第45話 神吉めるは持ってない

「大変申し訳ございませんでしたアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


「声でっか」


 初期スポーン地点で土下座エモートをし、絶叫しながら謝罪をする神吉めるに対して、菅沼まりんは思わずそんな声を漏らす。


「まあまあ、別にトロールをしたくてした訳じゃないんだし」

「いや別に怒ってはないんですけど……」

「というか、何がどうなったらあんな引き連れてこれるん?」


「そ、それは……実はめるこのゲーム完全初見で――で、でも、何をするかは一応予習したから、じゃあまずはファームだと意気込んで飛び出したらいきなり野生動物に襲われて、ヤベェと思って近くにいた人に助けを求めたらNPCで、それを繰り返している内に収拾のつかないことに……」


「言ってる意味は分かるけど、途中でおかしいと気づかないのはエグいって」

「でも……全攻撃を躱して俺達の所まで戻ってきたのは普通に凄いような」

「キャラコンの才能があるとも言えますねー」


「本当に!? ありがとうございますッ!! 死ぬ気でやるんでベイトでも肉壁でも何でも良いんで使って下さいッッッッ!!!!」


 そう言うと彼女は猫耳の付いたサフランイエローのショートヘアを激しく揺らしながら、直角になるまで頭を下げる。


 まあやる気は本当に凄まじいが……ちょっと破滅型過ぎやしないだろうか。


「まーでも、これぐらいのトラブルで敵チームと大差がつくとは思えんし、めーちゃんも気にせず楽しくやってもろて――」


「えっ? で、でも、楽しくやっていたら優勝は出来ないんじゃ!?」

「ん? ――んーでも焦ると上手くいくモンも上手くいかんからなぁ」


「そ、それは確かに……! いやその、めるはこのDLQ EDGE、是が非でも優勝してMVPを取ってやろうって気持ちがパンのパンだったから……!」


「優勝したいっていうのは皆同じやと思うけど、何でまたそんな?」


「そんなの――――売れたい以外にある訳ないでしょう!!!!」


「ワオ……そんな清々しいことある?」

「まあ変に建前を言うよりは全然良いと思うけどねー」


「める気づいたんだけど、やっぱりまりんさん然りぎしさん然り、売れる為には大きな場で結果を残すことが全てだと痛感してて!」


「それは……」


 確かに菅沼まりんはDM杯で準優勝となったものの、その活躍が注目されて1000人前後だった同接が今では5000人まで増えている。


 そして一応俺も0人だった同接が500人、スタペをプレイしていれば1000人なる時もあるぐらいまで、一夜にして変わったのは事実。


 となれば魔境の個人勢の中で頑張っているとはいえ、同接100人前後の彼女からすれば期待枠で招待されたであろうDLQで爪痕を残したいのは必然。


(そう考えれば、ここまでかかっているのは頷ける話ではある……)


 だがKFKも言った通り、気持ちが急けば急くほど物事というのはどんどん悪い方向へと行くのは俺も経験しているから分かる。


(とはいえ俺は駆け出しの素人配信者――)


