第44話 前途多難
『はーい、皆さん静かにして下さーい、静かにしないとイベントが始まりませんよー、おーい静かにしてー、静かにしろー、全員ロケランでぶっ飛ばすぞー』
配信者は社不だのと言われる所以の一つに、イベント事で集合をかけると中々静かになってくれないというのがある。
まあ確かにこういう風景は学生以来まず見ないので、リスナーからすれば『ガキじゃねえんだからw』と思う気持ちも分からないでもない。
「Gissyィ~、おいオラっ、デュクシデュクシ! ウィ~!」
「おいKFK静かにしろ。あと殴るの止めろ、今ダウンしたら流石に
「お? なんやちょっと見ない間に社会人ぶるようになりよって、悪いけどこっちは高卒ニートのまま来てるから常識なんて知らんぞ」
「何で高卒ニートでマウントが取れるんだよ」
とはいえ、そう見えて意外に配信者はしっかりしており、本当に静かにすべきラインはちゃんと分かっていると言おうとしたのだが――
ようやく静かになりだしても尚チョケ続ける総登録者数170万人超えのトップストリーマーに、俺は頭を抱えそうになっていた。
「おまけに解散でゴタゴタしとる間にアジア1位のキル数まで取って――気づけばDM杯の覇者とは、やっぱオレの見る目はあったってことやなァ!!」
「分かったから静かにしろって――――――――!?」
俺としても紆余曲折あったからこそ、数年ぶりの再会に積もる話がない訳ではないが――悪いがどう考えても今じゃない。
実際女性のGMもKFKに対し鋭い眼光を飛ばしていた為、流石にヤバいと俺はどうにか黙らせようとしたが。
「ぐわああああああああああああああああああああああああああ!!?!?」
突如目の前が閃光したかと思うと、強烈な爆発音と共に俺とKFKはふっ飛ばされそのままダウンしてしまう。
GMが俺達に向けロケランを放したのは、言うまでもなかった。
『いいですかー、静かにしないと次は皆さんがこうなりますからねー』
「おい……なんで俺まで悪いみたいになってるんだ……」
「ギャハハハハハ!! いやスマン! もう静かにするんで誰か起こして下さい!」
「ホンマこのクソガキ……」
わだかまりも無事解消し、一緒に優勝を目指すぞと意気込んだは良いものの、この調子では始まる前から不安しかない。
(しかも俺達のチームって、KFKがリーダーなんだよな……?)
おい、これ完全にトロールに巻き込まれて炎上エンドする奴だろ……と俺は呆然としながら蒼天を見つめていると、すっと菅沼まりんが顔を覗かせる。
「う、菅沼さん……す、すまない……」
「Gissyさん――……」
KFKの件もあって、俺は菅沼まりんにに大分迷惑をかけてしまっている。
だのにこんな状態になってしまっていることに俺は堪らず謝罪をするのだったが。
彼女はエモートでサムズアップをすると、こう言うのだった。
「いいですね、その調子でお願いします」
「……何で?」
◯
『それではDLQ参加者のみなさーん、これから4日間頑張って下さーい』
そうして。
すったもんだ(ほぼ俺とKFKのせいだが)あったものの、運営の宣言によって第2回DLQ EDGEが、空を舞う無数の花火と共に幕を開ける。
開催期間は4日間だが、実際に行われる時間帯は初日が20時~26時、残りの3日間は18時~24時と1日6時間の稼働となっており、加えて初日以降は3連休ということもあってDM杯と比べかなり優しい仕様になっている。
ルールは以前も述べたので割愛するが――まあ初心者の俺は不安といえ最初はKFKの指示通り動くことにはなってしまうだろう。
「おっしぇーい、じゃあ優勝目指してゴリゴリファームしていくでーい」
因みに俺達
マップ構造は簡単に説明するとバトロワ系のFPSでありがちな四方を海で囲われた孤島であり、真北が雪山で真南が砂漠、中央付近は主に平原という感じだが、総勢25名しかいない為か正直それ程広さはない。
恐らくそこは、配信映えを狙って他チームと接敵し易いようにしたとのだろう。
「そうですねえ――あ、でも一応軽く挨拶だけしときません? 私達少々あったせいで初期スポーンで集まれてないですし」
「お、それはそうやった。スマンスマンじゃあオレからサクっと――」
すると、菅沼まりんがそう提案したことで俺達は自己紹介をしていくことに。
といってもDLQに出られる時点で(俺はDM杯優勝の褒美みたいなものだが)皆名の知れた人ばかりなのだがと思いつつ、KFKから菅沼まりん、そして俺と続く。
そして迎えた4人目は。
「こんにちはー。DLQは初参戦ですけどよろしくお願いしますー」
