第32話 伝説、お見せします

 LMG機関銃は最大100発連射が出来る高火力の武器だけど、スタペにおいてはストライカーが持っていい武器とされていない。


 理由は前線でスピーディな撃ち合いを要するストライカーにとって、LMGはそのサイズの大きさから動作を重くさせるから。


 おまけに一回のリロードも武器の中で最も時間がかかる。だから本来はマエストロであるヒデオンさんかウタくんが使うモノ。


 ただ、そんな扱い難い武器を今の二人に持たせるのは――


(でも、はっきり言って流れは最悪でしかない)


 【無敵ゲーミング】の勢いを止められず、メンタルも落ちまくっている今、このままだと0-15すらあり得てしまう危機。


 その結末だけは、全員を不幸のドン底に叩き落とす。


(それに――防御側の今ならLMG自体は悪手って訳じゃない)


 LMGを使った戦略も少しとはいえ練習はしたし、スクリムでも予選でも殆ど使っていないから意表を突くことは十分可能。


 それなら、この状況下でただ1人気落ちしていないGissyさんが、リスクを負ってでもやる価値はある。


「――分かりました。なら次はαに来る可能性が高いので、α手前からのセットアップが起きそうなタイミングであたしが侵入口をモクで塞ぎます。サーチは敢えて入れずエントリーしやすい状況にしてその瞬間を狙いましょう」


『了解した――――ヒデオンさん』

『……? どないしたんや』


『俺はヒデオンさんが守ってくれたからこそ今ここにいます。ですからその恩はここで返すので、どうか見ていて下さい』


『! ――……何アホ言うとんねん、俺も戦うがな』

「…………」


 ヒデオンさんの状態を理解し放った熱のあるGissyさんの声に、気落ちしていた彼のトーンが少し上がる。


(自分にしか言えない言葉で、ヒデオンさんを鼓舞するなんて)


 本当にGissyさんという人は――と思っている内にタイムアウトが終了してしまい、試合が再開する。


『――……来た』


 すると予想通り【無敵ゲーミング】はα手前からの素早いセットアップを仕掛けようとした為、あたしはモクを炊いて一瞬足止めさせる。


「Gissyさん!!」


 その直後。


 あたしは大声で合図を送ると。


『伝説、お見せします舐めんじゃねえぞごらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!』


 到底決勝戦とは思えない、如何にも雑魚キャラが言いそうな雄叫びを上げたGissyさんは強引なモク抜きで一気に3人も落としたのだった。


『おおおおっ!!?』

『ぎしーさん超ナイスです!!』


 その一掃に、わっと歓声が上がるあたし達チーム。

 ただ、これこそがLMGの真骨頂。


 スマートではなく、泥臭くても弾の雨を浴びせることが相手の戦術を理不尽に破壊し、人数有利を一気に作り上げる。


 結果あたし達は残るKeyさん達も危なげなく倒し、ここに来てようやく1ラウンドをもぎ取ることに成功した。


「いや――これはマジで大きいです。想定外から出てきたLMGでラウンドを取ったという事実が、相手の動きに間違いなく影響を与えます」


『正直ちょっと心配だったけど、これはGissyさんナイス過ぎだよ』


『いやもう、奇策でも何でもいいからまずは流れを変えたいと思って……正直俺がやる意味はなかったかもしれないが』


「いえ、ストライカーであるGissyさんだからこそ余計に錯乱させることが出来てるかもしれません。それに細かい部分はあたしがフォローしますから、次もLMGで暴れちゃって下さい。完全に嫌な印象を植え付けさせます」


『そうか、分かった――――いやその』


 と、ようやく士気が戻り始めていたあたし達に対し、Gissyさんは急に改まったような声を出すと、こんなことを言い出した。


『俺達【伝説、お見せします】は、絶対に一番強いと思うんです。何故なら考えても見て欲しいんですが、数日前まで本当に恥ずかしいぐらい弱かった俺が、決勝の舞台まで上がれて戦えるようになっているんですよ?』


