第46話 敗色濃厚
『ヒデオンボケええええええええええええええええええ!!!!! やっていいことと悪いことがあるだろこのクソ野郎オオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
『何いっとんねーん! どう考えてもクリアリングもしないで呑気に漁ってる方が悪いやろが~い! このアホアホ~!』
『うるせー!!! このウンコウンコウンコ! 男なら黙って正面から戦いやがれってんだ!! このハイド野郎! それでも大御所かァ!!!』
『おぉ~~~! 負け犬の遠吠えが心地ええのぉ! ま、負け犬は負け犬らしく床に這いつくばっとけってな、ほなくるる全部漁るで~』
『皆ごめんな~、ヘイトはこのおっさんに全部押し付けてええからね~』
『おい、それはあんまりやろ』
「――まあ仕方ないとはいえ、そりゃ納得出来る訳はないか」
あたしは無線から流れてくるヒデオンさんとしろかふかさんの応酬を聞きながら、思わずそう呟いてしまう。
ただ一つ言っておくことがあるとすれば、これは計画をしてた訳じゃない。
元々あたし達ヒデオンチームは艦艇の方を攻略しに行き、無事ボスも倒して物資を漁っていたんだけど――これが中々にショボかった。
だからこのまま拠点に帰るのはどうかという話になり、そのままボートを走らせ石油プラットフォームへ向かう最中に見えたのが、敵チームのヘリ。
しかもあたし達に気づく様子もなく、そのままヘリを着地させようとしている。
ならこれはやるしかないでしょうと、あたし達は石油プラットフォームにボートをベタ付けして身を隠し、銃声が止んだ所で梯子を登って忍び込んだ。
それが、今に至るまでの顛末という感じ。
(ただ万が一全滅したら武器や素材を全部奪われるから、あたしは
とはいえこの様子だと、流石にしろかふかさんチームは全滅しちゃったかなと、あたしはくるるに状況を確認しようとすると。
「…………思ったより呆気なかったね」
あたしの隣で同じように待機していた、ノラちゃんことノラ・スタブルフィールドがポツリとそう呟いた。
彼女は黎明期から数々の有名タレントを輩出してきたことで知られる大手事務所、【ふたごあくと】に所属するVtuber。
茶髪のセミロングにダウナーな雰囲気を漂わせるその姿は、見た目に違わず気怠く毒のある話し方をするけど、別に悪意がある訳じゃない。
寧ろこれが自然体であることが彼女の人気の秘訣ともいえ、デビューしてたった半年ちょっとでBuetube登録者数は40万人超え。
おまけにFPSもつよつよの民。実はあたし達がDM杯の本戦で当たったチーム【チルピック】のストライカーを務めていたのも彼女だったりする。
「まー物資に夢中になってたっぽいし。こっちとしてはラッキーだったけど」
「…………じゃあ、しろかふかチームはこれで脱落かな」
「え? ――いや、それはどうだろ、流石に早計な気もするけど」
「…………いや? ここで物資を全部奪い取ったら、序盤の武器の量から考えても一気に弱体化する。後はしろかふかチームの拠点の近くに家を建てて
「ま、まあ……確かに……」
「…………そうなったらこっちから交渉して同盟という名の支配下に置く、逆らえない程度に武器だけ与えて、レイドが解禁されたら鉄砲玉にして終わり」
「は、はい……」
あまりにもスラスラと出てくるノラちゃんの情け容赦ない提案に、あたしは得も言えない気分になってしまう。
ただ――考え方的には間違ってる訳じゃない。
実際弱っている今こそ叩きのめしておかないと、この遺恨が後々の逆襲を生むのは想像に難くないし……。
なんだけど。
「…………何か不服そうだけど、おかしい点でもある?」
「えっ、いや――あんまりやり過ぎたら
「…………別に記号が騒いでるだけならどうでも良くない?」
「き、記号……」
リスナーを記号と言い切るこの度量は実に彼女らしくはあったけど、その考え方は自分には全くなかった為上手く返答出来なくなる。