 そんな立場では説得力のあるアドバイスも出来ないしな――と思っていると。


 すっと神吉めるへと近づいたKFKが、サムズアップをしてこう言うのだった。


「ん~~~~いいねえ!!! その野心から来る灯火は最後まで絶やしたらアカンで! そしたら優勝もMVPも絶対いけるからな!!」


「!! モチロン!! 往生際の悪さだけは誰にも負けないから!!!!」


「――……」


 普通なら『いやそれでも』と窘められる所を、KFKは敢えて強く肯定することで彼女のモチベーションを上げさせた。


 その切り替え方は、大人になればなる程出来るものじゃない。


 恐らく良い意味で等身大のままトップとなった、KFKだからこそ出来る業なのだろうな……と思っていると。


 隣にいた菅沼まりんがKFKに対し手招きのエモートをした。


「うん? どうしたんぬま――」


「ぬまりん止めろって言ってるやろがい――じゃなくて、何か神吉さんの危なっかしさを肯定しちゃったけど、大丈夫かと思って」


「んー大丈夫というか、変に注意するより出来ないことがあればその都度フォローした方が彼女の場合ええんちゃうかと思って」


「それはまあ……でも彼女が本気で優勝とMVPを目指してるなら、フォローだけで済ませるのもどうなのかなって」


「オレは短い期間で詰め込む方が余計に良くないと思うけどなぁ、それに――」


 と、KFKは淡路シオリに対しても臆せず拳を掲げて意気込んでいる神吉めるに視線を送ると、小さく笑ってこう続けるのだった。


「あれがめーちゃんの個性なら、矯正するより活かして上げた方が、何か凄いことを起こしてくれると思うんよな」


       ◯


 それから。


 開始前から一生ドタバタしていた記憶しかない俺達は、ようやっとチームとしてイベントを始動させる。


 やることと言えば散々言っている通りファームであるが、俺達は出遅れている為あまりダラダラとしている暇はない。


 何せ。


「後40分ぐらいでプレイヤー攻撃が許可されるから、役割分担せんとな」


 レイド自体は3日目からだが、プレイヤーには初日から攻撃しても良いのだ。


 つまりそうなると何が起こるかと言えば、ファームした素材を敵プレイヤーが奪いに来るということが発生してくる。


 故にそこで戦力差があると最終的に人という名のチェストに成り下がり、3日目を待たずして優勝戦線から脱落してしまう羽目に。


 だからこそ俺達は経験者であるKFKが主に拠点作りを、EDGEを触った程度の菅原まりんと淡路シオリは武器に必要な素材を集めることに。


 そして初心者の俺と神吉めるは比較的採取が簡単な、拠点作りに必要な木材や岩といった素材を集めに行くことで役割分担をした。


「ぎいいいいいいいい!!!! やあああああああああああぁぁぁぁぁ…………」

「ダメダメダメダメダメダメシヌシヌシヌシヌシヌ……あっ死んだ」


「ふっふーん。まあめるが本気を出せば大量に岩をファーム出来る場所ぐらい簡単に――あれ、何でHPがめっちゃ減って――あっ、ここ雪山、っスゥー……」


「……神吉さん、一旦チルしようか」


 ――が、それによって効率的にファームが出来たかと言えばそうでもなく。


 神吉めるは崖から落下死したり、野生動物に食われたり、防寒具無しで雪山に突っ込んで凍死したりとした為作業は若干難航。


 それでも何とかプレイヤー攻撃が許可される頃には掘っ立て小屋みたいな拠点は完成し、申し訳程度に武器や回復アイテムも揃った為一旦手打ちとなった。


「ん~、拠点と呼ぶにはあまりにボロいけども……これでベッドリスポーン地点も置けて素材を保管出来るからまあええかな」


「拠点強化は最悪レイド解禁されるまでに完成すればいいから――それよりかっさん的には次はどうするつもりなの?」


「一番は武器強化やね。今ある416AR・アサルトライフルもいいんやけど、より火力の高いAKARを揃えて行きたいし――後は何よりロケランが欲しいな」


「ロケランか……」


 GM運営によって吹き飛ばされた瞬間がフラッシュバックし俺は若干顔を顰めるが、確かにロケランに勝る火力はないと言っていい程強力ではある。


「ロケランは敵チームに圧をかけられるのもあるけど、レイド時に相手の拠点を破壊する上で必須の武器ではあるからねー」


「成程な……じゃあ次はAKやロケランに必要な素材を集めに行くか?」


「いや、確かAKとかロケランは艦艇か石油プラットフォームにある物資を漁らないと出ない筈やから、一回見に行くのもアリかもな」


 艦艇や石油プラットフォームとは簡単に言うと海上にあるエリアのことで、そこにいるNPCやボスを全滅させるとランダムで火力の高い武器やリエルが入ったチェストを漁れる仕様になっている。