『それは……当然ぎしーさんが』


『練習したから、というのは勿論ある。でも俺を教えてくれた人達が上手くなかったら、間違いなくこうはなっていない』


 だから、とGissyさんは一つ間を置くと、訴えかけるような声で続けた。


『そんな俺を育てたのはいつきさんであり、ヒデオンさんであり、アオちゃんであり、ウタくんです。もっと自信と誇りを持って下さい』


「――――!」


 その言葉に、恐らく皆こう思った筈。

 Gissyさんに、そんなことを言わせてしまっていたら駄目だと。


 実力差で負けたのならしょうがないけど、全員が言葉を失ったということは自滅している自覚があるということ。


 だったらもう、いい加減悪循環は終わりにしないといけない。

 そう思った瞬間――スイッチが切り替わる音が聞こえた気がした。


『うわっ、ごめん! ドライで来てた……』

『大丈夫! 倒しました!』

『Gissy君ナイスカバーや!』

『うわっ、中央ゼラニウムまりんちゃんAW持ってる!』

「まりん落としました! 一旦下がって下さい!」

『了解了解!』


『――……これβやな、詰めてる可能性注意してクロス組むで』

『はい――噴水裏落とした、あと1人もβ内に入ってる!』

『ナイスや――――……オッシャア! ケイ落としたったでぇ!!』

『ナイスナイス! デカすぎるって!』

『まだまだ! こっから巻き返していきますよ!』


 そこから。


 Gissyさんのお陰で完全に息を吹き返したあたし達は、さっきの負けが嘘であるかのようにラウンドを取り返していく。


 LMGを使ってガンガンと敵を薙ぎ倒し――と言いたいけど、実際刺さったのは数ラウンドだけで、正直Keyさん相手では擦り続けることは出来ない。


 ただそれでも十分な役割を果たしたのは事実で、LMG以外のラウンドでもあたし達の動きは明らかに良くなっていた。


 その中心にいるのは、キャリーをしているのは、間違いなくGissyさん。


(はっきり言って、Gissyさんは本番の中でも成長し続けている)


 それは声が出ているとかそんな話ではなく、完全にミクロ面において。


 Gissyさんはオフアングル――いや正確言えば立ち回りでワンピックを取るようになっていたのだ。


 しかもその強さは彼が培ってきたフィジカルでもなければ、途方も無い練習や座学を通して手に入れたものでもない。


 それが今、チームの結束が強まったことで際限なく発揮されている。


(当の本人は無意識かもしれないけど、Gissyさんの本当の凄さは――)


 と、あたしはそんな彼の姿を横目にしながら、気を抜くことは無く勢いを加速させ、攻守が変わってからもラウンドを積み重ねていく。


 その結果、第2戦目は15-10で逆転勝利。


「一時はどうなるかと思いましたが……何とか最終戦まで持ち込めましたね」


『Gissy君が一番苦しい所で発奮してくれたお陰やな……ホンマ見苦しいオッサン晒してすまんかったで』


『いやそんな。流れが悪いと調子が落ちるのは誰でもですから。それに調子が戻ってからのヒデオンさんはやはり安定の強さでしたし』


「アオ先輩のβで耐え続ける動きも良かったですし、ウタくんのボム設置遅延やリテイク時のスキルの使い方も完璧でした。何より攻守が変わってからも自信を失わず戦いに行けたのは本当に良かったです」


『でも流れを変えれてるだけに、まだ隠し玉があったら怖いよね……』


「いえ、わざわざ1-1にする意味がないので、あるならさっきの試合で出してると思いますよ。そもそも寄せ集めで出来ることには限りがありますし、何なら仮にあたし達が予選で勝っていたら、まりんはWinを出さなかった可能性もあるので」


『そうやな。結果的にしてやられた感じになってもうたが、あのWinSRも隠してたというより準決勝で試して刺さったから出した気ぃするわ』


「いくら全勝でも本末転倒になることはしたくないですから。第一あたし達との予選も勝利といえ接戦でしたし――何とか決勝で差を付ける為に、アドバンテージのある準決勝で使えるか試した可能性は十分あり得ます」


