第38話 夜勤と防具
「それじゃあね。たった今からアンタはこのダンジョンとは無関係だから」
姉ちゃんが、さっきまでの重苦しい雰囲気を霧散させ、ボタンを押すような動作をすると、俺の立っていた場所にいきなり真っ黒な穴があいた。
当然、俺はその穴に落ちていく。
「お姉ちゃん応援してるからーーからーーからー」
虚しく木霊する姉ちゃんの声が遠ざかっていく。
弟を放り出しておきながらの言葉ではないのは確かだな。まあ、俺も放り出されるような規約違反をしているわけだが。
穴を滑り降り続けること数分。垂直落下がやや滑り落ちるような角度になり、徐々に水平、次第に斜め上へと変化。
速度は落ちない。
そして陽の光が視界にさす。
穴が途切れた瞬間、久しぶりの外界の景色へと飛び出す俺。
体勢を整えつつ、無事着地。
「うーん。どうしたものか」
ちょっと展開早すぎて。……計画練り直しか? まずはアリシアと合流せねば——
「——の前に、出てきた、出てきた。おんなじ感じで出てきたわ」
俺が飛び出した穴が閉じたと思ったら、その横に穴があいて治癒槽ごと飛び出してきた。
俺は軟質化させた魔力障壁を展開し治癒槽を柔らかくキャッチ、地面へそっと置く。
……姉ちゃんの仕事早いな。
だが、A氏は来てないということは無事、無罪判定は勝ち取れたみたいだな。
流石にあれで有罪くらったら可哀想すぎるわ。
「ん? アリシア、なんか持ってんな」
治癒槽で眠るアリシアが何かを握っている。
「なんだろ?」
アリシア手元を覗き込む。
握っているのは……。
「紙だな……どれどれ」
アリシアの指を解いて紙を見る。
「姉ちゃん……」
なるほど。流石は魔神クラスの存在。
これを渡してくれたということはそういうことだ。
「……ん」
アリシアの瞼がピクリと動く。そろそろ覚醒しそうだ。
「……ん……っ……っ! 夜勤! 貴方無事なのねっ!?」
アリシアは目を見開き俺を見る。
「おおよ。見ての通り元気だぜ。骨なのになっ! ゲッッゲッッゲッッ!」
「ぷっ……、はぁ、心配して損したわね……って、ここ何処なのっ!?」
「おおお、アリシア。それ以上目を見開くとポロリと落ちちゃうぜ」
「落ちるわけないでしょっ! それより説明してっ!」
説明……そうだな。状況は共有しないと。ハジャとじゃれて、姉ちゃん起きて、墓参りして。規約違反がバレて有罪追放。復讐すべき相手は……全部話すのだりぃな……。
「……えーと、結論からいうと追放された」
「……は? 誰が? どこを?」
「俺が。テラーキャッスルを。ほれこれが通知書ってやつだな」
さっきの紙をぴらぴらと振る。
紙に書かれた文字を目で追うアリシアの表情が、みるみると曇っていく。いかんいかん。端的に端折りすぎた。
「問題ねえ。むしろ計画していた以上に暴れられそうなぐらいだ。心おきなく騎士団長の顔面ベゴベゴにしてやろうぜっ!」
追放理由が書かれた紙をアイテムボックスにしまう。
「騎士団長……アイツが仇で間違いないの?」
「そうだ。調べたらから間違いない。思う存分殴っていいぜ」
「……わかった」
アリシアの表情が引き締まった。
「じゃあ、まったりトンクに向かうとするか」
「転移魔法で一気にじゃないの?」
「徒歩と併せてだな。ロンド皇国内は結界が点在していて転移が結構難しくてよ、ある程度の距離しか転移できねえ」
「じゃあ、どうするのよ」
「行けるところまでは転移魔法でいくが、そこからは歩いてだな」
「徒歩……? 骨が?」
「ゲッゲッゲッ! アリシア、いいなそれ」
「真剣に聞いているんだけど。徒歩といっても街道でしょ。そんな道を骨が歩いていたら街道の治安部隊が殺到するわよ?」
「ああ、すまん、すまん。実は考えがあってな。アリシアに聞いて欲しいんだ」
「……聞かせてくれるかしら」
「前々から俺は思っていたんだ。アリシアの服って、すぐダメになるよなって」
アリシアのこめかみがややピクつき、俺を見る目が不審者を見るものに変わった。
だがギリギリでセクハラ判定は切り抜けられたか。
話を続けよう。
「そこで俺は考えた」
「考えた……まあ、いいわ。続けてちょうだい」
「もっと防御力の高い、防具を装備すればいいじゃないかと」
アリシアがやや腰を落として身構える。……警戒するようなところあったかな?
「そして、俺は答えに辿り着いた。これだっ!」
俺は変化魔法を自身にかける、すると骨がバラバラになり空中に浮かんだ。
「何をする気なのっ!」
アリシアはもう戦闘態勢だが、構うものか。バラバラになった骨でアリシア目掛けて突撃だ。
「きゃああああっ!」
ちょっ、ちょっ! 核撃連打で迎え撃たないでって。
拳による弾幕対応に、若干メンタルが傷ついたが、説明ちゃんとしてないし俺が悪い。
「一撃もあたらないっ!?」
全弾無事に回避し、弾幕をすり抜けた先にはアリシアの麗しボディ。
頭部、胸部、腰、腕に足。俺の骨をまとわりつかせて包み込んでいく。
「これで防具問題は解決、更には徒歩の移動にも問題がない!」
現れたのはボーンアーマに変じた俺を纏うアリシアの姿だ。
「こ、これはっ……」
「装備の詳細について上から順に説明しよう」
「……夜勤の声? まさか貴方がこの装備に?」
「そうだ。続けるぞ。まず兜は龍の頭骨を模した。人骨では威圧感は出てもオシャレさが足りないからな」
アリシアは頭部に手を伸ばし、形状を確認しはじめた。
「次に胸部、腹部だ。これは主に肋骨で抱き込むような形にした。それと、下に着込んだ服がもし破れたとしても、乙女ゾーンはバッチリカバーしているから安心してくれ」
兜を触るアリシアの手が止まる。何か引っ掛かることがあったか? まあいい、手早く説明を終わらせてしまおう。
「そして腰のベルトと手足のリングは可変式だ、構えてみろ」
「……こうかしら?」
アリシアが腰を落とし構えると、腰のベルトはスカート形状となり、手足のリングは腕甲と脚甲へと変化した。
「これは中々いいわね」
「だろ? 次に装備する時は『装着っ!』と気合いを入れて呼んでもらえると嬉しい。ちょっと憧れなんだ」
「『装着』? ……まあいいけど。それにしても動きやすいわね」
ジャブを打ちながら動きを確認するアリシア。気に入ってくれたみたいでなによりだ。
「ところで、夜勤。この状態の貴方はどうなっているわけ? 無理をしているとかないわよね?」
「ん? 何も変わらないぜ? まあ、強いていうなら、アリシアに抱きついてる感覚がある感じ——」
——ちょ、なんで脱ぎだす。
しかもそんな乱暴に放り投げなくても……。
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