きは、勇者がついていい職業じゃねぇな。


 どうみても魔王のつく職業の音色を持っている。


 俺、結構この世界のこと知っているつもりだったけど、知らないことまだまだ沢山ありそうだなぁ。いやぁ奥深いね。


 まあ仕方ない、わからないことは諦めるとしよう。

 

 それにしても、いよいよ勇者が発現するかどうか怪しくなってきたな。


 リアの時はレベル500で勇者になっていたけど、アリシアにはこれぽっちも、その兆候さえない。


 レベル不足と表記されているが、実際にはその資格がないということか。


 たぶんだが、アホの野郎が悔し紛れにそう表記しているような気がする。


 きっと、目をつけた素材がここまで魔に寄る性質だったのを認めたくないとかいう、しょうもない理由で。尖兵も取れちゃったし。


 さすがにここからは、どうひっくり返っても、アリシアの勇者は発現しないだろう。


 まあ、その方が好都合なので問題はないが。


 勇者が発現すれば対応する魔王もまたどこかで覚醒してしまって面倒だし。


 覚醒した魔王が話しのわかるやつなら良いが、力に酔ったり、強い憎しみを抱えていたりだと、面倒くさいことこの上ないからな。


「ぢゅあー、ぢゅあ」

(おい、ジャーキーくれよ)

 

 考え込んでいると、後ろからやや震えた声を響かせながらA氏が現れた。


 ……アレを食して以来、A氏はジャーキー中毒に陥っている。


「いいぜ、でも半切れだけにしとけよ。食い過ぎると普段の飯が不味くなるからな」


「ぢゅーっ、ぢゅー、ぢゅあ」

(分かってるよ。でも我慢していると頭がおかしくなりそうなんだ)


「……次はこれの半分だからな」


 やばい物を作ってしまった。摂取量には最新の注意を払うことにしよう。取り引きに使うにも気をつけないと。


「ぢゅっ、ぢゅっ」

(これだよ、これこれ。たまんねぇ)


 ……とても悪いことをしている気分にさせてくれるぜ。いや、悪いんだけども。


「……じゃあ、俺は見回りいってくるわ」






 テラーキャッスル 地下二階【地下墓所】


 いつも通りの見回りを実施し、地下二階へと転移した直後、俺は人間の気配をとらえた。


「リーダー、もういくら探しても無駄だよ、ドルツの野郎は運がなかったんだ。今なら他の国に逃げる余裕があるんだから、逃げようぜ」


 この声は『貴族の誇り』の連中だ。なんだか真剣な話しをしているようだな。


 ちょうどいい。気になることもあったしな。


 どれ、気配を消してと。


「クリント! お前は俺にドルツを見捨てろというのか! そんなこと貴族の誇りにかけてできるわけがなかろう!」


 地下二階【地下墓所】エリアにこだまする『貴族の誇り』リーダーの怒声。


 そんな不用意に声をあげれば、魔物が寄ってきて危ないが、いうて、こいつらレベル300越え。


 それなりに化け物級の強さなので、普通の魔物は戦いを避ける。地下二階でも堂々としたものだ。


 魔力を抑え、やつらの死角へと身を潜める。


「だってよ、リーダー、地下一階から二階とこれだけ探していないんだぜ? アリシア嬢はもうオーガの苗床も終えちまって、今頃腹の中に決まってるよ」


「俺は諦めないぞ、ドルツは俺の……」


「リーダー……俺だって、辛いんだ」


「クリント」


「リーダー……」


 見つめ合う筋肉質な野郎二人。絡みつく視線。重なる手。


 ウホッ!! いい男。


 じゃねえよ、俺の馬鹿、不用意に近寄るんじゃなかった。


 ……さて。濃厚な香り漂うこの場を一刻も早く、離脱したくてしたくてたまらないが、ロンド皇国の状況を知るためには、まだ留まる必要がありそうだ。


 外部モニターで確認すれば楽なんだが、使いすぎだとA氏に注意されているしな。使うにしても、もう少し情報は手に入れておきたい。


「……っ! 駄目だ、今はドルツを助けることを一番に考えないと」


 ありがとう。留まってくれてありがとう。そこから先には一ミリも興味がないので大変助かります。


 野郎二人が顔を赤らめつつ距離を離す。


「すまないリーダー……。もう一度くまなく探すよ」


「ああ、頼む。皇帝から提示された期限はあと二十日以上ある。諦めずに行けば、また三人で楽しめるさ」


 解きほぐしたくない『貴族の誇り』のチーム事情は置いておいて、どうやらドルツ君とやらが人質に取られたようだな。


 それで脅されてアリシアの探索を続けていると。


 うーん。報告をミスったとかではなく、無理矢理に従わされているようだ。


 予想するに、自国の人間でテラーキャッスルに潜れる余分な人間がいないというとこだろうか。


 冒険者に依頼しても、まともに受けて貰えないからというのもありそうだな。


 このダンジョンに潜って稼いでるやつらって、危機管理能力高めだし。


 国の直接の依頼とかは、まず怪しんで調べるからな。


 『貴族の誇り』は、その辺甘めな奴らではあったし、美味しい話にのって失敗しちまったということか。


 にしても、なぜだ? アリシアがレベルアップしていることなんて分かるはずもないし。わざわざ死体を探す? 


 警戒する理由がわからん。


 ……レベルアップが完了する前に一度調べる必要がありそうだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る