 リスクを抑えながら奇策も考える――向こうのコーチも中々強か。


 そういう意味ではあたしは堅実過ぎた。事実追い込まれてGissyさんのLMG案に乗るしかなかったのは大きな反省点でしかない。


 ただ――次で優勝が決まる状態では、互いにリスクはもう取れない。


『となると、この最終戦は――』

「はい」


 原点回帰の、均衡した闘いになることは必至。


『……少しでも差を付ける為に【ごめん】禁止ルールでも作ろうか』

『あやまるぐらいなら報告する。当たり前だけど大事なことですね』

『そやな。ここまで来たら最後に勝つんは顔を下げん奴や』

『ええ。だから皆で前を向き続けて、伝説を見せに行きましょう』


「ですね――……よし! じゃあ絶対に優勝するぞおぉ!!!!」


 おおー! と。


 その円陣で始まった最終戦は、想像通りの試合展開となる。


『中央の脇道前モク炊かれたから注意して!』

『了解――これ中央抜けて俺ら側のエリアまで入られとる可能性あるで』

『大丈夫です! ぼくが見て――! いやβにサーチ入りました!』

「アオ先輩スキル全部使って耐えて下さい! 全員βに寄ります!」

『Keyのラークあるかもしれんから背後警戒怠ったらアカンで!』


『くっ! ごめ――いや! β中全員入ってきてる!』

『ゼラニウム、ダリア落としました!』

『ナイスや! アオちゃんデカすぎるで!』

「モク入れて! 皆で入ってアオ先輩をカバーしましょう!」

『うっ……! 残り2人です! 1人はぼくが死んだ近くにいます!』

『オッケイ、それは倒した、後は――……お?』


『大丈夫です、裏取りしてたリリーKeyさんはちゃんと見てました』


『Gissyさんナァイス!』

『Gissy君それは偉すぎるで!』


 全戦通して中央を使うのが上手い【無敵ゲーミング】に対し、あたし達は慌てずしっかりコールすることで着実にラウンドを取っていく。


 本来精神的に負けてさえいなければ、あたし達のマクロはそう簡単に負けたりはしない。故にポイントは徐々に開いて――

 

 行くと思いきや。


『ボム設置はしましたが……これ、βの手前はいないですね』

『橋側も多分違う、となると全員屋上……? ――――えっ!?』

「まずい、これ全員スタン食らって……しまった!」

『おいおい、マジかこれ――!』

『やられた……まさかこんな素早いリテイクをしてくるなんて』


 そうはさせまいと言わんばかりに【無敵ゲーミング】はあたし達のセットアップを完璧に読んでくると、2方向からスキルスタンウルトスタン組み合わせた、β全体をカバーしたスタン攻撃で全員が動けなくなり、瞬く間に落とされてしまう。