 つまりこれを周回すれば、戦力の底上げになるのは言うまでもない。


「よっしゃぁ! それなら早速行っちゃいましょう!!」

「おっ、めーちゃんやる気満々でいいなぁ――因みにスタペのランクは?」

「え゛っ? ま、まあ……もうすぐゴールド……ですよそりゃ」

「つまりシルバーなんだよね」

「ゴールドであったとしても残念ながらゴールドやねんけどね」


「う゛わあああああああああああああああん!!!! 何でそんなこと言うのオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 とまあ、神吉めるが冗談交じりにイジられる一幕も挟みつつも。


 徐々に雰囲気も良くなってきた俺達は416と安い防具を装備し、KFKが用意してくれたヘリに乗り込むと、石油プラットフォームへと向かうことに。


 因みにKFK曰く内部にいるNPCは20人、内1人のボスはAK持ち。


 正直それだけ聞くと全然負けてもおかしくはない、意外に骨の折れる作業にも思えなくなかったが――


「一番上5人倒したわ、多分もうおらんわ」

「真ん中のフロアもやれたかな――――いや奥にまだ」

「大丈夫だよー、それ倒したから後は一番下とボスだけかなー」

「了解。雑魚NPCは倒したから多分後はボスだけ――」

「ぐえええええええええええええ!!!! し、死んだ……」


「ボスも倒したから終わりやな。まあHPが多いだけでエイムが上手いボスでもなかったから楽勝やったわ」


 悪いがこちらは元スタペプロに、第5回DM杯準優勝者。


 加えて言ってなかったが、DM杯含め数々の大会で実績を残している淡路シオリも揃うこのチームが、単一的な動きしかしないNPCに相手に負ける筈がない。


 よって数分もしない内に俺達は石油プラットフォームを攻略してしまうと、あっという間に物資回収のフェーズへと入るのだった。


「ぐう……な、何でめるだけ……」


「ま、まあ……運悪くヘッショヘッドショットを食らったんじゃない? ほら、あんまり気落ちしないで、チェスト開けてもいいから」


「寧ろヘッショ食らうということは凄い運を持ってるとも言えるかもしれないぞ、もしかしたらAKとかロケランとか引けるかも」


「!! それは言えてるかも!」


「お、Gissyええこと言うやん! よし! じゃあめーちゃん開けに行け! オレ達に力を齎してみせろ!」


「ラジャー!! めるに任せて!!」


 自分から言っておいて何だが、正直それでも良いのか神吉めるよ……と言いそうになるが、ここは黙って彼女がチェストを開ける瞬間を見守っていると――


「!!!!!!! ろ、ロケラン3丁!! AKも1丁入ってる!!!!!」


「うおおおおマジか!? ホンマにエグい引き持ってるやん!!」

「やりましたねー、これで一気に形勢を変えられますよー」

「凄……そんなことある……?」


 俺も、恐らくKFKも本気で思っていた訳じゃない筈なのに、まさかこんなにも早く神吉めるが凄いことを起こした事実に驚愕してしまう。


(これぞまさに、ストリーマー的才能か――)


 見ればコメント欄も彼女の見せ場に大いに盛り上がりを見せ、いよいよ俺達も波に乗ってきたかと、そう思い始めてきた――


 瞬間だった。


「――――――え?」

「ぎええええええええええええええええええええええ!!!!!?!??」

「しまった……完全に気抜いてもうた……」


 突如背後から聞こえてきた無数の銃声が、一瞬にして俺達をダウンさせる。


 まさか見落としていたNPCが俺達を――? とも思ったが、それにしてはあまりに食らった弾の数が多過ぎる。


 じゃあ考えられるとすればこれは……。


 と、思った直後に飛んできた聞き覚えのある二人の声が、完全に自分達の失態であったと痛感させるのであった。




「オイオイオ~イ! ここは小学生が遠足で来る場所ちゃいまっせ~!」

「いや~まりんごめんなぁ? でも、これがEDGEっちゅうゲームやから」

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