限りなく白に近い淡紫色のおかっぱ頭に、ぺたんと折れた犬耳が特徴的な、ふんわりとした雰囲気を醸し出す女の子。
彼女の名前は
一度デビューすれば瞬く間にファンが付く程、箱推しが多いことで有名な大手事務所『
正直名だたるVtuber事務所の中でも桁違いに著名なタレントが揃っており、少し前まではあまりの人気にトライブと絡むのを恐れる配信者もいた程。
当然彼女もご多分に漏れずBuetube登録者数152万人のモンスター。
DLQには悪いが、本来彼女が参加するなど異常事態と言ってもいい。
「しおーり久しぶりだよね、最後に会ったのってなんだっけ?」
「えーと、確かくるーる主催でやったスタペカスタムじゃなかったっけなー」
「あーそれか。しおーりのフィジカルがエグ過ぎてヒエヒエになった」
「そんなことないよー。そんなの言われたらもう参加できないじゃんー」
「いやいや冗談だって、冗談」
ただ、彼女はトライブの中でも生粋のゲーマーであり、その実力はファンからも『ほぼVG所属』と言われる程ストリーマー気質のVtuberなのである。
故に他事務所のVtuberや配信者とも絡みは多く、ファンも比較的寛容であることから俺が絡んでも
多分ね。
「何にせよお休みも挟んで元気バキバキだから、DLQでひと暴れしたいなーと」
「いいねー。そういやしおーりはEDGEやったことあるんやっけ?」
「公式鯖はやったことないけど、トライブ鯖作って貰って遊んだことはあるから、基本的なことなら一応分かると思うよー」
「ならバッキバキにファームして敵チームをボッキボキにしてやらんとな」
「おおー、バッキゴキのボッキバキにしてやりましょー」
「いーやゴッキベキのベッキゴリやね」
「いやー? メッチャメキの――」
「はい、じゃあ自己紹介終了ということで。最後は――――あれ?」
するとKFKの良くも悪くもしょうもないノリに淡路シオリが乗ると理解していたのか、菅沼まりんはスっと流れを切って脱線した話を元に戻す。
(まあこうしてる間も敵チームはファームしてるだろうし、英断ではあるが――)
しかしこの様子だと俺達のチーム、どうやら生命線を握るのは彼女になりそうだな……と若干心配をしていると。
ふと、5人チームの筈なのに1人足りないことに気づく。
「……? おかしいな、もしかしてミスで他のチームに送られたとか?」
「それはあるかも、ちょっと運営に確認してみて――――んん!?」
「? どしたぬまりんそんな呆然として――って! これはヤッバイ……!!」
「へ? ――え? な、なんだありゃ……?」
「皆逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「ぬまりん言うなああああああああああああああああ!!!!!!」
「わーこれは大分まずいねえー」
「みんなごめええええええええええええええええええええんんんん!!!!! だ、誰か助けでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
慌てふためくKFKと菅沼まりんが見る方向に視線を送ると――そこには凶暴な野生動物や武器を持ったNPCを大量に引き連れ向かってくる一人の女の子の姿。
彼女の名は
正直俺はあまり彼女を存じ上げていなかったのだが、一部のリスナー曰く『稀代のポンコツ』と噂されている個人Vtuberなのだとか。
しかしポンコツというのは本来自称するものではなく、他者から揶揄される意味で使われることが多いもの。
故に、そう言った言葉は慎重を期すべきと思っていたが――
(とはいえ、俺含めこのチームは問題児だらけではあるか……?)
そう思いながら、俺達は神吉めるが連れてきた大量の野生動物とNPCから逃げ惑うも、武器を持ってないせいで見るも無惨に蹂躙されていく。
そして終いは神吉めるが飛び込んだ湖で溺死する姿を目撃したのを最後に、俺も無事NPCに頭を抜かれダウン。
これで全員が初期スポーン地点へと帰されるという、あまりに前途多難過ぎるスタートになってしまったのだったが……。
「みんなごめんねえええええええええええええええ!!!!! でも絶対優勝してMVP取ろうねえええええええええええええええええええ!!!!!!!」
そんな状況で発せられた彼女のあまりにポジティブ過ぎる慟哭は、寧ろこのチームに何か良いモノを齎すのではないかと、そんな錯覚に陥らせるのだった。
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