『ナイスナイスナイス!!』

『くっそ……ナイストライ! 切り替えよう!』

『ナイス過ぎです! こっから連取しますよ!』

『クソッタレ、ホンマ一筋縄では行かんな……』


 つまりそれはまさしく一進一退の、何なら予選以上にやってはやり返されてを繰り返す試合となり、みるみる内にラウンド数が積み重なっていく。


 正直あまりにもラウンド差がつかないせいで、このままだとオーバータイム延長戦も十二分にあると思い始めていたけど――


『――――――……ヨシ!! ヨオオォォッシ!!!』

『うおおおおおお!!? Gissy君そのクラッチ逆転はエグいで!』

『2ラウンド連続は流石にヤバスギです! クラッチキング爆誕ですよ!』

「ナイスなんてレベルじゃないですこれは――」


 終盤に入って訪れた二度のピンチを、全てGissyさんが逆転勝利してくれたことで、あたし達は2ラウンド連取することに成功する。


 結果、スコアは14-13。


 ついに、あたし達はマッチポイントを掴む所まで来ていた。


『本当に……オーバータイムだけは何が何でもいやです』

『そら皆そうや、あと1本取ったら優勝なんやからな』

『でも当然向こうも取られたら終わりだからね、死ぬ気で来るよ』

「ええ、エコを挟んで武器を揃えて、ウルトも残してますしね」


 ならラッシュでウルトを使って攻め込んで来る可能性もあるし、ローテしてボム設置まで持っていき、リテイクに対しウルトを使ってくる可能性も全然ある。


 考えられる芽は、全て潰してはおきたいけど――


『……俺はやはり中央が一番怖いんだが、取られた場合はどうする?』


「そうですね……守りの固いアオ先輩がいるβを選ぶ可能性は低いですし、取られる=人数不利なので、やはりウルトを使ってαにボム設置されるのが妥当――」


『それなら一旦引いて、リテイク時にスキルを一気に使った方がいいか』

「使うタイミングは合図しますが、そのつもりでお願いします」


『了解……じゃあ、絶対にこのラウンドで優勝しましょう』


 そうして。


 最後の話し合いを終えたあたし達は、いよいよマッチポイントへと臨む。


「…………」


 今、この時だけはオーバータイムなんて念頭に置かない、これで負けたら終わりぐらいの気持ちで、あたしは静かなαでウタくんと相手のプッシュを待つ。


『くそっ! すまん!』

『カバー入ってる! リリーKeyは倒した! ゼラニウム菅沼まりんもいる!』

「――! やっぱりほぼ確でαですこれ!!」


 すると、まず中央の戦闘でヒデオンさんとKeyさんの1-1トレードが発生した。


 その瞬間βが無いことを確信したあたしは大声でコールし、Gissyさんは即座に下がってαの洞窟まで寄ってくる。


『α手前モク炊かれた! サーチとスタンウルトも来てる! 早い! 一旦下――うっ! モク中から抜かれた! 箱裏のモク中!』


「大丈夫! モク中は倒してる! あとα手前2人と多分脇道にゼラ――くっ!」


 しかし素早い相手セットアップに下がりきれず、サーチとスタンウルトに引っ掛ったウタくんが落とされ、一気にボム設置まで持っていかれてしまう。


 ただGissyさんが合流したタイミングであたしが何とかカバーに入り1人は倒すも、今度はあたしがダリアに落とされ2on3に――


 これでは流石にGissyさんも引かざるを得ない。

 嫌な予感が一瞬頭を過りかける。


 けど。


「アオ先輩お願いします!!」

『はい! ――……α手前2人とも落としました!!』

『アオちゃんマジでナイス!』

『これで――うぐっ! 脇道ゼラニウム菅沼まりんで確定です!』


 敢えてGissyさんと合流せず、ドライで裏を回らせたアオ先輩が勝ち急ぐ相手の背後を突いたことで2on1に逆転。


 ただ、流石に即カバーに入ったまりんによってアオ先輩は落とされる。


『了解! 解除行く!』


 つまり、残すは1on1。アイリスGissyゼラニウム菅沼まりん


 ボムの設置位置的にお互い見える角度ではなく、Gissyさんにしてもまりんにしても解除で使えるようなスキルは持っていない。


 となればGissyさんはまず解除フェイクかハーフまで解除して、まりんを詰め待ちする場面ではあったけど――


『Gissy君! 一旦ハーフまでやってから――――え?』

『ぎ、ぎしーさん……!?』

『まさか……』

「――……」


 Gissyさんはそんな駆け引きなどするつもりはないと言わんばかりに、そのまま解除まで持っていこうとし始める。


 そう。


 要するに、彼がしようとしているのは【ガチ解除】。


 けど、まりんの撃ち合いの強さを考えれば本来はするべきじゃない。

 何故なら、まりんであれば強気のピークをして来てもおかしくないから。


 なのに――Gissyさんは迷わずガチ解除を選択した。


 それはあまりにも奇妙、爆発するまで余裕があるなら尚更。

 ならこれはトロール? 今すぐにでも止めさせるべき?


 いや。


「Gissyさん大丈夫です。リーダー命令で解除まで行って下さい」


『いっちゃん!?』

『おいおい……マジで言うとんか』


 あたしは止めなかった。


 何故ならGissyさんはまりんが絶対にピークして来ないことを読み切ったのだと、あたしには分かったから。


(そう、Gissyさんの真の凄さは


 実はスクリム最終日から、既にその片鱗があることに気づいてはいた。

 いや、もしかしたら最初からそうだったのかもしれないけど――


 ただ、先にも言った通り恐らく本人は自覚してない。


 となればすぐにはその力を発揮出来ないし、かと言って変に意識させてその力が発揮出来なくなるのも、あたしは怖いと思った。


 だからこそ、それに気づいたあたしはDM杯全出場者の過去のプレイ集を動画にしたりなどして、Gissyさんに見て貰うようにしていた。


 当人すら自覚してないようなミクロの癖を、見抜き本番で活かして貰う為に。


 その結果は――予選からじわりと出始め、今この決勝ではっきりと魅せている。


(だから、まりんがピークしてくることはない)


 いや、仮にして来たとしても、既に手遅れ。


 だって、Gissyさんの解除はもう終わっているから。




【VICTORY】

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