第43話 下手糞は要らないと虐められクランを追放されたシスコン、トップストリーマー達に拾われDM杯で優勝した結k(ry

 話を纏めると、どうやらこういうことらしい。


 Gissyさんはかっさんしろかふかが立ち上げた月白旅団に加入し、最初の数週間は普通にクランのメンバーと遊んだりしていた。


 ただ、月白旅団というのはアマチュアチームである一方、実は強豪クランと言われる程、AOBが上手い人が集まる場所でもある。


 とはいえ、申し訳ないけどその知名度はアマチュア大会とか、公式大会の予選の予選まで見てる人なら知ってるよね、というレベル。


 実際私もAOB歴はあるけど、月白旅団を当時は知らなかったし――


 だからこそ、言い方は悪いけどこの半端な知名度が一つの問題を生み出した。


ダイヤ最高ランクの1つ下をクランに入れるってどういうつもりだKFKは、もしかしてウチは遊びでやってたのか?』


 そう言ったか定かではないけど、話によればGissyさんの加入に対し月白旅団の副リーダーNo.2の男が不満を抱いていたらしい。


 確かにMMO系のゲームだとよくある話だけど、強豪クランというのは加入条件が厳しい所が結構多かったりする。


 このランク以上じゃないと不可とか、イン率が下がったら追放とか、何なら面接をする所もあるぐらい弱い、エンジョイ勢はお断りというクランは普通にある。


 まあそうする理由は理解するけど――けど私的にはそういうのはあまり好みじゃなく、そしてそれはかっさんも同じだった。


「――でも何でその人に言わなかったの? ウチはそういう方針じゃないって」


「一つは派閥が出来てたからやね。オレらみたいな上手い人もいいけど、仲良くなった人も加入させる派と、上手い奴以外は加入させるな派で分裂してた」


「ふーむ……それが分かってたならGissyさんを守ってあげれば良かったんじゃ」


「オレも甘かったとはいえ、水面下で一方的に分裂してたから知らんかったんよ。しかも――ソイツNo.2も上手い奴ばっかり入れてた訳じゃないし」


 ただ今考えたら、そういう子らは大体自分のイエスマンか、野良で会って気に入った女の子を加入させてただけな気もするなと、かっさんは言う。


 つまるところ月白旅団は一枚岩ではなく、加えてそのNo.2がセコセコと勢力を拡大している間に加入したことが、Gissyさんにとって不幸だった。


『おいGissy、才能の無い奴は月白旅団には不要だ。Waveで画面共有して俺達のお前の1v4ソロクワッズの実力を見せてみろ』


『ちゃんと激戦区敵の多いエリアに降りろよ? もし陰キャムーブ接敵を避ける立ち回りなんてしたら速攻で追放するからな』


『オイオイダサ過ぎだろ! お前よくそんなんで入れて貰えたな! ――よし、もう一回だ、もし次1キルも出来ずに初動死したら追放だからな』


 そこから先は、反吐が出るようなNo.2派閥からのパワハラ行為。


 はっきり言って即刻抜けて月白旅団の悪評をネットにバラ撒いてもいいレベルの話だけど――Gissyさんは何も抵抗しなかったらしい。


 理由はかっさんが悪い訳じゃないのに、そんな真似は出来ないから。


 だから同様の理由で、誘ってくれたかっさんの面子も考えすぐにクランを抜けるということもしなかったらしい。


「じゃあ……せめてかっさんに相談するべきったのでは?」

「いや、それは――」


 No.2は人柄はどうあれKFKと一緒に大会に出る程の実力はある。

 なのにもし俺がチクって脱退となったら、間違いなく戦力ダウンになるだろ。


 何より曲がりなりにも彼とKFKには培ってきた連携力がある。それをぽっと出の俺が潰してしまうのは違うんじゃないかと思ったと、Gissyさんは言う。


(…………呆れた)


 それで自分が我慢すればいいとなるのは、出会って数週間しか経っていない相手にする行為としてはあまりにお人好しが過ぎる。


(まあでも、Gissyさんは実際そういう人間ではある……か)