(流石イケイケドンドンだった【チルピック】のストライカー……)
ただ、それは流石に同意出来ないな……と、そんな風に思っていると、ノラちゃんは心情を察したのか小さく息を付くとこう言うのだった。
「…………ま、決めるのは私じゃなく、ヒデオンさんですケド」
「ん。それは、そうだね」
どうやらモラル的な部分は置いといて、それを下すのは自分じゃないという分別はあったらしくあたしは少し胸を撫で下ろす。
(……とはいえ)
ノラちゃんはあくまでルール的に問題ないからこそ、やるべきと思い言った筈。
つまり逆を言えば、ノラちゃんの考えたことを他のチームが仕掛けてくる可能性は十分ある訳で、そうなってきた時に【同盟をしておけば……】と後悔していたらそれはそれで別の問題が出てきかねない。
それなのに。
(うーん……何でこんな抵抗感というか、嫌だなと思っちゃったんだろ)
炎上という理由で片付けるには、どうにもしっくりこないというか……。
◯
「いやー…………これはちょっとヤバ過ぎるなぁ……」
KFKは深く溜息を付くと、リスポーン地点の掘っ立て小屋に置かれたボロボロの椅子に腰をかけそう漏らした。
因みに何故こんな所にいるかと言えば、無事全滅させられたからである。
当然武器は根こそぎ奪われ、拠点に残っているのは
こんな状態では、そんな声も出るというものである。
「流石にもっと強化してから行くべきやったか……? いや違うか、そもそもちゃんと周囲を見とく人を置いておけばここまでは――」
「まあ……終わったことも悔いてもしょうがないし、ここは全員悪かったってことでまたコツコツファームするしかないんじゃない?」
「そやねんけど……ヒデオンチームからしたらここで叩かない手はないのがな」
「仕切り直してる所を擦られ続けたら、正直大分キツいよねー……」
「しかもこんな拠点ってバレた時点で尚更舐められるしなァ……」
「けどこのまま拠点に籠もる訳にも……」
そんな会話をする内に段々重い雰囲気が屋内に立ち込め始め、KFKのみならず菅沼まりんや淡路シオリのトーンまで若干落ちてしまう。
▼幾ら何でも油断し過ぎじゃないか
▼自爆にも程がある、このままじゃ負け確だろ
▼初日で終わったら流石につまらんぞ~
こうなるとリスナーの応援も様相を変え始めてしまい、怒りとも取れなくないコメントが不本意にも羅列していく。
それでも俺の所はまだリスナーが少ないのと、治安も悪くないというのがあって苦言程度で済んでいるが――イベントということもあって同接3万以上もいるKFKクラスとなってくるとそうはいかないだろう。
まずいな……どうにかこの劣勢を変える方法を考えないと。
「――ヒデオンさんチームに降伏するフリしてさ、武器を供給して貰うとかどう? それを元手に自分達でファームして、頃合見て反逆するとか」
「アリだとは思うけどー、流石に向こうも想定済みじゃないかなー? 例えば武器とかファームの何割かを上納するよう約束させてくるかも」
「他のチームと繋がるというのも一つの手やけど、こっちが弱いということがバレる要求をしたら同様に足下見られるしなァ……」
ああでもないこうでもないと、皆で頭を捻らせてみるも、明確な回答は出てこず、その間にも時間が過ぎていく。
くそ、早くしないとヒデオンさん達が――
「こうなったらどうにかヒデオンさんチームを分散させて、各個撃破に持ち込むとか――いや、向こうの面子がそんなヘマはしな――……ん?」
すると。
暫く黙って話を聞いていた神吉めるが、ピンと右手を上げていることに気づく。
一体どうしたのだろうかと、全員の視線が彼女に向いてしまっていると――大きな声を出してこんなことを言うのだった。
「め、めるが――――めるがゾンビアタックをやります!!!!」
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