 けど。


 そんなGissyさんでも我慢出来なかったのが妹さんのことだった。


 Gissyさんは月白旅団のメンバー(主にかっさん派閥)以上に妹さんとプレイすることが多かったらしいのだけど、それがNo.2にバレたのである。


 でも何でバレたのかと言えば、これがまた超絶にキモい話ではあるんだけど、Gissyさんの試合履歴を見られたことが原因。


 まあ恐らくスタッツを見て何かいびる種がないか探していたんだろけど――


 ただ履歴を見ただけじゃ同じ人とよくプレイすることは分かっても、それがGissyさんの妹であるとまでは分からない。


 だから、彼は勝手にこう思い込んだ。


(は? こいつ絶対に女とやってんだろ……というか、まさか俺らのクランに入ったのもこの女に自慢する為か? 完全に舐めてんな……)


 いや舐めてんのはどっちだよって話でしかないけど、一方的な私怨しかないこの男は、当然Gissyさんを呼び出しこの件を問い詰める。


 しかしGissyさんからしてもNo.2には不信感しかない為、妹に危害が及ばぬようどうにか誤魔化そうとしたらしいけど、その態度が余計に彼の怒りを買う。


『もういい、埒があかねえこんなの、取り敢えずこの女を呼んでこい』


『だからさぁ……呼べっつってんだろ!! 何も疚しいことが無いなら別にこの場に呼んでも何の問題もないだろ、あぁ!?』


『はっきり言えよぉもう、この女に俺達のクランに加入したって自慢したかったんだろ? ウチなら下手糞でもイキれるもんなぁ?』


 そうやって彼だけでなく彼の周りにいるイエスマンも執拗にGissyさんを、数十分にも渡って吊し上げていたらしい。


 それでも、Gissyさんは馬鹿正直に我慢したらしいけど――


『分かった。呼ばねえならもう俺達からその女にコンタクト取るわ』


 その一言が、完全にGissyさんの堪忍袋の緒を切った。


『――おい。お山の大将があんま調子乗んなや』


 私はGissyさんが怒る姿を会社でも見たこと無いから、正直想像もつかない台詞だけど――でもそれが決定打となってクランを抜けたらしい。


 まあ妹さんを守る為にそんな言葉を使ったんだと思うけど……とはいえ、No.2からすれば不愉快であっても都合の良い脱退ではある。


 何せこうなれば、Gissyさんが自分から勝手に辞めたと言えるから。

 だから、かっさんは本当に最近まで真実に気づいていなかったらしい。


 何れにせよ、これが二人の証言から明らかになった事の顛末。


「いやもうホンマに……呑気過ぎて異変に気づけてやれなかったのが申し訳ないやら、自分が情けないやらで……」


「いやいやそれを言ったら俺も、頭が冷えたタイミングで言うべきではあったとは思ってる、本当に申し訳ない」


「いやいやいやGissyは全く悪くないよ! どう考えてもリーダーの癖に何も分かってなかったオレが全部悪い!」


「いやいやいやいや、でも連絡は貰ってたのに無視した俺も悪いし――」


「いやいやいやいやいやでもそれは――」

「いやいやいやいやいやいや――」


(なにこれ)


 流石に根に持ってるは無いと思ってたといえ、ほんの僅かでも危惧していた自分が馬鹿らしくなるようなじゃれ合いに、私は唖然とする。


 いやまあ実際かっさんはこういう人間ではあるんだけど、にしても――


「……ん?」

「? ぬまりんどうかしたん?」


「おい、ぬまりん言うな――いやその、何でかっさんがGissyさんが抜けた真意が妹さんだと分かったのかと思って」


「ああ、それはあれやね。DM杯でGissyがあのAOBのって気づいて少し調べとった時に、アイツNo.2がGissyが女にかまけてるって話を言ってたのをそこで思い出して」


「あー……その話はされてたんですね」


「まあそん時は嫉妬してんのかなぐらいにしか思ってなかったけど、ただそこで言ってた女の子の名前が【misaku】で、よう見たらGissyの配信で出てた妹さんの名前と同じやったから、もしやと思って繋がりあったメンバーに聞いたら――って話」


「成る程、だから……」


「まぁ何やかんや言ったけど悪いのは全部オレやから、オレのことは幾らでも叩いていいけど、オレ以外を攻撃したら流石に許さんから気をつけてな」


 と、最後はリスナーに釘を刺すことも忘れず、かっさんは一旦話を締める。


「…………」


 ――これは触れないようにしてたけど、実は月白旅団はスタペのサービス開始前に解散をしてしまっている。


 理由はNo.2が大会や配信でトキシックを繰り返したこと。


 上手く行っている内は本人も上手く隠してたっぽいけど、やはり人間負けが込むと本性というのは嫌でも現れてくる。


 それでもかっさんは最初の内は擁護していたらしいけど――SNSでも批判が出てきたことから最後は解散を決意。


 だから恐らく彼は一種の業を背負っており、今でもこうして頭を下げてはかつてのメンバーではなく自分にヘイトが向くようにしているのだと思う。


(まあ正直裏でやっていい話な気もするけど――敢えてしなかったのはもし変な形で漏れた時の為に先手を打ったって所かな)


 クソガキとか言われたりするけど、こういうパっと見では分からない強かな立ち回りが出来る辺り、流石はトップストリーマーと言うべきかもしれない。


 とはいえ。


「いきなりGissyさんをぶん殴った理由は一番よく分からないんだけども」

「え? それはそんなん――嬉しいからに決まってるやんか」

「……はい?」


「正直知らんかったといえ、脱退したこと自体はオレも負い目を感じてたんよ」


 もしかしたら気に障ること言ってしまってたんかなとか、上手さなんて気にせず楽しくやろうってもっと言ってあげれば良かったかもなとか。


「何せGissyとは、いい友達になれると思っとったから」

「――……」


「だからこんな形で再会するとはって嬉しさがあって、でも先にちゃんと謝らないけんって気持ちも交錯した結果――まず殴ろうってなってもうた」


「絶対そうはならんでしょ」


 察するにワチャワチャにした方がシリアスにならないと踏んだんだろうけど、悪いけどそこに関しては私的には大トロールでしかない。


 ただ――そんな会話を聞いて、Gissyさんがすっとかっさんへ歩み寄った。


「KFK」

「Gissy――オレのことぶん殴っていいで」


「いやそれはいい。俺は最初からずっとお前が悪いなんて思ってないし、何ならやっぱり無責任だった俺の方が悪いと思ってるから」


「いやそんなん――」

「でも」


 と、Gissyさんはもう同じ繰り返しにならない為に語気を強めかっさんの声を遮ると、こう言ったのだった。


「それだと埒が開かないからさ、ここは一旦俺達の間だけでも全てチャラにして、やり直すつもりでDLQを楽しまないか?」


「! ――――Gissy……」

「俺にとっても、KFKはゲームを通して初めて出来た友達なんだ、だから――」


 すると、その言葉を聞いた瞬間、かっさんのキャラクターがサムズアップをするエモートをGissyさんに対して見せつける。


 そして熱の籠もった声で、かっさんはこう返したのだった。


「そんなん当たり前やん! オレらの友情パワーで絶対優勝しよなァ!!」


 ……1人のトキシックマンが原因で起きたすれ違いといえ、改めて生まれ直した二人の絆に、私のみならずリスナーも少し涙腺にキてしまう。


(いやまあ、まだイベントが始まってもないのに何でちょっとエモい感じになってんだよってのはあるけど――……けど)


 これでわだかまりもなく円満にイベントに臨めるなら、良いことですし。


(それに――)


 と、私は自分の中にある悪い部分が漏れかけているのを自覚しつつも、二人の姿を見てこう思わずにはいられないのだった。




ぎしかふGissy×しろかふか……一旦アリではあるか)

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